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act8.桜色の蝶

 ちょうちょや ちょうちょ

 こちらに おいで

 きれいな はなには みつはない

 あまい はなには どくがある

 ちょうちょや ちょうちょ

 あちらへ こちらへ

 どこへいこうか

 どこまでも

 蝶で生まれた私の命なんて、たかが知れてる。捕食されるか、朽ち果てるか、二つに一つ。この短い命を、どう生きよう。


 森を彷徨っていると、竜族の子どもが追いかけてきた。捕まえられたら終わりだ、必死に逃げた。逃げた先には、人間の男達。絶対に捕まるものかと、逃げ切った。


 森を抜けると、海に出た。船に乗っている人も、砂浜やその近くの街にいる人も、色とりどりの貝殻を身につけていた。太陽の光に反射して輝くと、眩しくて鬱陶しくて、その場から離れた。


 また別の森に近づいていくと、寂れた祠があり、なんだか落ち着いた。祠に飾られていた花の上で羽を休めていると、ふわり、と、羽根が舞い落ちてきた。その羽根が道標のように、点々と森の方に続いていくので、気になって辿ってみると、大きな湖に出た。すると、色鮮やかな鳥達が近づいてきて、誘われるがままに付いていくと、そこは鳥獣人の村だった。私以外の蝶もたくさんいて、なんだか幸せな気分。


 鳥獣人の住む村には、とても大きな樹があり、その枝葉は、村を隠すように生い茂っていた。吸い込む空気は澄んでいて、ゆったりと過ぎていく時間が心地良い。蝶の命を終えたら、ここに生まれてきたいと思うほど、気に入ってしまった。でも、自分の命が残り僅かだと分かると、なぜか、別の場所に行ってみたいと思うようになり、名残惜しくもその場を飛び立った。


 しばらく羽ばたいていると、金色に光る霧が現れて、なんだろう?と思った瞬間、見たこともない大きなお城の前に、居た。これが瞬間移動(テレポーテーション)――――この世界のどこかにいると言われている、妖精が得意とする魔法か。せっかくなのでこのお城を見て回ろう。窓の外から中を覗いた時、鏡に、自分の姿が映り、衝撃が走った。


 (桜色のステンドグラスみたい…。)


 初めてみる自分の姿に、ため息が漏れた。ひらひらと舞うたびに、桜色の鱗粉が、まるでベールのようにゆらゆらと(なび)いた。自分の姿に酔いしれていると、庭にいた猫に見つかり、慌てて逃げ出した。猫の手が届かないようにと、なるべく高く飛んでいくと、塔の上の小部屋に、人影を見つけた。何をしているのか気になり、もっと近くで見ようと近づいていくと、長い爪がギラリと光り、こちらに向かってくるのでは?という恐怖に駆られ、お城から離れていった。


 それから、どのくらい羽ばたいていただろう。いくつもの街や村を通り過ぎ、山を越え、谷を越え、飛び続けながら、死期が近づいているのを体全体で感じていた。


 (もう、駄目なのかな…。)


 弱々しく地面に向かって舞い降りていくと、小さな手が、私を受け止めた。


 「父様(とうさま)みて!蝶をつかまえました!」

 「どれ、見せてみなさい。」

 「ほら!!」

 「なんと。綺麗な桜色をしていますね。」

 「でも、とても弱っています。」

 「蝶の寿命は、短いのです。」


 "父様"と呼ばれた人は、小さな手にいる私をそっと包み取り、しゃがんで、草の上に乗せてくれた。


 「せめて最後は、自然と共に…。」


 悲しげな表情の少年は、私を見つめた後、両手を合わせて目を閉じた。


 「命が、巡りますように。」


 そんな言葉を、蝶の私にかけてくれるなんて…。"父様"に呼ばれて、元気に返事をして駆け出していく少年。長い翠色の髪が、右に左に揺れて、まるで手を振って別れを告げているように見えた。


 草の上で、じっとして、命が尽きるのを、待った。あの少年が言うように、命が巡るのなら、次は何に生まれ変わろうか。鳥か、人か、それとも…。


 (また、同じ色の蝶でもいいなぁ。)


 "まだ生きていたい"と、意識にしがみつく気力は、ない。遠のく意識をそのままに、死を受け入れようとしたその時、誰かの、呼ぶ声がした。

 ちょうちょや ちょうちょ

 こちらに おいで

 きれいな うたには うらがある

 うまい うそには みつがある

 ちょうちょや ちょうちょ

 あちらへ こちらへ

 どこへいこうか

 どこまでも


 どこへいこうが

 わがもとへ

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