第93話 昔話
「わたしも直接は聞いていないんだけど」
「なんか、面白くなってきたな~」
「お父さんが独立する時も、結構大変だったみたい」
「え~っそうなの?」
「おばあちゃんは、寂しいことは寂しかったけど、まあ、仕方ないって感じだったらしいんだけど、おじいちゃんは、結構姑息な手を使って妨害したらしいの」
「あ~、おじいちゃんらしいな~。無駄な抵抗ってやつだな」
「うん。その時に、おばあちゃんが、さっきと同じように、自分たちのことを考えてごらんよって、言ってたんだって」
「うん。それでそれで?」
「なんでも、おばあちゃんは、高校卒業してすぐに田舎から独立して、自立して働いて、おじいちゃんと知り合ったんだって」
「うん」
「それで、その時おじいちゃんは大学卒業の歳だったらしいんだけど、おばあちゃんの家に転がり込んだらしいの」
「え~っ。じゃ、同棲??」
「うん」
「なんだよ、それ~。孫娘には、男と話すのも禁止する勢いなのに、自分は卒業と同時に同棲かよ」
「うふふ。わたしも、卒業したらいいのかな」
「相手が要るけどな」
「あ、忘れてた。笑」
「でも、それからずっとおばあちゃんはおじいちゃんの面倒見てるのかあ」
「そうだね」
「そりゃもう超大変だな」
「うん。でも、結局、おじいちゃんの一番の味方っておばあちゃんなんだよね」
「ほ~」
「なんやかんやでずっと一緒に居てるしね」
「まあそうだな」
「おじいちゃん、一人がほんとに苦手なんだよ。ずっとべたべた一緒に居る必要はないんだけど、目の届く範囲には居て欲しいって感じかなあ」
「どう見ても、杏子にはベタベタしてるけどな」
「ふふ。まあ、ずっと一緒だからね~」
そこまで話した時、杏子の部屋のドアがノックされた。
「お~い、ぱみゅ子~。紅茶淹れてきてやったぞ~」
おじいちゃんの声だ。
「あ、ありがとう」
杏子がドアを開けると、そけには祖父が紅茶セットを持って立っていた。
「ぱみゅ子がちゃんと言うことを聞いてくれたから、またまた特別な紅茶じゃ。栞代にも、特別に飲ませてやってくれ」
「うん、分かったよ」
「よし、特別に飲んでやるか」
「栞代、ぱみゅ子に変な虫が付かないように、見張っててくれ」
「変じゃない虫ならいいのか?」
「いや、どんな虫もダメじゃ」
「ふ~」
栞代は、ため息を付きながら笑った。
「ま、せいぜい頑張るよ」
「そうじゃ、いつでも紅茶淹れてやるからな」
そう言い残して、祖父はドアから出て言った。
「でも、おじいちゃん、分かりやすくて面白いよな」
「うん。でも今栞代と改めて、ほんのちょっと話しただけだけど、やっぱりおじいちゃんとはいっぱい想い出あるなあ」
「そうだろうな」
「お父さんと張り合ったり、でも肝心なところではちゃんと譲ったり」
「そうなんだ」
「わたし、自転車乗りたくて教えて欲しいって言ったら、それはお父さんの役目だって言って、お父さんから教わるように言われたもん」「
「そうなんだ」
「なんでも、自転車の乗り方を教えるのは、お父さんの特権だ、とか言ってた」
「なるほど」
「お父さんは、おじいちゃんに教えてもらったんだけど、おじいちゃんはすっごい自慢してたよ。、教え方上手だった~って」
「どこでもどんなことでも自慢なんだな、おじいちゃんは」
「ふふ。そうみたい。お父さんは全然せっかちじゃないし、何度も何度も優しく教えてくれるから、わたしはお父さんで良かったんだけど」
「そういう、何度でも丁寧なところは、杏子も、ちゃんと受け継いでるな」
「そうかな?」
「いや、そうだよ。オレに教えてくれる時も感じたけど、まゆに対しても、何度同じことを繰り返しても、一切変わらないじゃん。それ、結構大変だよ」
「そこはおじいちゃんより、おばあちゃんに似たんだなって思う。わたしはおじいちゃんに怒られたこともイライラされたことも全くないんだけど、お父さんでも、ちょっとおじいちゃん怖かったことあったって言ってたし、おばあちゃんには、もっと怒ったりしてたみたいだし」
「許せんな」
「ふふ。ほんと。でも、わたしはおじいちゃんが、お父さんやおばあちゃんに怒ってるのも、見たことないのよ」
「それはいい話だな」
「うん。あ、それでね」
「うん」
「その、お父さんの自転車の話なんだけど、これは、おじいちゃに聞いたんだけど、お父さんが練習して、始めてちゃんと乗れるようになった時、そのまま自転車で家まで乗って帰ったんだって」
「お、やるな」
「その時に、段差があって、始めての段差だから、お父さん派手にこけたんだって」
「あ~、慣れるまでは難しいもんな」
「膝小僧擦りむいて、血を出して、結構痛そうだったみたい」
「うん」
「それでも、お父さんは泣かずに家に帰ったんだって。そこで、おばあちゃんが迎えに出て、自転車乗れるようになったって報告して、おばあちゃんが良く頑張ったねって誉めた時に、お父さん、泣いたって」
「そっか~」
「で、おじいちゃんも、こけても泣かないお父さんを見て、もう胸がいっぱいだったんだけど、その姿を見て、おじいちゃんも大泣きしたって」
「良い話だな~。おじいちゃんらしい」
「うん。だから、わたしの時は、ほんとに気をつけるように、ゆっくりゆっくり教えてくれたな~」




