表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
選抜大会
92/414

第92話 猛反対劇

3月には、準公式戦とでも言うべき試合が予定されていた。光田高校所属の地区での親善大会とでもいうべきもので、男女混合の団体戦のみ行われる。男女それぞれ2人ずつ、合計4人の団体戦だ。

勝ち抜いたからと言って、県大会などはなく、この地区独自の大会である。


親善試合ということもあり、特にこの試合に向けて調節をしている訳では無かったが、一週間前からは、筋トレと平行して、団体戦の立ち順での練習が始まった。


女子は、冴子・沙月ペア、栞代・紬ペア、瑠月・あかねペアが決定していた。杏子は、1.2月と部活には変則参加ということもあって、優先順位は一番下だった。


そして、もしもまゆが参加したいと希望すれば、杏子とのペアが実現することで、そのこと自体はまゆにとっては憬れではあったが、まだまだ的中には時間が掛かるといことで、まゆ自身、来年を目標にしたい、ということで、今回、杏子の出場は見送られることになった。


ただ、このことを受けて、栞代は、杏子に一つ、来年出場するために、杏子のおじいちゃんに一度話をしてみないか、と持ちかけた。


杏子のおじいちゃんの、杏子に対する気持ちは、ある意味、杏子以上に感じていた栞代は、男女混合の試合は、おじいちゃんが絶対に許可しない、と踏んでいた。


今年は杏子の参加はなくても、来年、まゆが目標にしているのであれば、それは実現したい。そのための布石は、今年から打っておく必要があると考えたのだ。



杏子の家のリビングで、栞代と杏子が並んで座っていた。

祖父が、いつもは自信満々で入れてくれる紅茶の代わりに、今日は日本茶が出ていた。

「紅茶が悪いという訳ではないんじゃが、日本茶が健康には良い、ということなんでな。研究しとるんじゃ」

と祖父は言った。


「おじいちゃん、ちょっと改まるのも変なんだけどさ、3月に、地区の親善試合があるんだ」

「ほう」

「でさ、その試合、男女混合の団体戦なんだよね」



栞代は、おじいちゃんと話しつつ、杏子の家に来るまでの、杏子との会話を思い出していた。

「でもおじいちゃん、そんなに怒らないと思うよ。」

「いや、怒るって。怒るというか、大反対するって。杏子のおじいちゃん、ちょっとでも男の影が見えたら、大事になるぞ。」



その瞬間、おじいちゃんの表情が凍りついた。次の瞬間、ニヤリと嫌な笑顔を見せて言った。


「だが、ぱみゅ子はその試合には出ない、と」


「えっ。いやいや、おじいちゃん、杏子はうちのエースだよ? 試合に出ないなんてことある?」


「あるんだよ、それが」


おじいちゃんの声は心なしか震えていた。


「ぱみゅ子が的前に、男子と一緒に立つだと・・・・?」


杏子と栞代は顔を見合わせた。そしてほぼ同時に、「えっ?」と声を揃えた。


「男なんかと一緒に弓を引いたらな、治りかけているわしの心臓が止まるわ。ぱみゅ子、それでいいのか?  わしの友人に、孫娘が同じようなことをした奴がいたんだがな、倒れたぞ!」


「どこの知り合いだよ」栞代が小さく呟く。


「 男女が一緒にチームを組むなんぞ、不自然なこと極まりない。礼の心に反する。道に背く。イカン。絶対にイカン」


栞代は半ば呆れながら、笑いをこらえつつ突っ込む。


「おじいちゃん、それいつの時代の話なんだよ。おじいちゃんが産まれた江戸時代とは違うんだよ」


「わしゃ昭和の生まれじゃっっ」


おじいちゃんは腕を組み、ますます頑固な表情になる。そして、「ぱみゅ子がそんな試合に出るなんて、わしは許さんぞ!」と断言した。


「おじいちゃん、わたしはまだ出るって決めてないよ。でも、そんなに反対しなくても……」


杏子の声が耳に入らないのか、おじいちゃんはさらに畳みかける。


「お前が男子とチームを組むなんて……そんなことになったら、わしは……わしは、あっ、イタタタタ、心臓が、心臓がイタイ」


「おじいちゃん、おじいちゃんが悪いのは心臓じゃなくて、確か頭の血管だったよね」


栞代が思わず吹き出した。その笑い声を聞いて、おじいちゃんはさらに顔を真っ赤にしながら訴える。


「わしが言いたいのは、それだけお前を心配してるってことだ! 男子なんか鬼じゃ、獣じゃ、悪魔じゃ~~」


「あの、おじいちゃんも男だよね?」


杏子はそう伝えながらも、順調に良くなっているとは言っても興奮させたりするのは御法度。そう思いなおした。


「おじいちゃん、大丈夫だよ。おじいちゃんがダメって言うなら、出ないから」


その言葉に、祖父は安心したように落ち着いた。


「心臓の痛みは治ったの?」

栞代が少し意地悪く、笑いながら尋ねる。


「今のぱみゅ子の言葉で、全て治った」


杏子と栞代は目を見合わせた。そして、ついに堪えきれずに笑い出してしまう。


そこへ祖母がやってきて

「おじいちゃん、わたしたちがやってきたことをちょっと考えてごらんよ」


そう言われると、祖父は慌てて

「こ、こりゃ、わしの時とは時代が違うんじゃ、時代が」

と言い出した。

「今の方が厳しくなってるの?」

杏子がニコリとして尋ねる。

「そ、そうじゃ。そうなんじゃ」


今度は祖母も交えて、三人で笑った。




「な、杏子、オレの言った通りだろ?」

杏子の部屋で、栞代は杏子に言う。

「ん、まあそうだね」

杏子は呆れたような、疲れたような、それでも、特に嫌がっている雰囲気は無かった。

「来年は、まゆを前面に押し出して、それに、男子とは極力交流はない、と話を持っていかないとダメだな」

「うん。栞代、でも大丈夫だよ、きっと」

「そうか?」

「まゆを連れてきたら一発だよ」

「まあ、そうか。まゆもおじいちゃんお気に入りだもんな。男子とはイヤだろうけど、そのまゆの数少ない晴れ舞台、となるとな」

「今回も、あんなこと言ってるけど、ちゃんと頼んだら、イヤって言わないよ」

「そやろか・・・」

栞代は微妙な相槌を打った瞬間に、

「あっ、そうだ。おばあちゃんがさ、わたしたちの時のことを思い出してごらんよって言ってたじゃん。おじいちゃんとおばあちゃん、どんなだったのか、杏子は知ってるの?」

「うふふふ。それはね・・」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ