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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
選抜大会
87/414

第87話 地方審査会に向けて

1月に入ると、弓道部は地方審査会に向けた練習一色になった。2月に開催される審査会で、全員が初段を目指すことになったのだ。光田高校の弓道部は現在、段位を持つ部員がいなかったため、初段取得は部としての目標でもあった。


そんな中、国広花音が久しぶりに練習に参加することになった。推薦で大学合格を決めた彼女は、審査会を受けることを理由に道場に顔を出すようになり、部の雰囲気は少しだけ引き締まったものになった。


拓哉コーチと滝本先生は、当然のように杏子にも受験を勧めてきた。

「杏子さん、初段は取っておくべきだ。実力的には十分合格できるし、将来的にも、有利なことが多い。卒業後、他の道場で練習をしようと思うと、初段が基準となることが多い。初段を取っていないと、個人練習ができないところが多いんだ」

拓哉コーチがそう言うと、滝本先生も「そうよ。これを機に、さらに目標を高く持ってほしいの。」と優しく微笑んだ。


しかし、杏子は視線を落とし、ゆっくり首を横に振った。

「すみません。私は、審査を受けるのを辞めようと思っています」


一瞬、道場に小さな沈黙が生まれた。拓哉コーチが眉をひそめる。

「ん? どうして? 杏子さんが初段に合格できないなんて、まずそんなことはありえない。二段でも十分合格する実力はある」


杏子は、少し困ったように口を開いた。

「祖父が、反対してるんです。」


その一言に、拓哉コーチは明らかに戸惑った表情を浮かべた。

「反対……どうして?」


杏子は、言葉を選びながら説明を続けた。

「祖父は、私が他人に審査されること自体が嫌だって言うんです。特に、段位みたいに改めて試験を受けるのは、本来の弓道の精神と違うって言っていて……。もちろん、それは建前で、実際には、祖父自身、審査というものを信じていないからだと思うんですが」


拓哉コーチが驚き、滝本先生は少し困ったような顔で杏子を見た。

「それって……おじいさんのこだわりなのかしら? おばあさんはなんて言ってるの?」


杏子は小さく頷く。

「そうみたいです。でも、私自身も段位にはそこまで執着していないし、団体戦で全国金メダルが取れれば、それでいいんです。それが私の一番の目標なので。祖母は、いつもわたしの意志を尊重してくれるので」


拓哉コーチと滝本先生は困惑したが、今すぐに結論をださなくてもいい、また少しおじいさんとも話をしよう、と一旦、この話は保留になった。


その夜、杏子は祖父に段位審査のことをもう一度話してみた。

「おじいちゃん、今日審査会の話が出たよ。コーチからも先生からも勧められたんだけど・・・・・」


しかし祖父は首を横に振る。

「わしの孫娘が、他人に審査されるなんて耐えられん。あほか。

それに、段位なんてものはな、本来試合の結果を見て与えるもんだ。わざわざ審査を受けに行くなんて認められん。どうぞ、初段に、二段に、何級にあなたは相応しいから、受け取ってください、これが本来の姿じゃ。なんでわざわざこっちから出向かにゃ、ならんのだ」


祖父の言葉は頑固で、揺るぎないものだった。横で聞いていた祖母が苦笑いを浮かべながら言う。

「おじいさん、そこまで言わなくてもいいじゃない。私は二段を取ったけど、別にそんなに拘った訳じゃないし、みんなが取るから一緒にって感じだったのよ」


しかし、祖父は頑として動かない。

「ぱみゅ子はわしの大事な孫娘なんだぞ。そんな形式ばった審査に時間を割くくらいなら、わしの相手しろ」


「え~、なにそれ」


杏子は思わず吹いた。


「いつも一緒に居るじゃない」


冗談めかしているが、結構本気なんだということは杏子も分かっていた。それに、今は興奮させちゃいけない。段位がどれぐらい大事なものかは、人それぞれだろうけど、間違いなく祖父の容態の方が大事だ。


「うん、わかったよ、おじいちゃん。私は審査は受けない。団体で全国金メダルを取る、それだけを目指すから。そこはちゃんと認めてよ」


その言葉を聞いて、祖父は満足そうに笑った。


「わかっとる、わかっとる」


祖母は少し呆れながらも、静かに肩をすくめる。



「杏子、結局おじいさんの言葉に従うことにしたの?」

栞代が不思議そうに聞いてきた。


「うん、そうだよ。私も別に段位にこだわりはないし、おじいちゃんの気持ちを大事にしたいから。特に今はね」


栞代は少し驚いたように眉を上げたが、すぐに微笑んだ。

「杏子らしいな。じゃ、私は一足先に審査会行くよ。みんな行くしな。

みんなが取ったら、おじいちゃんも、やっぱり取れって言うかもしれないし」

「どうかなあ? おじいちゃん、人と比べるのも比べられるのも嫌いっていうか、全く意味ないって考えだからなあ。

「やっば変人だな」

「栞代~」

「いや、すまんすまん。みんなには、筆記テストの自信がないって言っておくか」

「もう、栞代~~」

楽しそうに笑う二人だった。

「だけど、全国優勝に向けては、一緒に頑張ろうな」

「うん、もちろん!」


杏子は自分の選択に迷いはなかった。団体戦での全国金メダル。それがすべてだ。祖父との約束を胸に、祖母へのプレゼントとして、金メダルへの思いを新たにした。



「杏子が実は取りたいって言ったら、おばあちゃんと共闘して、おじいちゃんを説得しようと思ってたんだけどなあ」

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