第85話 お正月
大晦日、家族全員揃って、なんだかようやく落ち着いた気がする。年末は本当に大変だったなあ。
歌番組を見るおじいちゃんを見て、ぼんやりそんな風に思う。
今日は、夕方から、歌番組のハシゴ。毎年だ。は音楽が好きで、昔流行った曲、今年流行った曲、いちいち評価を、感想を言う。誉めてる時はいいんだけど、なんか変なコンプレックスが入っているから、イケメンの男子が歌うと、点が辛い。
そうすると、おばあちゃんが、黙って見てって怒る。誉めてる時は何も言わないから、手厳しい批判の言葉が嫌いなんだなあ。
お父さんも音楽が好きなんで、時々毒を吐いては、おじいちゃんと盛り上がってる。
毎年の風景。いつまでも続いて欲しいなあ。ぼんやりと眺めながら思う。
あのグループはお母さんが嫌い、あの人はお父さんが嫌がる、この人はおじいちゃんがボロカス、おばあちゃんはどんな音楽でも悪く言うことはないけど、スピッツさんは家族全員で好きだから、スピッツさんが出てくれれば家族全員で盛り上がれる。
家族平和のために、スピッツさんは、毎年どっかに出て欲しい。
わたしはなぜか昭和歌謡が好き。おじいちゃんとおばあちゃん、昭和歌謡だと想い出話と共に盛り上がって楽しいから、その時間が好きなのかも。
年が明けた瞬間、弓道部のみんなのグループLINEで盛り上がったあとは、栞代と長電話した。3日の日には遊びにくることを決めて、居間に戻って、みんなと話ながら、いつのまにか、眠ってた。
元旦の朝、私を起こしたのは、おばあちゃんの優しい声だった。
「杏子ちゃん、朝ごはんの準備ができたわよ。」
布団から顔を出すと、お雑煮のいい香りが漂ってきた。台所では、おばあちゃんとお母さんが軽やかに話している声が聞こえる。なんだか、それだけで幸せな気持ちになった。
いつもと変わらない家族の風景があった。お父さんは新聞を広げていて、おじいちゃんは炬燵でぬくぬくしている。私を見るなり、みんなが「おめでとう」と笑顔で返してくれた。
「明けましておめでとう!」って挨拶した私が、一番元気だったかもしれない。
ちゃぶ台の上には、おばあちゃんが作ったおせち料理がずらりと並んでいた。どれもすごくきれいで、食べるのがもったいないくらいだ。
「今年も健康で楽しく過ごそうね。」お母さんの言葉に、お父さんも頷きながら言う。
「そして、杏子も夢に向かってしっかり頑張るんだぞ。」
「うん!」と私は元気よく返事をした。みんなに見守られている感じがして、心がじんわりと温かくなる。
食事が終わると、炬燵でくつろいでいるおじいちゃんが、小さな封筒を取り出した。
「はい、ぱみゅ子。これ、おじいちゃんからのお年玉だ。」
思わず「ありがとう!」って声が弾けるくらい嬉しかった。
その後、お父さんも封筒を渡してくれた。
「お父さんからもね。勉強と弓道に使うんだぞ。」
二つの封筒を胸に抱きしめながら、「大事に使うね」と言った私の顔は、きっとすごく嬉しそうだったと思う。
昼過ぎには、押し入れからトランプと人生ゲームを引っ張り出してきた。
「やろうよ、みんなで!」と提案したら、全員が快く応じてくれた。最初はババ抜き。
おじいちゃんが、ペアが揃っていないふりをしてお父さんにカードを取らせようとしているのを見て、私は大笑いしてしまった。
「おじいちゃん、絶対今ズルしようとしたでしょ!」
「バレたか。」おじいちゃんはしらばっくれるけど、みんなの笑い声は止まらない。
大富豪、いや、大貧民だって、どーでもいいことを、おじいちゃんとお母さんが揉めながらゲームする。このゲームは5人でするのがベストだって常々おじいちゃんが言ってた。全員が役に付けるから。えっ。平民の人は役がないよって言ったら、平民という役があるじゃろ、とおじいちゃんに言われた。
このゲームはおじいちゃんが強い。口八丁で、はったりを言ったかと思えば手堅くあがる。わたしとおばあちゃんがいつも貧民争い。正直者には、ツライゲームだよ。
次は人生ゲーム。私は何度も結婚マスに止まって、冗談半分にこう言った。
「おじいちゃんみたいな人と結婚するって決めてるんだから!」
そのたびにおじいちゃんが大笑いして、手を叩いて喜ぶ。
まー、サービスしてあげないとね。
「ぱみゅ子、今年はえらいこと、サービスがええの~」
お母さんは「いいから、もっと現実的な目標を持ちなさい」って笑うし、お父さんは「その話、俺の前ではやめてくれ」って困った顔をしていた。
結局、最後は私が大逆転で一位になった。おじいちゃんが感心してた。
人生ゲームはあんまり戦略は関係ない。ルーレット運が大きい。
こういうゲームは、おばあちゃんとわたしが強い。
日頃の行いがいいからなんだろうなあ。笑
「戦略が立てられんっっ」
おじいちゃんがぼやいてたけど。
夕方、炬燵でうとうとしているおじいちゃんに、そっと毛布を掛けた。穏やかな寝顔を見ていると、胸がじんわりと温かくなってくる。
心の中で私は呟いた。
「こうしてみんなで笑い合えることが、一番の幸せだね。」
その夜、みんなで居間に布団を並べて敷きつめて寝た。笑い疲れた家族の顔を見ながら、私もすぐに眠りについた。
お正月に家族全員が揃うのは、たった数日だけ。でも、それだけで十分だ。家族って、やっぱり大切だなって思えた元旦だった。




