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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
選抜大会
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第81話 退院

朝の光が薄く射し込む病室で、杏子は祖父母と朝食を囲んでいた。今日は祖父が退院する日だ。再発の心配はまだ完全には消えていないものの、退院は間違いなく嬉しいものだった。


祖父はいつもの調子で、「病院の飯なんて味気なくてやってられん!」とぼやく。

杏子は少し呆れつつも、「それは我慢しなくちゃ。おばあちゃんの料理のほうが健康的で美味しいから、帰った時の楽しみにしててね。」と宥めた。


祖母が持ってきた手作りの朝食を一緒に食べると、祖父にも少しおすそ分けした。代わりに祖父の病院食をもらって食べてみた杏子は、その味に顔をしかめる。

(これは確かに、文句も言いたくなるね、おじいちゃん)と心の中で苦笑した。



食事を終えると、祖父は嬉しそうに呟いた。

「退院したら、何をしようかな~」

その無邪気な声に、杏子は釘を刺す。

「おじいちゃん、安静にしなくちゃダメだよ」

「しかしなあ、じっとしてるだけでは身体が弱ってしまうぞ」

「先生が言ってたでしょう?最初はゆっくりって。散歩にはちゃんと付き合ってあげるから。」


「ほ~。それは楽しみじゃな。いやあ、たまには調子を崩すのも良いもんじゃな」

「おじいちゃんっ!そんなこと言うなら、お散歩付き合ってあげないっ」

祖父の楽しい気持ちは分かるが、倒れたという連絡を聞いた時の気持ちを少し思い出した。絶対に無理させちゃダメだっ。あらためて杏子は決意した。


祖父の相手をする杏子を横目に、祖母は退院の準備を進めていた。

(わたしが言っても全然聞かないのに、杏子の言うことならすぐに聞くんだから。)祖母はそう呆れながら、やっぱり困ったときには杏子に頼るのが一番だと改めて感じていた。

ふと、そういえ昔も同じことを思ったことがあった。全然言うことを聞いてくれないから、息子に頼んだっけ。息子の言うことは良く聞いてくれたから。

全然変わらない風景に、少し微笑んだ。


退院の準備を進めていると、まゆがきてくれた。少し身体が不自由で杖が必要な彼女は、荷物の整理をしている様子を見て、手伝いを申し出るものの気後れした様子で、「わたし、かえってじゃまになるかな……?」と不安げにつぶやく。


杏子はその言葉に即座に首を振り、

「そんなこと絶対にないよ、まゆ。ずっと側にいてくれて、どれほど心強かったか。助けてくれて本当にありがとう」と涙ぐんだ。


その姿を見たまゆは「おじいちゃんに見られるよ」と小声で冗談めかしてささやきながら、杏子の涙をそっと拭った。杏子は感謝の気持ちを抑えきれず、まゆをぎゅっと抱きしめた。


不満を言うと退院が遅れるのかと思ったのか、祖父は医師の診断も注意も大人しく頷き、退院の手続きは滞りなく進んだ。


退院した祖父を迎えるため、家では母が準備を整えて待っていた。

家に着くと、祖父母と母、そして杏子が揃ってまゆにお礼を伝える。

「本当にありがとう、まゆさん。」祖母と母が深々と頭を下げた。


大人たちの中で、ずっと一緒に居てくれたまゆに、杏子もどれほど助けられただろう。

「いえ、そんな……」まゆは真っ赤になりながら困ったように微笑んだ。


昼食を皆で囲み、和やかな時間を過ごした。

祖父もお礼に、自慢の紅茶を入れた。まゆは「いつまでもこの美味しい紅茶を飲ませてください」そう書いたノートを見せた。

その後、母はまゆを家まで送り届けることになった。「まゆ、ありがと。またねっ」と杏子は車を見送りながら、もう一度笑顔で手を振った。


昨夜病院で泊まった杏子は、まゆを見送ると、シャワーを浴び、少し休むことにした。安心感と疲れが重なり、杏子はすぐに眠りに落ちた。


 夕方近くになり、杏子は玄関のチャイムの音と、母が呼ぶ声で目を覚ました。

 

 少し寝ぼけ眼のまま居間へ行くと、そこには栞代が立っていた。栞代は杏子の母に初めて会うので、少し緊張しながらも丁寧に挨拶をした。


栞代は一人で訪ねてきたという。ほかの弓道部のメンバーたちも祖父の顔を見たがっていたが、とりあえず今日は栞代が代表で来ることになったらしい。

 

 そして、その分みんなからの手紙を預かってきたと、どっさりと封筒を差し出す。おじいちゃんの分も杏子の分もあるから、ゆっくり読んでな。と言って差し出された手紙を見て、杏子の胸には温かい思いが広がった。


「それとさ、心配してた麗霞さんとアナスタシアさんからもあるよ」

「え~~っ」

ちょっとしたサプライズに、杏子は心底驚いた。


杏子が手紙を受け取ると、祖父もリビングに姿を現した。

その時、祖父が深く頭を下げた。退院の時の、明るい様子とは打って変わって神妙な態度でこう言った。

「栞代。本当にすまなかった……わしが倒れたせいで、ぱみゅ子が戻ることになり、試合に出られなくなってしまった。本当に申し訳ない。もし杏子が居ればと思うと。みんなに迷惑をかけてしまった」


声が震え、重たい気まずい空気が流れる。


「いやいや、おじいちゃん何言ってんのよ。まずは退院おめでと。大変だったな。普段と変わらない様子でまずは安心したよ。」


それで、と一呼吸おいて、栞代は続けた。

「おじいちゃん、そんなことないって。おじいちゃんだって、わざと倒れた訳じゃなし、本当に大変だったんだから。誰もそんなこと責めちゃいない。

だれもそんなこと思ったりしてないよ。むしろ、杏子の抜けた跡を埋められなかったこっちが申し訳ないと思ってるんだ。おじいちゃんはなにかい、わたしが頼りなかったって怒ってんの?」


「い、いや、そんなことはちっとも思っとらん。」


「でも、結局その言い方は、そういう意味だと思うぞ。だって、杏子の穴を埋められなかったのは、オレだもん。もしオレが杏子と同じ成績をあげられたら、杏子も気にしなくてすんだだろうしさ」


「栞代、全然違うよ」


「ああ。まあな。やっぱり、この結果は、杏子を含めた部員全員のものなんだよ。団体戦ってやつは、団体戦に出場したメンバーだけの結果じゃない。それはあくまで代表で、結果は全員で受け止めるべきなんだ。そうだろ?


「う、そ、そうじゃな。」


「だから、そこはちゃんと誉めてくれよ。瑠月さんも冴子先輩も、どれほどおじいちゃんのこと心配しながら、頑張ったか、分かるだろ。あかねも沙月先輩もずっと祈ってたんだから。いつもまゆと一緒にいるあかねが、まゆを杏子のところに、おじいちゃんのところに残したことも、意外と決心いったと思うぞ」


「もちろん、それはみんなよくがんばった。お礼しか言えん」


「ほんとにみんな心配して、そして安心したんだ。だれも杏子が居たら、なんて思ってるやつはいねーよ。みんな杏子と同じ気持ちだったんだから。杏子の欠場を嘆くのは、弓道部全員で受け止めるし、結果的にオレが頼りなかったってことだしな。オレの方がそこは痛感してるよ。次を見ててくれよ」


「いや、それは違う」

祖父が少し言葉に力を込めた。


「そんな思いをさせてしまったことも含めて、ほんとにすまん」


「だから、そうじゃないって。むしろみんなで燃えたんだから。瑠月さんも、冴子先輩も、めっちゃオレに気を使ってくれたしな。また、今度二人にも、言葉をかけてやってくれよな。心配してたんだから。

結果は全員の責任。だからこそ、杏子も、ずっと自分のことだけじゃなくて、部員みんなと一緒に練習してんだから」

そこまで言ったあと、栞代は口調を強くした。


「でもさ、これからは別だぞ。ちゃんと節制するんだぞ。暴飲暴食なんてしてみろ。杏子は許しても、オレは絶対に許さないからな。オレは杏子と違って甘くないからな」


言い終えると、栞代は我に返ったように

「あ、ごめんなさい。生意気なこと言っちゃって」

と祖母と母に向かって頭をさげた。


「いいのよ。栞代ちゃんが言ってくれないと。

むしろ、よく言ってくれたわ」

「杏子、いい友達が居るわねえ。紹介が遅いわ」と、祖母が言ったあと、母が続いた。


「栞代、ありがと」

今回のことで、少し涙もろくなった杏子は、またも胸に熱いものが込み上げ、涙を浮かべる。栞代はそれに気づくと、そっと杏子の肩を抱き寄せ、涙を拭った。

栞代は、杏子が祖父の前では涙を見せたくない、という思いを知っていた。


「ま、ところで、杏子、これは杏子の分だぞ」

そう言って、栞代は3位の銅メダルを出した。


「えっ。いや、わたし、受け取れないよ」

と杏子が言うと、

「いやいや、杏子に絶対にこのメダルを渡したいって、最後の3位決定戦、みんなで燃えたんだ。だから、受け取ってくれ。そもそも杏子はメンバーだから、当然受け取る権利あるしな」


そう言って、杏子の首にメダルをかけた。

杏子はその気持ちに、また涙を流しそうになった。


「今度クラブにくる時は言ってくれよ。記念写真撮らないとな。」


栞代はそう言いつつ、祖母に向かい、

「でも、おばあちゃんは全国で2位ですもんね。あらためて、おばあちゃんの偉大さがわかりました。もう、めちゃめちゃいろんてことがありましたから」と明るく言った。


夕食のあと、祖父が、紅茶を入れた。

それは変わらず、とても美味しかった。


「おじいちゃん、この紅茶最高、いや、最&高だよっ」

と栞代が言った。続けて


「ずっと飲ませてよな」

とまゆと同じことを呟いた。


「わしゃ、紅茶だけかいっ」

祖父はおどけたように言ったが、栞代が

「何言ってんだ」と、いいつつ、祖父の頰に手を伸ばした。

「あ、あ、あ、それはやめてくれ~」

と祖父が言ったので、部屋は笑いで包まれた。


杏子が、もしおじいちゃんが変なことを言った時は、と教えてくれていたのだ。


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