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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
選抜大会
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第79話 選抜大会その2(団体戦)

会場は緊張と熱気に包まれていた。選抜大会の団体戦準決勝。対戦相手は全国優勝候補の筆頭、鳳城高校。

練習試合で鳳城を破ったという話で世間を賑わせていた。光田高校は、そのときのメンバーから、つぐみ、杏子を欠いた穴を埋めるべく全力で挑んでいたが、準決勝という大舞台でのプレッシャーは想像以上だった。


拓哉コーチが慎重に考え抜いた立ち順は、瑠月の冷静さと冴子の安定感、そして栞代の勝負強さと、競技は違うが、中学時代の全国大会の決勝戦の経験を信じたものであり、この三人で挑む事こそが現在の光田高校の最善の選択であり、最強のメンバーである自信を持って選抜大会に送り出していた。


一人4射を3人、12射、光田高校と鳳城高校が互いに一歩も譲らない展開となった。


練習試合とはいえ、光田高校に負けている鳳城高校の気合は物凄いものがあった。ここ数年、どんな試合でも無敗を誇っていたのだから、それも当然といえた。


光田高校は瑠月が4本皆中、冴子と栞代がそれぞれ3本ずつの計10本を的中させた。鳳城高校も、圓城と的場・ナディア・ヴィクトリア・アナスタシアが1本ずつ外し、光田高校と並んで10射。静まり返る会場の中、競射へと突入した。



第一射目:2-2の同中

瑠月の放つ矢は、静寂の中を音もなく飛び、見事に的を射抜いた。冴子も続くが、栞代が外す。その冷静な射型に、拓哉コーチが小さく頷く。

鳳城高校も負けじと正確な射を続け、圓城花乃だけが外す形で2-2の引き分けとなった。


第二射目:またも同中

「集中」

瑠月が外したあと、冴子が自分に言い聞かせるように心で叫ぶ。会に入る。そして、正確に的中させた。一方で、栞代は少し硬さを感じる動作だったが、なんとか的を捉えた。


鳳城高校も圓城が挽回したが、的場・ナディア・ヴィクトリア・アナスタシアが外し、またしても2-2の引き分けとなる。緊張の糸が張り詰めた状態が続く中、三人の額に汗が滲んでいた。



第三射目:そして決着へ


三周りめの競射が始まる。瑠月が再び的中。しかし、次の冴子の矢は、わずかに的を外れた。冴子を見た栞代は、無言のまま深呼吸する。


「自分の射をすればいい。」

そう心で唱えた栞代だったが、矢はわずかに的を外れた。


強い。


いろんな思いを背負ってきた光田高校のメンバーは、気力、体力とも限界だった。だが、限界まで戦ったとも言えた。。


拓哉コーチは胸を張り、拍手を送った。


光田高校の準決勝敗退が決まった。


鳳城高校はここにきて、全て的中させていた。




準決勝が終わり、会場には試合の余韻が漂っていた。不動監督は一人、光田高校のもとへ足を運んだ。その姿を見た拓哉コーチは、わずかに疲労の色を浮かべながらも、不動監督を迎え入れた。


「素晴らしい試合を、ありがとうございました。」

不動監督は深く頭を下げる。その態度に、拓哉コーチは、まさに尊敬し、学ばせていただいている、お手本があると思った。


「こちらこそ、ありがとうございます。」

拓哉コーチも一礼し、不動監督の言葉を待った。


「一ヶ月前の練習試合のことを、覚えておられますか」

不動監督が静かに切り出す。その口調は淡々としているが、言葉の中には確かな感謝の色が滲んでいた。


「もちろんです。あれは……我々にとっても大きな試合でした」


不動監督は短く頷き、言葉を続けた。「あの時、我々が光田高校さんに敗北したことは、部員たちにとって厳しい現実でした。春の練習試合のように舐めてた訳じゃない。真剣そのものの勝負だった。けれども、それがあったからこそ、彼女たちは再び足元を見つめ直し、努力を重ねることができた。今日の試合に至るまで、緊張感と覚悟を持って準備を進められたのは、あの敗北のおかげです。」


拓哉は、不動の目がわずかに柔らかくなったのを感じた。対戦相手への敬意を込めたその言葉に、心の奥で尊敬せざるを得なかった。


「お礼を言わせていただきたい。そして、もう一つ……。」

不動監督は少し言葉を区切り、目線を落とした。「今回の試合に黒羽詩織を入れなかったことについてです。礼を重んじない者を、私はこのチームの一員とは認めない。どれほど彼女が優れた射手であろうと、それが我々の精神に反するものであれば、戦力として加えるつもりはありません。」

黒羽詩織は、個人戦には出場して、雲類鷲麗霞と最後まで優勝を争った、実力的には鳳城高校のナンバー2だった。


「……覚悟の上だったと。」

拓哉が静かに問いかけると、不動は短く頷いた。


「たとえこの決断で敗北し、責任を問われるとしても、一切の後悔はありません。勝利よりも大事なものがある。それを教えてくれたのは、他でもない光田高校との試合でした。」


その言葉を受け、拓哉は一瞬、感慨深げに目を伏せた。不動監督は、練習試合の時に活躍した、光田高校の両エース、つぐみと杏子、二人を欠いていたことは関係ないと伝えているんだろう。もちろんだ。そのことを言い訳にするつもりは一切ない。


そして、しっかりと不動の目を見据えて答える。


「練習試合と違い、つぐみと杏子が欠けた状態であったことは、結果には一切関係ありません。今日の光田高校にとっては、これが最高のチームでした。そしてその最高のチームで挑んで敗れた――それだけのことです。」


不動の目が一瞬鋭さを増したが、すぐにその瞳には深い敬意が宿った。「そうおっしゃる拓哉コーチの信念には、ただただ頭が下がる思いです。また、だからこそ、恐ろしくも思っています。次に戦う時には、ぜひまた同じように――全力で挑ませてください。」


「もちろんです。その時は、こちらもさらに強いチームでお迎えします。」

拓哉の声には、静かな闘志が込められていた。


不動監督は一歩後ろに下がり、ふと表情を和らげた。「そういえば……杏子さんのおじいさまのこと、お伺い致しました。気になっておりました。容態が安定されたと伺い、心から安心しました。」


拓哉はわずかに目を見開き、そして微笑みを浮かべた。「ありがとうございます。杏子には辛い状況ですが、彼女は必ず乗り越えるでしょう。」


「ええ、間違いありません。そして……次こそは、杏子さんが戻った光田高校と戦わせてください」

不動の声には、熱い期待が滲んでいた。やはり心の中では、光田高校に杏子が居れば、今日の結果はどうなっていたか分らない、という思いがあった。


「楽しみにしております。その時は、互いにさらに高みを目指して」

拓哉コーチは、伝えた。


不動監督は深く一礼し、静かにその場を去っていった。拓哉は彼の背中を見送りながら、自身の中に新たな目標が芽生えるのを感じていた。



準決勝でおしくも敗北を喫した光田高校。つい先日の練習試合での結果とは逆になってしまった。公式戦での鳳城高校の強さ、はもちろん桁違いではあった。


だが。つぐみのみならず、杏子まで欠いた布陣で、よくここまで戦った。戦えた。


拓哉コーチは、自らの教え子の健闘を、立派な戦いぶりを誇りに思った。

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