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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
選抜大会
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第77話 病室でのクリスマス

祖父の症状は、小康状態を保っていて、倒れた、とは思えないほど元気でもあった。検査の結果も特に問題といえるものはなかった。


だが、発症後数日は、やはり安静が必要なため、気にはなったものの、光田高校の弓道部の選抜大会の試合のネット中継を見ることは止められていた。


今日は、個人戦が行われている。


ただ、終わった時の結果だけが、あかねから送られていた。


祖父も、気にはなっていた。その瞬間瞬間のストレスは良くないが、結果が気になりすぎるのも良くないということで、試合経過は見ないが、速報は伝える、ということになった。


「わし、ぱみゅ子が射ってなかったら、ぜ~んぜん平気なんだけどね~」

「でも、瑠月さんのことは気になるでしょう?」

「ん、まあそうじゃな」


なんて会話が何度も繰り返されてきた。


お昼ご飯を食べてしばらくした時、

祖父はふと思い出したように、

「そいえば、勝ち進めば、鳳城高校の、あの、めちゃくちゃ美人の人とあたるんじゃよな。いや~、もうすっかり平気なんじゃよ~、試合中継見たいな~~」

たまたまその時、杏子が部屋に居ない時だったので、まゆに頼んでみたのだ。


それを聞いたまゆは、静かにノートをだして、

「今の発言は、杏子に報告します」

と書いておじいちゃんに見せた。


「う・・・・・。いや、その・・・・まゆさん、そ、それは」

と言いよどんでいた瞬間に、杏子が戻ってきた。


ノートを見た杏子は、具体的なことは分らなかったが、手を祖父の頰の方に延ばした。


「い、いや、ぱみゅ子~~、ちょっと美人の人を見たいと言っただけなんじゃ~、許して~」

「鳳城高校の麗霞さんのこと?」

「そうそう、その麗霞さん」

「おじいちゃん、言っておくけど、鳳城高校の団体戦には、今大会、的場・ナディア・ヴィクトリア・アナスタシアさんという、ロシアの人とのハーフの女の子が居て、この子がまた、もうめちゃくちゃ綺麗なのよ」

と言うと、まゆがノートに書く余裕もなく、

「杏子~、あおっちゃダメじゃんっっ」

と顔をまっ赤にして呟いて、笑った。


「おじいちゃん、今は我慢して早く治したら、いつでも見られるよ」

杏子が言うと

「いや、今見たら、すぐに治るかもしれんよ~」

とシツコイので、今度は実際に頰に手を触れた。

「ひょ、ひょえ~」

とあわてて祖父は逃げる。

「それに、今日は個人戦だから、どっちにしろ、アナスタシアさんは出場しないわ」


「ま、ほら、きゃりーぱみゅぱみゅ様かけたげるから」

と杏子は言って、祖父が作った、きゃりーぱみゅぱみゅのプレイリストを流した。

「きゃりーぱみゅぱみゅ様聞いたら、なんでもすぐに良くなるんでしょう?」


「まあ、このために個室にしてるみたいなもんだからねえ」

と横で祖母が呆れたように呟いた。


とはいえ、個室でないとできないことも本当に多かった。

祖父は意外と慎重なタイプでもあり、充実した医療保険に入っていたことが良かった。

起きている時は、音楽を聞きながら、読書したり、まゆが作ったなぞなぞを解いたりして時間を過ごしていた。


一人が苦手な祖父だったが、目の届く範囲にさえ居れば、あとは一人でも時間を潰すことは平気だったので、杏子とまゆは、机を持ち込んで、勉強や弓の姿勢の確認など、意外と充実した時間を過ごしていた。

祖母も、二人が居てくれるので、家に帰っては掃除や、杏子とまゆの分のお弁当などを作っては病院と行き来した。


夕方には、まゆが帰るため、杏子は、病院の外まで見送った。ちゃんとタクシーに乗ったことを確認し、病室に戻る。


昨日は二人して病室に泊まったが、今日はどちらが泊まるか相談した。祖母も杏子も自分が泊まると言い張り、その頑固さが祖母譲りな杏子も一歩も引かなかった。


仕方ないので、年の分だけまろやかになった祖母が譲り、帰宅することになった。杏子の、祖父を一人にしたくないという気持ちを察した祖母は、病室から一人で出て行った。


「ちゃんとタクシー使ってよ」

杏子が声をかけると、祖母は優しく微笑んだ。


ふと、今日はクリスマスイブだったことを杏子は思い出した。

クリスマスには、毎年本当に楽しい想い出しかない。


サンタクロースの伝説は、だから今も信じてるよ、おじいちゃん。

ずっと夢を守ってくれててありがとう。

杏子はいつも自分の欲しいものを全力でリサーチしては贈ってくれるおじいちゃんに、今でもとても感謝していた。

そしてそれは、今もずっと続いていた。


「ぱみゅ子、退屈じゃないかい?」

「全然だよ、おじいちゃん。今、瑠月さんに、4位おめでとうってLINEしてるんだ」

「そか~。瑠月さん、夏以降、めちゃくちゃ上達したんじゃな~」

「うん。瑠月さん、勉強も凄いし、弓道もすごいし、おまけに美人だし、優しいし。いーなー」

「ぱみゅ子も可愛いから、安心しろ」

「問題は、おじいちゃんしかそう言ってくれないことなんだよね~」

「それの何が問題じゃ?」


もうすっかりいつもの二人に戻っていた。数値も安定していた。

薬もきちんと飲んで、二人は眠った。


翌朝、杏子が起きると、枕元に、毎年置かれている、リボンでくるんだ箱がおいてあった。


「え?」


杏子は驚いた。訳が分らない。

慌てて開封すると、そこには、伝統的な牛角製の、ぎり粉入れが入っていた。

わたしが欲しかったものだ。しかも、杏子の名前入り。

一緒に入っていた、カードを開けるとそこには、


Hyvää joulua.

Kaikki Kyoko-chanin toiveet toteutuvat!


と書いてある。杏子は慌てて、アプリで翻訳してみた。


メリークリスマス。

杏子ちゃんの願いは全部叶えます!


杏子は意味が分らなかった。

慌てておじいちゃんを見るが、いっぱい繋がってる管もそのままだし、動いた形跡はもちろんない。


ずっとおじいちゃんを見つめていると、おじいちゃんが気がついた。


「ん? ぱみゅ子どうしたんじゃ? あんまりかっこいいから、おじいちゃんに見とれていたのかい?」


「うん、そうなの」


「え? いや? その・・・?」

思ってもみない返答におじいちゃんは慌てたが、そこはおじいちゃん、すぐに

「大きくなったら、お嫁さんになりたいんじゃな。その言葉を聞くのも久しぶりじゃのう」

と続けたが、杏子はその言葉は無視して、


「おじいちゃん、これ見て」

と言って、プレゼントと、カードを見せた。


「ほほ~。サンタさんからのプレゼントじゃな。ぱみゅ子はいい子じゃからの~、今年も来たんじゃな~。良かったな~」


「いや、だから、誰がここに置いたの? おじいちゃん動けないし。まさか、おばあちゃんが、夜こっそり忍びこんできたの?」


「ぱみゅ子は不思議なことを言うな」


「え?」


「クリスマスのプレゼントは、サンタさんが持ってきたに決まってるじゃないか」

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