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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
選抜大会
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第70話 選抜大会直前

冬の冷たい風が吹き抜ける道場では、光田高校弓道部が全国選抜大会に向けて練習に励んでいた。


「さて、立ち順の確認行こうか。」

部長の冴子がリーダーシップを発揮し、三人の立ち位置を確認する。大前に瑠月、中立に冴子、落ちに杏子――全国大会ではこの順で挑むことが決まっていた。


「杏子ちゃん、杏子ちゃんって、鋼の神経だと思ってたけど、こうして実際に一番最初に射つと思うと、相当緊張するわね。今まで杏子ちゃんの背中を見て、杏子ちゃんのいつもの姿を見て安心してたから」

瑠月が杏子に声をかけた。

「そこで、必殺技ですよ、瑠月さん」

杏子に変わって、栞代が声をかける。

「考えるのは、姿勢のことだけ、あとはたまたま、ですよ」

栞代が、杏子のセリフを取り、雰囲気を和らげた。


杏子は小さく頷きながら、自分の経験を語った。

「高校に入ってから、ずっと大前をやってたけど、最初は正直怖かったです。でも、どこでも弓を引けることが嬉しいし、楽しい。一番最初に幸せになれて申し訳ないぐらいで」


瑠月は改めて、杏子の強さの秘密を一端に触れた気がした。。

「そうなんだね。一射目で流れが決まるって言うし、責任が大きいってそればっかり思い込んでた。楽しいだなんて。でもそうだな。無心になれないなら、楽しまないとね」


「大丈夫ですよ。もしも瑠月さんが外しても、冴子先輩がカバーしてくれますよ」

栞代が軽く冴子を見る。冴子は少し表情を固くしたが、

「まま、まあな」

「それに、もしわたしがダメでも、杏子がちゃんとカバーしてれるだろ」

そういって杏子をみると、杏子は不思議そうな顔をして、

「わたし、考えることは姿勢のことだけにしてます」

と、本気なのか冗談なのか分らない表情で応えた。

「杏子、あなたはなんてオソロシイ子」

と栞代が付け加えて、全員が微笑んだ。



「冴子さん、私はずっと二番目を担当してたから、立ち順のことで何か聞きたいことがあればいつでも聞いてね」


冴子が瑠月に呟いた。

「二番目って、特に杏子の後って、その流れで打てばいいんだ、なんて簡単に考えてたけど、流れを崩さないって、それを思うと、それはそれでプレッシャーですね。」

「さっきの冴子さんの言葉じゃないけど、むしろそうして軽く考えることも大事よ。それに当たってるし。杏子ちゃんの安心感はハンパ無かったから。わたしもそうなれるように、落ち着いて弓を引くわ」


「そう思うと、立ち順にはそれぞれの難しさとプレッシャーがあるんだな」

冴子は自分の言葉を噛みしめるように呟いた。


栞代がすかさず

「杏子、杏子は始めての落ちだけど、心構えはどうなの?」

と聞くと、杏子はまた、先程と同じ表情で、同じ言葉を繰り返した。

「わたし、考えることは姿勢のことだけだから」


「杏子、あなたはやっぱりオソロシイ子」

と栞代が応え、全員が笑った。


予備メンバーである栞代は、ムードメーカーであろうと努めながらも、自分の練習にも力が入っていた。


「栞代、調子どう?」

杏子が声をかけると、栞代は真剣な表情のまま矢を放ち、見事に的を射抜いた。


「うん、悪くないかな。でも、もし全国大会で交代が必要になったら、足を引っ張らないようにしたいんだ。それに、オレが調子が良いことが、チームを支えることになるだろ」


「大丈夫だよ、栞代なら絶対に役目を果たせる。」

杏子の励ましに、栞代は小さく笑って答えた。

「ありがと、杏子。オレも自分にできることを全力でやるよ。」

つぐみが居なくなってしまい、その場所に自分が入れなかったのは悔しくて仕方がない。だが、冴子さんのプレッシャーもハンパないだろう。


なんせ、つぐみを擁して、あの鳳城高校に勝つ、という最高の結果を出した。もし全国で負けたら、冴子さんは相当責任を感じるだろう。

だけど、絶対にそうはさせない。オレは直接は助けられなくても、瑠月さんと杏子が絶対に支えるはずだ。



練習が終わると、部員たちはそのまま集まり、期末試験の勉強会を始めた。道場に隣接している部室にテーブルを並べ、教科書やノートを広げる。


「いや~、やっぱり部室は暖かいね~。最低限しか暖房機具を入れない拓哉コーチって、鬼だね。それとも、心が冷えきっているから、寒さを感じないのかな。でも、考えたら、夏の暑さも平気そうたったよね。もしかして人間じゃないんじゃじゃね。サイボーグとか?」

あかねが軽口を叩いていると、その後から拓哉コーチが

「心頭滅却すれば火もまた涼し。明鏡止水、堅忍不抜、その心構えが、弓だけじゃなく、勉学にも現れるんだぞ。文武両道。気合をいれて」

「ひょえ~。気配が無かった~~。ターミネーターじゃなくて、忍者だった」

あかねがいつものように明るく軽口を叩き、部室は笑いに包まれた。


「沙月、この問題なんだけど?」

冴子が不安そうに数学の問題を指差すと、沙月は首を傾げて言った。

「うーん、ちょっと待って。瑠月さん、助けて!」


瑠月が隣にやってきて、さらりと解説を始める。

「ここはこの公式を使えば簡単に解けるよ。」


「さすが瑠月さん!」

沙月と冴子が拍手をすると、瑠月は照れくさそうに笑った。


一方、まゆも静かにノートを開きながら、あかねや杏子に分かりやすい図解を見せていた。

男子部員が教えて欲しそうにちょろちょろと視線を彷徨わせていたが、すべてあかねがシャットアウトしていた。


「まゆ、本当に分かりやすいノートだな。自分も見やすいだろうけど、オレが見ても本当に見やすい。ノートを作る時の心構えの差だな!弓道だけじゃなくて、勉強もほんとに頑張ってる。すごいな」


「みんなが頑張ってるから、私も少しでも力になりたいだけだよ。」

いつものノートの画面には、付箋が張ってあった。

まゆが微笑むと「頼りになるなぁ」と感嘆の声を上げた。


コーチの拓哉も滝本先生も積極的に、指導を加える。

「勉強も弓道と同じだ。基本を押さえて、繰り返すことが大事なんだぞ。」


滝本先生も厳しい顔をしながら、言葉には優しさを滲ませてこう言った。

「みんなで協力して、勉強も練習も全力でやり遂げて。全国大会も期末試験も、両方結果を出すわよ。」


クラブの結果を出している中、勉強のことも注目を集める。そんなプレッシャーの中、なんとか期末試験は終わった。


全員手堅く結果を出し、クラブ活動制限の対象になる赤点誰も取らずクリアした。


「さあ、あとは、全国で結果を出すだけだ」

冴子が、覚悟を込めて宣言する。


選抜大会への準備が進む中、杏子は自分の弓道具を丁寧に確認していた。

祖母が修繕してくれた弓具を手に取り、祖父が使っていた弽を、そして、そっと胸当てを撫でる。


「おばあちゃん、ありがと。つぐみは居なくなっちゃったし、多分手ごわいライバルになると思うけど、おばあちゃんに金メダル、絶対に持ち帰るよ」


光田高校弓道部は、初の、全国制覇の有力校として、選抜大会に向けて出発した。



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