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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
63/414

第63話 杏子宅での祝勝会

杏子の家の食卓は、つぐみの優勝を祝う賑やかな声で満たされていた。

祖母は、つぐみの快挙を心から喜び、優しく微笑みながら次々と料理を勧めた。「つぐみちゃん、本当にすごいわね。おめでとう」


「ありがとうございます、おばあちゃん!でも、杏子に勝てたのは奇跡みたいなものです!」つぐみは箸を置き、明るい声で答えた。


その隣でおじいちゃんがむくれた顔をして文句を言い始めた。「うーむ……しかし、ぱみゅ子が負けるとはのう……わしとしては納得がいかん!」


杏子が苦笑いしながら「おじいちゃん、それはつぐみが強かったからだよ」と窘めると、つぐみがすかさず言葉を返した。

「そうですよ!おじいちゃん、もっと褒めてください!だって、杏子に勝ったんですよ?」


その言葉におじいちゃんは一瞬だけ唇を尖らせたが、すぐに笑顔を浮かべ、場を盛り上げるように声を張り上げた。「よしよし、つぐみ!優勝おめでとうじゃ!でも、次はぱみゅ子が勝つからのう!覚悟せい!」


その場にいる全員が笑い出し、賑やかな会話が続いた。つぐみはその輪の中心で、いつも以上に明るく、はしゃいでいた。その様子を見て、杏子は純粋に「優勝が本当に嬉しいんだな」と思っていたが、その裏にあるつぐみの思いには気づいていなかった。


食事が終わり、いつものようにおじいちゃんが紅茶を入れてくれた。

「今日の紅茶はまた特別じゃぞ。優勝記念紅茶じゃ。本当はぱみゅ子のために用意したんじゃが、まあ、それはまあ、いいわい」

口を尖らせるおじいちゃんに、みんな思わず笑う。


つぐみが話しだす。

「でも、正直なところ、杏子が少し乱れていたのは思っていたよ」

「え? そう? 乱れてた? 自分では全然わからなかった」

栞代は、つぐみもやっぱり気がついていたのか、と思った。そりゃそうだろうな。あれだけ杏子と競い合ってきたんだから。

「だが、ほんの少しだ。もしも杏子が常に完璧なら、誰も杏子には勝てないよ。麗霞だって、完璧な杏子には勝てないと思う。だが、やっぱりなかなか完璧にはなれないのが人間だからさ。」

「うん、まあそうだよね」

「杏子が人間だった分かって安心した」

「え~、じゃあ、今日のつぐみはターミネーターだったんだね」

「いや、ほんとにそうかもしれない」

聞いていた栞代も思わず笑い声をあげた。

「でも、それでも嬉しいんだ。少しでも乱れたら、杏子に勝てるほど、わたしはがんばってきたんだなって」

「つぐみ、いいこと言うじゃないか」栞代がそう言うと

「いや、ほんとにそうなんだ。あの程度の乱れでも、杏子に勝てるのは、そうはいないと思う。」

「つぐみ、ちょっと誉めすぎじゃない?」

杏子が照れるが、続けて

「いや、ほんとにそう思う。今日は勝ったけど、勝ってなお、杏子の強さを、いや、正直に言うと、恐ろしさを感じたよ」

「やだ~、ターミネーターはつぐみの方だったじゃない」

三人で声を出して笑ったが、栞代は、つぐみの言いたいことが分かったような気がした。そして、本当に嬉しかったんだな、と。

祖父が横で

「わしが見に行ったのが良くなかったのかのう?」と少しいじけたことを言ったので、栞代が

「全くカンケーないから、安心しろ。全く、妙なところで弱気になるんだから。」

と、いつもの調子でまぜっかえした。


「ところでさ、来週、鳳城高校との練習試合だってな。中学の時はもっと練習試合やってたのに、光田高校の練習試合ってほんと少ないな」

「そう言われたら、そうだな。夏も県大会、ブロック大会優勝したんだから、練習試合の申し込みがあってもおかしくなのよな」

「わたしが言うのもナンだけど、多分みんな杏子が見たいと思うんだよね。でも、杏子はまだまだいろんな意味で弓道の体力がないから、コーチが躊躇してるんじゃないか」

「でもつぐみ、杏子ほど練習してるやつ、多分日本で居ないぞ」

「練習はな。やはり試合となると、独特の経験が必要だからな。今までは、ほんとに純粋に試合に迎えたけど、今日みたいに、気持ちが揺れる、そういう経験も必要だよ。私が言うのも、アレだけど、杏子にはいい経験になったと思う」

「つぐみが言うか。でもまあ、実際にそうかもな」


弓道についての話には、ついていけないこともあってか、おじいちゃんは杏子を捕まえて、どうでもいい話をしていたが、それも杏子の気持ちを整えるには、十分な効果があった。


いつものように、おじいちゃんの車で送ってもらう時、玄関先で、祖母から、

「つぐみちゃん、本当におめでとう。今日のつぐみちゃんは凄かったわ。勝ちたいという思いが綺麗に昇華して、オーラも漂ってたぐらい。今日のつぐみちゃんには、誰も勝てなかったと思う。でも、張りつめすぎないでね。続かないし、辛くなるから。いつでも、なんでも話してね」

そう言って送り出して貰った。


とにかく、杏子に勝った。これは、つぐみにとって、大きな自信になる結果だった。

そして、来週は、中学の時から憬れ続けた雲類鷲麗霞との試合だ。

さらには、その試合には、杏子と、そしてこの半年で著しい成長を見せた瑠月さん。最高のチームメイトで挑む練習試合。今までで最高のチャンスだ。


二人を送って行き、入浴したあと、祖父が入浴している時、杏子は祖母と二人、茶の間で話をしていた。


「おばあちゃん、今日は私、弓を引くのがすごく苦しかった。」杏子は静かに口を開いた。


祖母は湯飲みを手に取りながら、優しく目を細めた。「そうね……見ていて辛そうだったわ。自分を追い込まなくてもいいのよ。」


「でも、おばあちゃん、私はいつも『正しい姿勢を考えるだけ』って言い聞かせてきた。それなのに、今回は、それさえも上手くいかなかった。」


杏子の声にはとばあちゃんの言う通りに弓を引けなかった悔しさがにじんでいた。祖母はそっと彼女の手を握り、穏やかに言った。

「姿勢のことだけを考えるのが、辛いと思ったら、きっと、ほかに何か気になっいてることがあったのよ。無理やり抑えたら、気づいて~ってその思いが出てくるのは当然なのよ。

無視しておじいちゃんみたいにイジけたら、もう大変なんだから。ちゃんと気がついてあげないと。だから、無理やり押さえ込むんじゃなくて、どんな気持ちを抑えているか、少し考えてみるのもいいかもね。気がついて~って思ってるのよ、抑えられてる気持ちさんが」

そして、

「杏子ちゃん、どんなときでも自分の弓のことだけを考えるのは、決してワガママや傲慢なんかじゃないのよ。それが、相手への最大の尊敬につながるんだから。」


杏子は頷きながら、「言葉としては分かってるの。でも、それを心から信じるののかどうか……まだ難しいのかな」と、絞り出すように答えた。


祖母は静かに微笑み、「大丈夫。無理だって分かったら、別にしなくてもいいんだから。絶対にしなければならないことなんて、一つもないのよ。なんでも自由に決めていいんだから。自分がどんな風にやりたいかだけ。きっと杏子ちゃんならいつか分かるときが来るわ。大丈夫よ。結果はほんとにたまたま、なんだから。それだけは絶対かな」と優しく伝えた。

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