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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
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第58話 冴子と沙月

新人戦を目前に控えた弓道部では、全員が練習に熱中していた。道場の空気はいつにも増して張り詰めており、部員たちの中にもピリピリとした緊張感が漂っていた。


その日の全体練習後、冴子と沙月は道場の片隅から繋がっている道具室で弓の手入れをしていた。いつもの気楽なおしゃべりをしていた。


道場では、まだ、一年生全員が居残り練習をしている。


「…なんか、思い出すよね。」沙月が弓を磨きながら呟いた。

冴子は手を止め、沙月の方をちらりと見た。「去年のこと?」


「うん。どのクラブに入ろうか悩んでたら、滝本先生に誘われてさ」

「そうだったわね。沙月、いや、せっかくの高校生活、部活動は真剣にやりたいからって断ったんだよね」

「うん。だってあの時、弓道部は学校で一番楽な部活動って言われてたしね。なんなら遊ぶための部活だって。そしたら、滝本先生が、今年から生まれ変わるのよって。その最初のメンバーになって全国を目指してみないって」

「そうそう。そしたら、沙月のチャンレンジ精神に火がついたのよね」

「さすがに滝本先生って感じだったわ。くすぐり方を知ってたわ~」

「でも、沙月、本当はそのあとの、イケメンのコーチも来るからって方に惹かれたんでしょ」

「え~、やだ~、それは冴子の方じゃないの」

二人は声を殺して笑った。


でもすぐに二人は真顔になり

「いや、でも、イケメンはイケメンだったし、決して怒らない怒鳴らない、一見穏やかなコーチだけど、コーチが来てから地獄みたいな基本練習が始まって、みんな次々に辞めていったよな」


冴子は苦笑いを浮かべながら頷いた。「確かにね。体力トレーニングもそりゃキツかったけど、あの基本練習、素引きの反復練習はキツかった。私も何度かやめようかと思ったよ。でも沙月が『ここまで頑張ったんだから負けたくない』って言ってたから、続けられた気がする。」


沙月は少し照れたように笑った。「それを言うなら、私だって冴子がいなかったらやめてたかも。あの基本練習、ほんと退屈でキツかったよね。」


「でもさ、去年の新人戦の地区予選、花音さんとわたしと沙月で突破した時は嬉しかったなあ」

「コーチを信じて練習してたら間違いないって思えたもんね」


「確かにね。今年はインターハイの予選突破したし、滝本先生の言葉通りだった。ただ、杏子の入部が大きかったよね」

「拓哉コーチの連れてきたつぐみとのペア、あの二人だと、マジで全国制覇狙えるもんな」

「その分、新人戦のレギュラー争いが激しくなったよね」

「私たち、二人とも落ちるかもしれないし、入るかもしれないし、片方だけになるかもしれないけど、とにかく、全力で頑張ろうな」

「ええ。もちろん」

「それに、瑠月さん、インターハイ予選のころから、めちゃくちゃ上手くなったよな」


二人は顔を見合わせて頷いた。


「瑠月さんが入ってきたときのこと。覚えてるでしょ?入学が二年も遅れてきて、みんな『なんで?』ってざわざわしてた。でも、実際の理由を知ったとき、なんかすごく胸が苦しくなった。」


冴子は頷き、瑠月が最初に道場に来た日のことを思い返していた。家庭の事情で入学が二年も遅れ、年齢的には上だが、周囲からの視線や質問に対して一人で耐えていた瑠月。その孤独を最初に打ち破ったのが冴子だった。


「あのとき、冴子の何気ない一言が、瑠月さんを支えたと思うし。あとで瑠月さん自身、どれほど救われたかわかんていって感謝してたしね。」沙月が微笑む。


「まあでも、遊びに来てる人たちと違って一緒に退屈な練習してたし。一緒に乗り越えたいと思ったんだよ。それは花音先輩もそうだよね。花音さんも、同級生の中で一人だけ練習する、というのもまた違う苦しさがあったんだと思う。」冴子は静かに答えた。


沙月はその言葉に大きく頷いた。「その瑠月さんと花音さんが仲良くなったのは当然だったのかもね。でもほんと、いろんなことがあったよね。」


話が一段落し、静寂が訪れる中、冴子がポツリと言った。「…なんかさ、こうして振り返ると、私たちも随分遠くまで来たよね。」


「だね。」沙月は冴子を見て微笑みながら言った。「でも、これで終わりじゃない。新人戦、やれるよ。去年は予選突破が目標だったけど、もう全然状況は変わった。今年は本気で全国でも勝てるって思ってるもん」」


冴子も笑みを浮かべながら、立ち上がった。「そうだね。せっかくここまで残ったんだから、勝ちにいかないとね。」


その言葉に、沙月が強く頷く。「よし、じゃあ明日も頑張ろう!私たちがまずチームを盛り上げないと!」


瑠月を支え、互いに励まし合ってきた二人だからこそ、次の新人戦でのチームの躍進を胸に誓い合うのだった。


「とにかくメンバーに入らないとな」

沙月が力強く言った。

「遠慮はしないから」

「当たり前よ」


新人戦の予選出場のメンバー選考は、もう目前だった。

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