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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
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第579話 『合宿初日の朝と、アンナの見た夢』

夏の朝。街がじりじりと気温を上げながらゆっくりと動き出す。

杏子の家の台所には、トントントンという軽快で心地よい包丁の音が響いていた。今日は祖父も手伝っている。


いつもの散歩の時間に起きてきた杏子と栞代にとって、今日はいよいよ夏合宿の初日だった。


「おばあちゃん、いつも朝早くから食事の準備、大変だよね。ありがとう」

杏子が自分のエプロンを締めながら声をかけると、祖母は火加減を見ながら目元を優しく細めた。

「あら。私はこうして料理を作るのが大好きなのよ。みんなの『美味しい』って言ってくれる笑顔が、私の毎日の元気の源なんだから」


そこへ、「ふわぁ……」と目をこすりながら真映、楓、滴、あまつの四人が入ってきた。

「大奥様、ご隠居、おはよーございます……あ、私たちも手伝いますっ!」

全員が手分けをして、人数分のおにぎりを握り、卵を焼き、出汁の効いた味噌汁の香りを広げていく。


「キョウコー、オハヨー!」

最後に、ソフィアとアンナが起きてやってきた。アンナはエプロン姿の杏子を見つけるなり、キラキラした目で話し始めた。


「Tiedätkö… minä näin unta! Minä, Sofia ja Kyoko… me voitimme kilpailun!」


「杏子とアンナとわたしで、優勝する夢を見たんだって」

ソフィアが優しく通訳すると、真映がすかさず身を乗り出した。


「アンナ! そこにこの『ローズ真映』も加えるのだっ!」

「アンナちゃん、私も参加したいな。優勝チームのメンバーに!」

「私もよ、アンナちゃん。みんなで勝ちたいね」

楓が続き、滴がしゃがんで優しくアンナの小さな手を握る。


ソフィアからの通訳を聞いたアンナは、大きくコクリと頷いて叫んだ。

「Joo! Mennään kaikki mukaan! Tulevatko mummo ja ukkikin mukaan?」


「『みんなで一緒に。 おばあちゃんとおじいちゃんも、一緒に優勝する?』って言ってます」


「がははは! ばあさんとわしまで優勝メンバーか! こりゃ、絶対に負けられんなぁ!」

祖父の笑い声が、台所いっぱいに広がった。



朝食を終え、祖父の朝の散歩を兼ねて、全員で歩いて中田先生の道場へと向かった。

そこにはすでに、普段の休養日とは全く違う、ピリッとした「プロの空気」が満ちていた。


拓哉コーチの傍らには、五人の臨時コーチたちが、それぞれの役割を背負って立っている。


リーダー格の神矢は、緊張した面持ちで拓哉と話している。

データ解析担当の稲垣は、一華とタブレットを囲んで、これまでのデータと今後の課題の照合を始めている。

ムードメーカーの草林が、到着した部員たちに明るく挨拶を繰り返している。


「あまつさん、おはよう。状態良さそうだね」

スカウトを兼ねる大和コーチの声に、インターハイメンバーであるあまつは礼儀正しく、丁寧に自信を伝える。

「はい。ありがとうございます」


神矢と拓哉は、一華と部長の杏子を呼び寄せ、最終的な練習計画のスケジュールを確認している。


「おはよーっす! 合宿初日、気合入れてきましたー!」

朝から「へそ出しファッション」全開の葡萄と、彼女に無理やりおしゃれをさせられた、少し恥ずかしそうな苺だ。


コーチ陣が、その光景に一瞬目が点になる。

「……おい拓哉。あの子が噂の……?」

神矢が絶句して拓哉の脇腹をつつく中、中田先生が道場の奥から大笑いしながら現れた。


「がはは! 葡萄さん、おはようさん。……神矢君、彼女が次代の光田高校を支えるエース候補の葡萄さんや。驚きなさんな。中身は真っ直ぐな竹やで」


「あ、アンナちゃん、おはよ! これ、持ってきたんだ」

葡萄はコーチ陣の視線など気にせず、アンナに可愛い服を手渡した。アンナは大喜びでそれを受け取り、葡萄と「イェーイ!」とハイタッチを交わす。


「……よし。じゃ、ウチらも着替えてきまっす!」

葡萄は臨時コーチたちに向き直ると、見た目とは裏腹に、過剰なほど礼儀正しく綺麗な挨拶を済ませ、一気に更衣室へと向かった。


「……なるほど。確かに、芯は通ってそうだな」

神矢が、嵐のように去っていった葡萄の背中を見て、感心したようにポツリと呟いた。


全員が弓道着に着替え、ピンと張り詰めた空気の中で整列した。

拓哉コーチが、厳しい顔で部員一人ひとりの目をゆっくりと見て、話し出す。


「レギュラーメンバーは、インターハイ本番まで残り少ないが、各自それぞれ秋の新人戦に向けた目標があるからな。……少なくとも、この合宿期間中の指導体制は、間違いなく今の日本でトップレベルだ」


拓哉が、背後に並ぶ五人を示す。

「……あとは、お前たちが積み上げてきたものを信じるだけだ」


続いて、中田先生が前に出た。

「ま、ぼちぼち行こか。『正射必中』なんて言葉、耳にタコができるほど聞いたやろ。そやけどな……悲しいかな、それしか言うことないんや。単純なことこそ、一番奥が深くて難しい。これも耳タコやな」

先生の短い笑いに、部員たちの極度に強張っていた肩の力が、ふっと抜ける。


各臨時コーチからの一言挨拶が続き、最後に、光田高校弓道部部長として、杏子が前に立った。


「……皆さんに支えられて、今日という合宿の日を迎えられたことに、心から感謝します。……よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!!」」」


「Yoroshiku onegaishimassu!(ヨロシクオネガイシマッス!)」

アンナが元気よく続いた。

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