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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
573/581

第573話 『ギャル葡萄の洗礼と雷様』

夏の眩しい陽光を反射させながら、祖父の運転する車が、中田先生の道場へと続く砂利道をゆっくりと進んできた。

エンジンが完全に止まるより早く、道場の入り口から三つの影が勢いよく飛び出してくる。


「ご隠居! 親分! 若頭! おはようございますっ!」

一番乗りの真映が、いつもの威勢のいい声で助手席の窓をコンコンと叩く。後ろには、一年生の楓と滴の二人が「部長、おはようございます!」と、ビシッと背筋を伸ばして控えていた。


「おお、早いな。ほれ、これを縁側まで運んでくれ」

祖父がトランクを開けると、そこには先ほどまで杏子の家の台所で格闘して作った、重箱やパンネケーキがぎっしりと詰まっていた。

「うわっ、重っ! これ、全部おにぎりとマカロニなんちゃらっすか!?」

「マカロニ・ラーティッコや。フィンランドの家庭料理じゃ。こぼさんように注意して運んでや」

三人は「ラジャーっす!」「失礼します!」と、まるで国宝の宝物でも運ぶように重箱を大切に抱え、道場の中へと消えていった。


杏子がアンナの小さな手を引き、ソフィアと共に、縁側でお茶を飲んでいた中田先生の元へ挨拶に向かった。


「中田先生、明日からの合宿、そして今日も場所を貸していただき、暫くお世話になります。妹のアンナも、今日から見学を……」

ソフィアが丁寧に頭を下げると、中田先生は柔和に口角を緩ませ、アンナの視線に合わせて少し腰を落とした。

「かまへん、かまへん。アンナちゃん言うんか、えらい可愛い金髪のお嬢ちゃんやなぁ。全然似てないけど、どこか杏子と初めて会った時の雰囲気と似てるな。

騒ぐのは大歓迎やからな、ケガだけ気をつけて、好きに遊びや」


「中田御大、話分かりますなあ! さすがっす!」

重箱を置きに戻ってきた真映が調子よく茶化すと、中田先生はふいっと表情を戻し、眼鏡の奥から鋭い視線を向けた。

「さーて。真映さんは、そんな余裕見せて、午後からの稽古で騒げるほど体力が残るかねえ?」

「えっ……せ、先生……今日はまだ完全休養日の自主練、というかただのランチパーティーですやん……!」

その見事なカウンターのやり取りに、道場内はドッと笑いに包まれた。



栞代がテキパキと部員たちに指示を出し、縁側に大きなブルーシートを広げてお弁当の準備を進める中、ひときわ異彩を放つ人物が現れた。


日本の女子高生ギャルファッションの権化、葡萄である。

中田先生はすでに彼女の奇抜なスタイルを見慣れているため、涼しい顔で「おはようさん」と返すだけだったが、アンナにとっては、刺激的な初見だった。


「……Vau!(ワア!)」

アンナが目を丸く見開いて、葡萄に駆け寄る。

今日の葡萄は、完全休養日の私服ということもあり、いつにも増して気合の入った「へそ出しファッション」だった。ショート丈の鮮やかなTシャツと、そこから惜しげもなく覗く健康的なウエスト。


「おねえちゃん、おへそ! おへそ出てるっ!」

アンナが大喜びで指差すと、葡萄はキラキラにネイルの施された指で得意げにピースを作った。

「お、アンナちゃん、これ? ジャパニーズ・カワイイの基本っしょ」

葡萄がソフィアに「フィンランドではこういうの、どうなんですか?」と尋ねると、ソフィアは苦笑いして答えた。

「そうね……夏は短いから、日光浴のために開放的な格好をする人もいるけど、街中でここまで『気合』が入っている人は、なかなか居ないわね」


「アンナちゃんも、この服着てみよっか? わたしの小さいころの服、まだあると思うよ」

葡萄の悪魔の提案に、アンナは目を輝かせて、後ろにいる杏子を振り返った。

「Kyōkoも、一緒にしよ〜っ! お揃いっ!」


「……え、わ、私……っ!?」

部員たちから一斉に好奇の視線を浴び、杏子は顔を真っ赤にしてボンッと湯気を出し、深く俯いた。

あの部長が、へそ出しルック?……その想像だけで、周囲からどよめきと謎の拍手が沸き起こる。楓と滴は複雑な表情だ。


「あかん、あかん!! 絶対に、絶対にさせんわいっっ!!」

そこに猛然と割って入ったのは、仁王立ちになったおじいちゃんだった。


「アンナちゃん! お揃いにしたい気持ちはよくわかる。じゃがな、日本には、恐ろしい教えがあるんじゃ!」


おじいちゃんはソフィアに真剣な顔で通訳を頼み、アンナの青い目を見つめて神妙に語り始めた。


「アンナちゃん、いいか、よくお聞き。日本には昔から、『(かみなり)(さま)』という恐ろしい神様が雲の上に居るのじゃ。おへそをな、出して歩いている時に雨が降ってゴロゴロと鳴ると……雲の上からその『雷様』が降りてきて、その出ているおへそをポンと取って食べてしまうんじゃ! だから、おへそは服でしっかり隠しておかんといかんのじゃよ!」


ソフィアの的確な通訳を介して、アンナの顔に驚きと不安が広がる。

「え……雷様、おへそ食べるの? 痛い?」

アンナは恐る恐る、目の前にいる葡萄の健康的なおへそを覗き込んだ。

「じゃ、葡萄は? 取られてないよね?」


そこには、傷一つない、ピカピカに手入れされた葡萄の美しいおへそが堂々と鎮座していた。

「……ん?」

アンナが、矛盾に気がついて不思議そうに小首を傾げる。

祖父は滝のような冷や汗を流しながら、無理やりな理論を絞り出した。


「ぶ、葡萄はんはな、もう大人やから、雷様が来ても、さっと服で隠す高度なテクニックを持っとるんや!」


その瞬間、アンナの顔がパッと明るくなった。

「じゃ、Kyōkoも大丈夫だね! Kyōko、もう大人だもん! わたしはおっきくなるまで待つかなあ」


「……っ!!」

完全に藪蛇だった。


「う、、、そ、その、、よしっ! 分かった! それなら……わしがするっ! わしがへそを出して歩いてやるわいっ!!」

そう叫ぶなり、祖父はおもむろに自分のポロシャツの裾をまくり上げようとした。


「「そ、それだけは絶対にやめて〜っっ!!」」

栞代と葡萄が真っ先に叫んだ。

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