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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
569/581

第569話 『夜の凱旋と、教頭先生の裏技』

国道を北上し、光田高校弓道部を乗せた大型バスが正門をくぐったのは、予定の到着時刻よりも少し遅れた、完全に日が落ちてからのことだった。


「あ……見て、門のところ、まだ明かりがついてる」

窓の外を指差したあかねの声に、疲れ果てて泥のように眠っていた部員たちが「ん……」と目を擦りながら、一人、また一人と顔を上げる。


校門のところに、数人の教師たちが集まっていた。その中心にいたのは、大きな白い模造紙を両手にもって高く掲げていた教頭先生だ。


クラブ活動への理解も深く、彼にとってこの日のブロック大会での凱旋は、自分の教え子たちが成し遂げた、我がことのように誇らしい快挙そのものだった。


『祝・ブロック大会、優勝旗奪還!』

太い黒マジックで力強く書かれたその文字が、夜の街灯に照らされて白く浮き上がっている。


「……あれ? ちょ、ちょっと待て!」

バスのドアがプシューと開き、まず男子部員たちが誇らしげにぞろぞろと降りてくると、教頭先生がハッとして血相を変えた。どうやら、優勝した女子が先に降りてくると踏んで用意していたらしい。


教頭先生は慌てて、二枚重ねにして裏側に隠していたもう一枚の模造紙を慌てて表に出した。

そこには『祝・ブロック大会 男子団体3位!』の文字が書かれていた。


「あはは! 教頭先生、慌てすぎやって!」

男子たちが照れくさそうに笑いながら、先生たちの温かい拍手を受けていた。


その微笑ましい様子をバスの中から見ていた拓哉コーチが、ニヤリと笑ってあかねとソフィアを手招きして呼んだ。

「よし、これ持って。二人が先頭に立って」

手渡されたのは、あの重厚な真紅の優勝旗だ。

あかねとソフィアが旗を高く掲げてバスのステップを一歩外へ踏み出すと、待っていた教師たちからの歓声と拍手は、一段と大きくなった。


先に降りていた山下たち男子部員も、咄嗟に左右に分かれて列を作り、即席の「花道」を作る。

二人の後ろに、優勝カップや楯を持った女子部員たちがゆっくりと続く。

最後に、まゆの腕を両側から優しく支えながら、杏子と栞代がゆっくりと降りてきた。


「おかえり! みんな、本当によくやったな、おめでとう!」

教頭先生の声が、感動で少し上ずっている。

真映が手際よくバスのトランクから出して広げた車椅子に、まゆをそっと座らせると、教頭先生が駆け寄ってきた。

優勝旗、立派な楯、カップ、そして賞状。一つずつ先生方の手に渡され披露されるたびに、スマートフォンのフラッシュが焚かれ、夜の校庭が一瞬、昼間のような明るさに包まれた。


「光田の歴史に、また一つ、大きな一ページが君たちの手によって刻まれた。……本当に、おめでとう。君たちの血のにじむような努力は、我々教師陣にとっても、大きな誇りだ」

教頭先生の温かく力強い言葉に、男子部長の山下が照れくさそうに胸を張り、女子部長の杏子が深く一礼して、「ありがとうございます。先生方の応援のおかげです」と、短く感謝の言葉を述べた。


その後、一行は夜の道場へ向かった。

勝利の興奮と熱を少しずつ冷ますように、いつものルーティンに従って、弓や道具類を丁寧に片付けていく。

今日の喜びを静かに、ひとつひとつ丁寧に扱いながら分かち合う。そして、道場の隅々まで全員でほうきがけをし、掃き清める。

それが終わると、男女に分かれて部室でのミーティングが始まった。


「いいか。この瞬間、もうブロック大会は終わった」

拓哉コーチの声は、いつになく低く、鋭かった。

「お前たちが今日手にしたのは、夏のインターハイとは一切関係ない。これから、このブロック大会とは全く別の大会に挑む。……今からは、全国総体に向けて、全員がチャレンジャーとして全力で取り組む。まだ見ていない景色を見なければならないんだ。……浮かれていられるのは、今日、今この瞬間までだぞ」


一華が、明後日から始まる「夏合宿」の分刻みの予定表を、無表情で配り始めた。それを見た部員たちの顔が、一斉に険しくなる。

「明日は最後の完全休養日です。各自、絶対に無理をせず、明後日からの合宿に向けて体調と精神を整えておくようにしてください」

一華に続いて、コーチが宣言した。

「……解散!」


「……はぁ、やっと帰ってきた」

栞代の、少し疲れた声と共に、二人は杏子宅の玄関に着いた。

すでに夜も更けている。今日は早くお風呂に入って泥のように眠ろう。

そう思って、杏子が「ただいまー」と玄関を開けた瞬間だった。


「Kyōkoっ! Okaeri! Omedetouオメデトウ!」


弾丸のような勢いで、小さな金髪の影が廊下の奥から飛び出してきた。

「わっ……!? ア、アンナちゃん!?」

驚きで目を丸くして尻餅をつきそうになる杏子の腰に、アンナがギュッと力いっぱいしがみついた。その後ろから、祖父母とエリックが笑顔で顔を覗かせている。


「あはは!」

そのあまりにも素早い熱烈な歓迎に、後ろにいた栞代が吹き出す。

「今までの『杏子ガチ勢』の中で、アンナが一番積極的やな。こりゃ、明日もゆっくり休めそうにないぞ」


そんな栞代の声を聞きながら、杏子は満面の笑みでアンナの頭を優しく撫でた。


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