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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
567/579

第567話 『車椅子の表彰式』

帰りの大型バスは、夕闇に包まれた街を静かに走っていた。

車内に響くのは、エンジンの低い唸りと、極度の重圧から解放され、高揚感の余韻に浸っている部員たちの絶え間ない話し声。

団体戦に出場した女子メンバーの首には、鈍く光る金メダル。そして、激闘を制して三位に食い込んだ男子メンバーたちの胸元には、悔しさと誇りが入り混じった銅メダルが輝いている。


窓の外を流れる景色を見つめながら、誰もがついさきほどの、あの眩い表彰式の光景を反芻していた。


『団体戦優勝、光田高校。……代表、前へ』


アナウンスに応え、部長の杏子がゆっくりと車椅子を押し出した。その上に座るのは、感極まって泣きすぎて、すでに真っ赤な目をしたまゆだ。

光田高校を代表して、表彰状を受け取るまゆの震える背中を見て、後ろに並んだ栞代が、横にいるあかねにしか聞こえない声でボソリと囁いた。


「……いい作戦だろ。車椅子を両手でしっかり押してりゃ、さすがの杏子も自分の袴の裾を踏んでコケないだろ」

「ちょっと、栞代。あんたそれが狙いだったわけ?……ほんと、ブレないね」

あかねが、涙ぐみながらもクスクスと肩を揺らして笑う。


続いて、優勝旗があかねの手へ渡された。歴代の覇者たちの高校名がずらりと刻まれたペナントの重みに、あかねは「うっ」と息を呑み、瞳に熱いものが込み上げた。

杏子たちが一年生の時に初めて取った優勝旗。これを自分たちの代で奪還することができて、本当に良かった。


大きな優勝カップを掲げるソフィアは、その美貌と相まって、まるで勝利を告げる北欧の女神のように誇らしく見えた。

そして、立派な木製の楯を受け取った紬は、こんな大舞台でも相変わらずの「完全無敵の無表情」を貫き通し、それが逆に会場の温かい笑いを誘っていた。

最後に、金メダルがぎっしり詰まった重い箱を栞代が受け取り、光田の「完全優勝」が確かな形になった。


その頃、観客席では。

杏子の祖父が、嬉しさのあまり見たことも聞いたこともない「ヘンテコな踊り」を披露していた。ついさきほどまでは、ことあるごとに祖父を力技で抑え込んでいた真映も、今ばかりは止めなかった。どころか、ノリノリで一緒にステップを踏み始めていた。

「これが光田の歓喜の舞、ですよね! ご隠居!」


怪しすぎる老人と女子高生のダンスだったが、そこに小さなアンナが「わーい!」と無邪気に加わった瞬間、それは世界で一番微笑ましい「勝利の舞」に変わり、ソフィアの両親も腹を抱えて大爆笑していた。


表彰式が終わり、光田高校の関係者が集まった会場の外の広場。

優勝旗もカップも一旦全員の手に渡り、その感触を十分に味わった。

後輩たちは、これを必ず護り続けると誓い、最後は嬉しそうな滝本顧問と、クールを装う拓哉コーチの手に預けられた。


まゆの両親が、車椅子を押していた杏子のもとへ駆け寄る。

「杏子さん。本当に……まゆを弓道部に受け入れてくれて、ここまでずっと支えてくれて、ありがとう。あの子のあんなに輝く姿を見られるなんて」

「いえ、その、私が表彰式でコケないための対策らしいです。栞代によると」

最高に感動的な場面で、斜め上のことを言う杏子に、まゆの両親は優しく笑顔を見せながら首を振った。


「いいえ。『あかちゃん』も家で言っていたのよ。杏子さんが光田にいなかったら、自分たちはどうなっていたか分からない、今の自分はないって」

「お、おばちゃんっ! もうその『あかちゃん』って呼び方、やめてってばー!」

顔を真っ赤にして本気で抗議するあかねに、周囲からどっと笑いが起きる。


ソフィアの両親、遅れて到着したあかねの両親も、次々と光田の誇る「宇宙人」の元へ挨拶に訪れた。


そんな和やかな喧騒の中、紬だけは一人、少し離れた場所で静かに俯き、手元のスマホの画面を握りしめていた。

栞代は、紬の両親は共働きで忙しく、今日の試合には来られないと事前に聞いていた。

「……紬。親御さん、夏のインターハイ本番には来てくれるんだろ?」

と、気遣うように尋ねた。紬は顔を上げ、いつも通りの抑揚のない無機質な声で答えた。


「……それは、私の、課題では、ありません」


一見すると冷たい拒絶の言葉。だが、一年半付き合ってきた栞代は、そのアドラー心理学の言葉の中に、「両親からの祝福のメッセージを読んでいた不器用な喜び」が微かに滲んでいるのを、確かに感じ取っていた。


「メダル授与式、今から、自分たちでやりましょうよ。……親分」

真映が、ニヤリと笑って杏子に提案した。

杏子は「そ、それじゃ、拓哉コーチ……お願いします」とメダルの箱をコーチに渡そうとしたが、真映が素早く間に割って入って阻止する。


「いや、ここは、光田をここまで引っ張ってきた親分から、みんなの首にかけるべきです。ねえ、みんな?」

部員全員が力強く頷く。拓哉コーチも「俺は重い箱を持っててやる」と、いつものクールさを隠しきれず、少し嬉しそうな顔をして横に並んだ。

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