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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
566/582

第566話 『宇宙の景色と、祝福の張り手』

対戦相手の千曳ヶ丘高校、主将・つぐみ。

彼女の姿もまた、完璧だった。四射皆中。打倒・光田、打倒・杏子に燃える彼女の情熱と執念は、間違いなく高校生としての至高の位置に辿り着こうとしていた。


だが、つぐみは一射ごとに、自分の背後に流れる光田の「深すぎる静寂」に、自分の心が少しずつ削り取られていくような感覚に陥っていた。


(……なんなの、この空気は。なんで、あいつら……あんなに幸せそうに引いてるの?)


つぐみが、必死に爪を立て、血を流しながら登ろうとしている険しい頂上で。

光田の五人は、ただ穏やかに、気持ちよさそうに風に吹かれているのだ。


千曳ヶ丘の大前、蒼山(あおやま)凜火(りんか)も、つぐみと共に努力を重ねた。実際に皆中を決める最善の結果。

つぐみを心より慕う篠森(しのもり)(あおい)羽白(はしろ)澄玲(すみれ)月守(つきもり)澪璃(みおり)、彼女たちも1本だけ外したが、決して悪い結果ではない。むしろ上出来だ。


千曳ヶ丘の監督席で、朸堂(ろくどう)監督が小さく、けれど深い溜息を漏らした。

「……つぐみ、みんな、ようやった。お前らの弓は、間違いなく最高や。胸張ってええ。……じゃがな、あの子ら(光田)は今、うちと勝負をしとらん。……『永遠』を引いとるんや」


四周目、最後の一射。

栞代が、ソフィアが、あかねが、紬が。

次々と的の真芯を射抜いていく。スコアボードには、光田高校の欄に一点の曇りもない「〇」が十九個、整然と並んでいた。


最後に残ったのは、大落の杏子。

彼女がスッと弓を引き分けたとき、射位に立つ五人全員の心の中に、全く同じ景色が駆け巡っていた。


観客席では、中学で頂点を経験したあまつ、そして、同じように杏子に憧れて光田にやってきた(くるみ)、二人の一年生も同じ気持ちだった。


(ああ、終わってしまう)

(この一射を放てば、この最高の時間は終わってしまう)

(今、観客席と射場に、物理的には別れているけれど、心は完全に一つになってるんだ)

(ずっと、この二十八メートルの永遠の中で、みんなと繋がっていたい)


部内の厳しい選抜試合。その後、みんなで泣きながら一つの歌を歌ったこと。過酷な練習の風景。毎日部室で笑い合った、楽しかった昼食。

そして、普段はポンコツなのに、練習でも弓を引く時だけ神様のような別人になる杏子に、全員が憧れて視線を向けたこと。


その杏子が、今、最後の矢を引こうとしている。


時間は、完全に止まっていた。

光田のメンバーにとって、この瞬間は、何年にも、何十年にも感じられるほど濃密で、愛おしいものだった。


杏子の放った最後の一矢。

それは、音が鳴るより先に的に届いたような、静かな一射だった。

「パァン……」

いつまでも耳の奥で余韻を引くような音と共に、二十射目。全中。パーフェクト。


光田高校、20対17。

千曳ヶ丘の猛追を、一分の隙もない「完成された美」と「二十射皆中」という圧倒的な記録で封じ込めた。


光田の五人は、つぐみを始め、千曳ヶ丘高校のメンバーから「おめでとう」「すごかった」と直接祝福の声をかけられるまで、試合が終わったことにも気がついていなかった。

いつ始まって、いつ終わったのか。

これが、いつも杏子が見ている「宇宙」の景色なのか。

魂の奥底からの、痺れるような充足感が彼女たちを優しく支配していた。


ソフィアが、ふと横に立つあかねと視線を合わせた。

二人の瞳には、うっすらと熱い涙が浮かんでいた。

「……あかね。わたし、日本に来て、本当に良かった」

「……当たり前でしょ。あんたがいなきゃ、私、最後にこんな最高の弓、引けなかったんだから。あんたのSISUのおかげだよ」


ずっと祈るように見守っていたまゆが、車椅子を力強く漕いで彼女たちの元へ向かってくる。

「すごかった……! 羨ましくて、妬ましいぐらい、綺麗だった。……最高のプレゼント、ありがとう、みんな」


「勝った、んだよね……?」

杏子が、夢から覚めたようにぼんやりと呟くと、いきなり横から「パーン!」と、つぐみの強烈な愛ある張手が飛んできた。


「痛っ! いた~いっ」

「ばーか。本当に宇宙行ってんじゃねえよ。……これは、越えられないかもな、お前らには。ちっくしょ」

悔しそうに笑いながら、つぐみが右手を差し出した。

その手を無視して、杏子は泣きながらつぐみにギュッと抱きついた。


栞代が、杏子の気持ちを代弁するように、つぐみの肩を叩いた。

「決勝で、この場にお前と一緒に居られて、本当に良かったよ。最高の試合だった」

「……ああ。やっぱ、インターハイで、絶対にぶっ倒す」

「待ってるよ」


光田高校団体女子、ブロック大会優勝。

二十射的中。


この結果よりも、同じ場所に居て、同じ時間を共有したこと。

それは、なにものにも変えられない、永遠になった。


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