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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
556/582

第556話 男女トーナメント一回戦

南方武道館。

予選という非情な「振るい」を潜り抜けた強豪たちが、一対一の真剣勝負、決勝トーナメントの舞台に集結した。

観客席の熱気は最高潮に達していたが、射場に流れる空気は、予選のそれとは比較にならないほど鋭利に研ぎ澄まされていた。


男子の一回戦。光田高校の相手は、同じ地域の南河原高校だ。

彼らは県大会の三位決定戦で上尾高校を圧倒し、勢いに乗ってこのブロック大会に進出してきた。一方の光田男子は、県大会でその上尾高校に泥臭く辛勝しての出場だ。

南河原の選手たちに「与しやすし」という慢心があった訳ではないだろう。だが、弓道とは常にデータ通りの最高の結果を出せるわけではない。その残酷な真理を、今日、光田の男子部員たちが証明することになる。


光田の射順は、もう見慣れた布陣だ。山下、立川、一ノ瀬、松平、海棠。

女子の切り込み隊長である栞代が「剛」なら、男子の大前(一番手)の山下は「静」だ。彼の冷静で落ち着いた初矢が、光田のペースを掴む生命線となる。


特筆すべきは、中盤から後半にかけての爆発力だった。

プレッシャーをプラスに転じ、完全に覚醒した巨漢の一ノ瀬。

見守ってくれるまゆへ、自分の成長を届けようと一点を凝視して、祈りを射に込める松平。

そして、愛しのソフィア本人のみならず、はるばるフィンランドから来たソフィアの家族に「日本のサムライのいいところを見せたい」と、柄にもなく色めき立ち、限界を超えた集中力を発揮した海棠。


彼らの放つ矢が、吸い込まれるように次々と的を射抜く。

これまで県大会では、一本差の接戦を薄氷を踏む思いで勝ち抜いてきた光田男子は、接戦必至と思われた南河原に対し、蓋を開けてみれば四本差という「余裕」を持って勝利を収めた。


「……ま、意外とやる時にはやるのね。地獄の合宿がよっぽど嫌だったのかしら」

滝本顧問の「悪魔の微笑み」が深まる中、観客席でスコアを記録していた一華(いちか)は、隣の二乃(にの)に少しだけ不安げに囁いた。

「これで変に自信を持って、次でポロッと自滅したりせえへんやろか。データ上、彼らのメンタルはジェットコースターやからなあ」

「それも、先輩たちらしいっちゃらしいですね」



続いて、女子一回戦。相手は強豪、琵弦高校。

県大会三位通過といえば、ギリギリでの大会参加のように聞こえるが、上位には、小鳥遊つぐみ率いる千曳ヶ丘高校と、王者の鳳泉館高校がいたのだ。とても順位だけでは推し量れない実力を持っている。


光田の選手たちは、どんな強敵を前にしても「いつも通り」を崩さないよう訓練されている。だが、一対一の負けたら終わりの決勝トーナメントという独特の魔力は、安定感の塊であるはずの大前・栞代にさえ、最初の一矢を外させるという波乱を呼んだ。


「……っ」

会場に、微かな動揺が走る。その影響かソフィアも続けて外した。だが、三番手のまゆがそれを一瞬で打ち消した。

車椅子の上で、凛と背筋を伸ばしたまゆ。彼女はこの一回戦の前に「皆中(かいちゅう)(四射全て中てること)を目指す」と自分自身と、介添えのあかねに誓っていた。


まゆの放つ一本目は、迷いなく的のど真ん中を貫いた。

介添えとしてその背後に控えるあかねは、弓を引くまゆの身体から伝わる振動と気迫に、言葉にできない感動を覚えていた。

(……まゆ。あんた、こんなに強い、命を削るような矢を引けるようになったんやな)


予選とはまた違う、闘志をむき出しにした姿を見せるまゆ。勝利のために、自分の力が絶対に今必要なのだと覚悟を決めた姿だった。

あかねが感じたもの。それは単なる的中への喜びではない。まゆがこれまでどれほどの孤独と向き合い、この一瞬の舞台のために魂を削ってきたか。その「最高の贈り物」を、あかねは世界で一番近い場所で受け取っていた。


今大会、決勝トーナメントからの出場となるソフィアは、観客席の家族の視線に若干の揺れを見せ、一本目を外したものの、その後は持ち前の精神力(Sisu)で踏みとどまった。


四番手の(つむぎ)は石像のように動ぜず、そして大落の杏子。

彼女はやはり、別格だった。周囲の喧騒も、相手チームの執念の追い上げも、彼女の静寂の「宇宙」には届かない。四射皆中。その完璧な姿は、もはや美しい芸術品ですらあった。


琵弦高校も、三巡目に全員が的中させる「縦皆中」を見せ、執念の追い上げを見せたが、光田の壁は厚かった。

合計         15中


「アンナちゃん、見て。今の『〇』が的中。『×』はハズレ。ソフィアお姉ちゃんは、これで二本中てたんだよ」

観客席では、(いちご)がアンナに寄り添い、同時通訳アプリを間に、弓道のルールのレクチャーに余念がなかった。

ノートには、日本語の「ソフィア」とアルファベットの「Sofia」が並べて書かれている。アンナは、苺が教える的中を計算する〇×を、真剣な眼差しでなぞっていた。



試合のクライマックス。会場の全視線が、まゆの四射目に集まった。

人生初の「皆中」をかけた、最後の一射。

だが、車椅子での四連射は、想像以上にまゆの体力を奪っていた。気力は充実していたが、放たれた矢は無情にも、わずかに的の下へ逸れた。


「ああ……っ」

観客席から、敵味方問わず、思わず溜息が漏れる。

しかし、次の瞬間。会場全体を揺らすような、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

それは、勝利への拍手ではない。ハンデを背負いながらも、一人の射手が自らの限界に挑み、最高の一矢をチームに繋ごうとした「気魄(きはく)」への、心からの敬意だった。


最後、杏子が当然のように四本目を中てて皆中を決めると、祖父母とアンナだけが大興奮して手を叩いていたが、周囲の観客や他校の生徒たちは「やっぱりか」と、ただ呆れたような溜息をつくしかなかった。


彼女にとっての皆中は、もはや「奇跡」ではなく「普通」の領域に達している。その圧倒的な安定と静寂こそが、光田高校の揺るぎない強さを支えていた。


光田高校、男女揃って見事に一回戦突破。

次なる二回戦の相手は。

男子は、今女子が破ったばかりの琵弦高校の男子。女子の仇を、と猛烈な気迫で襲いかかってくるだろう。


そして女子の相手は、この大会の目標を『打倒・光田』だけに絞り、合同練習まで申し込んできた因縁の相手「川嶋女子」。

いよいよあかねが戦場に戻り、杏子の「宇宙」がさらに深く研ぎ澄まされる、更なる激しい勝負が始まろうとしていた。

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