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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
555/581

第555話 我々は、地球人だから

コーチが全員を集め、出場予定メンバーの変更を告げると、全員に驚きが広がった。

「一回戦、あかねさんは介添えにまわる。予定では、まゆさんとソフィアさんが交代する予定だったが、あかねさんと交代する。まゆさんが二番に入る。予選の状態、そして、優勝するために決断した。常に勝つために最善を尽くす。それがコーチの仕事だからな」


一華がすぐさまあかねに寄り添い、タブレットで予選の映像を見せた。

「あかねさん、ここ。肩に力が入って、引き尺がわずかに浅くなっています。まゆさんの介添えをしながら、この『リズム』を取り戻してください」

「……わかった。一華、サンキュ」


一華は、試合の様子もチェックして、コーチに一つ一つ報告していた。他校の様子も。


あかねは、まゆの車椅子の背もたれに手を置き、静かに呼吸を整えた。

「試合に出るだけが、弓道じゃないんだな」

まゆがあかねを見上げて、応えた。

「コーチ、あかねのことだけじゃない、と思う。わたしにも、もっとできるはずって言ってるように聞こえたんだ。なんかね。予選は、周りが支えてくれるし、予選落ちはまずないだろうと、楽にできたからこその結果だったと思う。それに、一つ当てたらいいって目標だったし」

「まあ、その通りだけど」

「でも、それじゃダメだって、コーチは伝えてるんだと思う。だから、あかね」

「うん?」

「わたし、最高の記録を目指すよ」

「最高って・・・・もしかして皆中か?」

「うん。四本目がどうしてもキツイけど、杏子に習ってきたんだもん。皆中ぐらい出さなきゃ。そして、あかねにバトンタッチする」

あかねがまゆを見つめる。

「プレッシャーの中で弓を引くんだな。でも、さっきの鉄の掟は忘れるなよ。当てたい、じゃない。それは結果だからな。杏子が作り上げて、まゆが完成させた、射型の美しさを見せてくれ」


その様子を見て、栞代がふっと笑う。

「でもまゆ、そもそも、最高の結果を出し続けるなんて、誰にもできないって。みんな、迷って、間違えて、それでも一射に込めるしかないんだよな。だから、結果を必要以上に気にするなよ。これが本当に最後になるかもしれないから、最高の姿を、オレたちに、いや、杏子に見せてやってくれ。宇宙人杏子に」


栞代の視線の先には、隙あればアンナにまとわりつかれている杏子がいた。葡萄と滴、苺がいろいろと手を替え品を替え、なんとか気持ちを自分たちに向かせようとしている。だが、そもそも杏子がちゃんと相手をしているだけに、葡萄が困っていた。


「ほんと、あんなところ見たら、絶対に信じられないよな。ほんとに不思議な奴だよ、杏子って。ま、我々は地球人だから、ぼちぼち行こ」

そういいながら杏子の方を見ると、


「En halua lähteä!(やだ! 離れたくない!)」

アンナが、杏子の道着の袖をぎゅっと握りしめて離さない。ようやく会えた本物のプリンセス。その温もりをもう二度と手放さないと、アンナが必死になっていた。


「アンナちゃん、ごめんね。もう行かなきゃいけないんだ」


杏子は言葉では困っていても、態度は相変わらずふにゃふにゃとした笑顔でアンナの頭を撫でている。アンナの無垢な瞳に見つめられると、つい「もうちょっとだけ……」と甘やかすような空気を出してしまう。


「ちょっと、あんず(杏子)先輩! 先輩までデレデレしてどうするんですか!」


そこに割って入ったのは、一華の「密命」を完遂せんとするコミュニケーションの怪物、葡萄であった。葡萄は手慣れた動作でアンナの肩を抱き寄せ、杏子の袖からその小さな指を一本ずつ、優しく、けれど確実に剥がしていく。


「ほら、アンナ! キョウコ姫はこれから悪い魔法使い(ライバル校)を倒しに行くんだから! 私たちと一緒に、一番いい席で応援しなきゃ!」

「……魔法使い?」

「そう! ほら、苺が冷たいお茶持ってるよ。行こう!」


葡萄はアンナを巧みに誘導しながら、振り返って杏子にジロリと視線を投げた。


「あんず先輩もです! 先輩がそんな『ふにゃん』とした顔してるから、アンナちゃんが寂しくなっちゃうんでしょ。ほら、シャキッとしてください、シャキッと!」


葡萄が杏子に注意すると、部内の空気が少し緊張した。杏子に少しでも厳しい発言をすると、栞代の逆鱗に触れる可能性があるからだ。その危険性を知っている一華が割って入ろうとしたその時、


「あはは、ごめん、ごめん、葡萄。……よし、あとは頼んだよ。No niin, Anna, leikitään myöhemmin taas.(アンナ、またあとでね)」


杏子はそう言って、両手で自分の頬を叩いた。一華たちの表情に安堵の色が浮かんだが、葡萄はまるで気がついていなかった。


少し離れたところで、ソフィアの両親、ヨハンとミーナがその様子を微笑ましく、眺めていた。

「ソフィア、妹が迷惑をかけてごめんなさいね」

「いいのよ、お母さん。……杏子も、アンナのことが大好きみたいだし、それに、杏子のことは一切心配要らないから。彼女、宇宙人だから」

「宇宙人?」

ヨハンとミーナは目を合わせ不思議そうな表情を浮かべた。

「エリックおじいちゃんに聞いて」

ソフィアはそう言って、杏子の隣へと歩み寄った。


「……行きましょう、杏子。アンナが誇れるような、私たちを見せに」

「うん。……ソフィア、行こう」


そこへ、時計を睨んでいた一華の鋭い声が飛ぶ。


「三年生、招集所へ移動してください! あかねさんは介添えの準備、まゆさんは予選の感覚を維持して! 遅れると失格になりますよ!」


「わーかってるって、一華。相変わらず厳しいなぁ」

あかねが苦笑しながら、まゆの車椅子に手をかける。

栞代が先頭に立ち、紬が淡々とそれに続く。


観客席へと向かう葡萄に抱えられたアンナが、遠ざかる背中に向かって、もう一度だけ、今度は静かに手を振った。


「Tsemppiä, Kyoko...」

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