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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
546/581

第546話 『一華の密命、あるいはフィンランド語の誓い』

アンナも一通り泣いて感情が落ち着いたのか、今は杏子とソフィアの間に立ち、二人の手を両手でギュッと繋いで一緒に歩き出していた。

アンナは、大好きな二人の顔を交互に見上げながら、一生懸命に何かを報告している。

ソフィアが、涙ぐみながらも小声で杏子に訳してくれた。

「昨日の夜のテレビ電話は、本当はフィンランドからじゃなくて、日本のホテルからかけてたんだって」

「日本の夏は暑くて、すごくびっくりしたって」

機関銃のように話すアンナの言葉にはとても追い付かないが、そもそもソフィア自身が感極まっており、言葉が途切れ途切れだ


その微笑ましい様子を後ろから見ていた滴が、楓に耳打ちする。

「……あの純真さ。とても勝てませんね」

「ああ……私も、杏子部長と手を繋いで歩きたい」

楓が本音を漏らし、二人は悔しそうに深く頷き合った。


だが、そんな感動的な再会シーンにあっても、マネージャーの一華だけは、一人冷静に最悪のシナリオを想定し、善後策を練っていた。

(……おそらくアンナは、大好きな部長とソフィアさんから離れたくないと、ずっとまとわりつくだろう。試合前までならそれは何の問題もない。リラックス効果もある)


一華の眼鏡の奥の瞳が、高速で計算を弾き出す。


(ソフィアさんは、ご家族全員が観戦に来ているからプレッシャーもあるだろうが、そもそもがこれが最後の公式戦。彼女の強靭な精神力(Sisu、困難に負けない、内側から湧く強い意志や粘り強さ)をもってすれば、逆にプラスに働くはずだ)


(問題は、杏子部長とアンナだ。

アンナはまだ、日本でいえば小学生の年齢。試合本番直前になっても「離れたくない」と泣き出したら、素直に納得してくれるだろうか?

部長は弓さえ握らせれば「宇宙人」だから射に影響はないと思うが……もしも、アンナが泣き叫んで離れなかったら、部長の性格上、『じゃあ、私の代わりに決勝トーナメントもまゆに譲るね』なんてことになりかねない。女の涙は強い。しかも小学生。さらに外国人。トドメに死ぬほど可愛いアンナの涙だ。部長の母性本能を直撃する……!)


一華は、一年生の『フルーツトリオ(苺、葡萄、滴)』を手招きして呼んだ。

「三人は、ちっちゃい子はどう? 好き? 嫌い?」

「いや、一華先輩。たとえちっちゃい子どもが嫌いな人間でも、あのアンナちゃんは別っしょ」

「動くお人形さんですやん」

「よし。常にスマホで同時通訳アプリを起動して用意しておくのよ」


一華は、三人に重大な特命を与えた。

「できるだけアンナの側に居て、試合が始まるまでにアンナと最高に仲良くなるように。もちろん、部長とアンナの間に無理やり入るような野暮なマネはしてはだめ。あくまで、部長たちが射場に向かった『その次』に、アンナが頼れるお姉さんポジションを確立しておくのよ」


散歩のあと、集合時間までのしばらくの自由時間。

ソフィアは両親と久々の会話を楽しみ、アンナは杏子の側を片時も離れようとせず、光田の弓道部メンバーもその二人を温かく囲んでいた。


会場の端の邪魔にならない場所に陣取り、アンナと杏子は肩を並べて座っていた

杏子は、毎日のように掛かってくるビデオ通話で、少しずつ簡単なフィンランド語をアンナに教えてもらっている。そして、同じように、アンナにも簡単な日本語を教えている。


しかし、もっとも重要なのは言葉ではなく、お互いのことを理解したい、という意思だ。


その気持ちから、杏子はソフィアからも言葉を教えてもらっている。そして、覚えたばかりのフィンランド語を、ゆっくりと、確かめるように口にした。


「Anna, kiitos että tulit.」

(アンナ、来てくれてありがとう)

「Minäkin olen kaivannut sinua paljon.」

(わたしも、すごく会いたかったの)

「Nauti kilpailusta tänään.」

(今日は競技を楽しんでね)


たどたどしい、けれど心のこもったその言葉を聞いて、アンナは瞳を輝かせ、杏子に再びぎゅっと抱きついた。

そして、日本に来るために買ってもらったばかりだという自分のスマホを取り出し、画面を杏子に見せた。


そこに映っていたのは、今回はフィンランドでお留守番をしている愛犬・ピルッカの動画だった。

画面の中で、ピルッカはカメラに向かって「ワンッ!」と一声吠え、激しくちぎれんばかりに尻尾を振っている。

「Kyōko, Pirkka kannustaa sinua myös!」

(杏子! ピルッカも応援してるよ!)


「うわ〜、かわいい〜っっ!」

後ろで待機任務に就いていた葡萄たちが、たまらず画面を覗き込んで歓声を上げる。

アンナも、自慢の家族を紹介できて誇らしげな顔で、光田のメンバー一人一人に満面の笑顔を向けた。


白夜の国からやってきた、最強のサポーターと、小さな勝利の女神。

いよいよ、光田高校弓道部の集大成ともなる、団体戦の幕が上がろうとしていた。


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