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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
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第54話 文化祭

夏の熱気が少しずつ和らぎ、校庭の木々が緑から秋の色へと変わり始めたころ、光田高校は文化祭の準備に活気づいていた。杏子の所属する弓道部でも、部員たちが忙しそうに動き回っている。弓道の普及と親しみを感じてもらうために、弓の体験コーナーを催すことになっていた。


「ねえ、この風船、どうやってつけるの?」

「あ、それはこの両面テープで固定するんだよ。」

部員たちが的に取り付ける風船の準備を進める中、杏子はその様子を眺めながら手を動かしていた。


部活のコーナーには、2メートルほどの近距離に風船付きの大きな的を設置。初心者でも矢が当たりやすいように工夫がされており、部員たちは順番に手本を見せたり、体験者の指導をしたりする計画だ。矢を放てば、かなりの確率で風船にあたるようにしていた。


杏子は自分の祖父母が遊びに来ると聞いて、内心少しそわそわしていた。


「おーい、杏子!おじいちゃんとおばあちゃんが来たぞー!」

栞代が外の様子を見ながら声を上げる。


杏子の祖父母は、文化祭を楽しむために弓道部のブースを訪れた。おじいちゃんは、「ぱみゅ子」と呼ぶ杏子が自慢なのだろう、少し胸を張って歩いている。なんといっても、ブロック大会個人チャンピオンだ。おばあちゃんは、そんなおじいちゃんを微笑ましく見守っていた。


「さあさあ、どれどれ、わしも弓を引いてみせようじゃないか!」

おじいちゃんは堂々と宣言すると、部員たちが用意した弓を手に取った。


「おじいちゃん、大丈夫?」杏子が笑顔で尋ねると、おじいちゃんは自信満々に頷いた。「大丈夫に決まっとる!ぱみゅ子のために、ここはひとつ格好いいところを見せないとな!」


おじいちゃんは弓を構え、なんとか矢を番える。しかし、初心者特有のぎこちなさが目立ち、弓を引く腕が震え、矢の先端が定まらない。


「よーし、いくぞ!」


勢いよく弦を離したおじいちゃんだったが、矢は放たれるどころか地面にポトリと落ちてしまった。周囲の部員たちは一瞬の沈黙のあと、「あっ……」と微妙な声を漏らす。


「こ、これはちょっとしたウォーミングアップじゃ!本番は次じゃ」と慌てて言い訳するおじいちゃん。再挑戦するも、矢はまたも的に届かず、風船にはかすりもしない。数回の挑戦を経ても結果は同じで、ついにおじいちゃんは額の汗を拭いながら、肩を落とした。


「うーん、どうにも弓というのは難しいのう……アーチェリーなら得意なのじゃが」


杏子が、「おじいちゃん、練習すればきっと当たるよ」と声をかけると、部員たちも笑顔で頷き、「そうそう、まだまだこれからです!」とフォローした。



次におばあちゃんが、ゆっくりと的前に立つ。杏子のおばあちゃんは、かつて高校時代に弓道でブロック大会個人優勝、全国大会準優勝の経験を持つ実力者だった。


おじいちゃんに(かたき)をとれ、と言われて弓を引くことになったが、杏子が、実際におばあちゃんが弓を引くところを見るのは始めてだった。あくまで遊びではあったが、杏子は、思わぬ出来事に、今日二人を呼んで良かったと心から思った。


その瞬間、周囲の空気が少し変わる。おばあちゃんの所作には無駄がなく、ゆったりとした動作の中にも、凛とした気品が漂っていた。杏子も思わずその姿に見とれる。


おばあちゃんが弓を構え、的を見据える。深い呼吸のあと、矢を引き絞り、放つ。その瞬間――


「パンッ!」


軽快な音を立てて、矢が風船を見事に射抜いた。鮮やかな命中に、周りの部員たちが一斉に拍手を送る。


「すごい!」「さすが!」

栞代とつぐみもお互いに目配せしながら、頷いていた。

「杏子ちゃんのおばあちゃん、すご~いっ」そう叫んだのは、瑠月だった。


次々と声が上がる中、おばあちゃんは微笑みながらもう一本矢を番えた。2本目もまた正確に風船を射抜き、その美しい射型に部員たちは感嘆の声を漏らした。


「さすがだね、おばあちゃん!」杏子が目を輝かせながら言うと、おばあちゃんは静かに微笑み、「ありがとう、杏子ちゃん。近かったからね。もう少し遠かったら、届かなかったわ」おばあちゃんは謙虚にそう言った。


おじいちゃんはその様子を見て、「いやぁ、やっぱりおばあちゃんには敵わん!アーチェリーなら別じゃぞ」と笑いながら頭を掻いた。


その後も多くの来場者が弓道部の体験コーナーを訪れ、弓を引く楽しさを感じながら風船を狙った。初心者たちが的に当たるたび、部員たちは歓声を上げ、会場には終始和やかな雰囲気が広がっていた。


杏子は、おじいちゃんとおばあちゃんが並んで笑顔を浮かべる姿を見つめながら、「やっぱり、弓道って素敵だな」と心の中で呟いた。家族や仲間と一緒に共有する楽しさが、何よりも大切なものに感じられた。


おじいちゃんとおばあちゃんは、屋台も楽しんでくるよ、と言って、弓道場を後にした。


文化祭の賑わいがピークに達した午後、栞代は弓道部のブースで来場者の案内をしながら、時折遠くを見つめていた。いつも明るい彼女の表情に、どこか懐かしさと期待が混じっているようだった。


「どうしたの、栞代?なんかソワソワしてるけど。」杏子が尋ねると、栞代は少し照れたように笑い、「いや、ちょっとな……中学の時の友達が来るって聞いたからさ。」と答えた。


その直後、「栞代ーっ!」という元気な声が弓道部のブースに響いた。振り返ると、目に飛び込んできたのは派手な金髪と大きなアクセサリーがキラキラと輝く少女――中学時代のチームメイト、西留華恋だった。


「華恋!」

栞代が驚きながらも嬉しそうに駆け寄る。


華恋は肩に掛けたバッグを揺らしながら、「いやー、久しぶり!元気してた?」と笑顔で応えた。その派手な見た目に反して、どこか親しみやすい雰囲気があり、周囲の部員たちも思わず目を留めていた。


「うわぁ、髪の毛、金色じゃん!アクセもめっちゃ派手だし、全然変わったなー。」

「でしょ?あの監獄みたいなバスケ部から解放されて、弾けたよ。バスケは一応続けてるけど、今は楽しんでやってる。時間も余裕もあってオシャレに全振りよ!」華恋は胸を張りながらウィンクする。「めぐみも来るって言ってたんだけど、都合悪くなっちゃってさ~。」



そのやり取りを少し離れたところで見ていた杏子が、思わず声を漏らす。「す、すごい……モデルさんみたい。」


その声に気づいた栞代が振り返り、華恋の腕を引きながら杏子の元に連れてきた。「紹介するよ。この地味な子が私の親友、杏子。」

「ちょ、地味って!地味かな。」杏子が慌てて抗議しつつも納得するような顔を見せると、華恋はそんな二人を見てくすくすと笑った。「ま、今の私と比べたらね」


「へぇ~、栞代の親友か。……なんか、栞代とはまた全然タイプが違う感じだね。」華恋は興味津々といった様子で杏子を見つめた。その視線に杏子は少し戸惑いながらも、「は、はじめまして……!」と小さくお辞儀をする。


華恋はその控えめな態度に驚いたような顔をしつつ、「あ、そんな(かしこ)まらなくていいよ。私は西留華恋。バスケ部で栞代と一緒だったの。」と明るい声で返す。


「そっか、華恋さんもバスケやってたんですね。」

「呼び捨てでいいよ。中学の時に、栞代と一緒にね。でも今は趣味で遊んでるだけ。今、本気でやってるのは、栞代の方だね?」


その言葉に、栞代は少し照れながら、「まあ、今は弓道に全振りしてるな。杏子と巡りあっちゃったからなあ。」と苦笑いした。


「杏子、こいつ、中学の時、ほんとに辛い目にあってんだ。」

華恋がぽつりと呟くと、栞代の表情が一瞬引き締まる。


「全国大会のこと?」

「そう。決勝、無理して出場してさ。あの後、いろいろあったけどさ、今思うと栞代が主将でいてくれたから、私たち本気でやれたんだよね。」


その言葉に栞代は少し黙り込む。決勝戦での疲労骨折と惨敗。その時、チームメイトにかけた負担や迷惑を思い出すと、胸が痛む思いだった。


「でも、結局負けたし、私が無理したせいで――」

「違うよ!」華恋がきっぱりと声を上げた。「あの試合は確かに負けたけど、私たち、あの瞬間まで本気でやれたのは栞代のおかげだって、みんな言ってたよ。めぐみも、今日栞代にありがとうって言いたいってずっと言ってたんだ。あの時はみんな混乱してたからな」


栞代は目を伏せながら、少しだけ笑った。「ありがと。でも、今でもさ、やっぱり迷惑かけたって思ってる」

「そんなことないって。みんな栞代のこと尊敬してるし、私なんか、今でもこうやってバスケ続けられるの、栞代の影響だと思ってるもん。強制されないバスケって、ほんっとに楽しいぜ。」


その言葉を聞いた杏子がそっと口を開いた。「栞代は中学の時のこと、全然話さないけど、そんなことがあったんだね」


「うん、そうだね。」華恋が頷き、「でも、今の栞代もいい感じだよ。中学の時は張りつめてた感じで誰も寄せつけないってところがあったけど、今はなんか、上手く言えないけど、ちょっといいな。今の栞代を見て、なんか安心した。私も元気もらったよ!」と明るく笑った。


華恋が物珍しそうに弓道場を見回っている中で、杏子や他の部員たちとも自然と打ち解けていった。金髪で派手なアクセサリーに目を奪われていた杏子も、華恋の飾らない性格に惹かれ、「すごくいい人だね」と感じていた。


「華恋さん、弓道も体験してみます?」杏子が勧めると、華恋は「だから、タメでいいって。で、面白そうだな!」と興味津々で答える。栞代が「おいおい、あたらなくてもそれが普通だからな」と最初にフォロー入れつつ冷やかすと、華恋は「当たらないならおしゃれなポーズで誤魔化すさ」と笑いを誘った。


そのやりとりを見ながら、杏子は心の中で、「栞代って中学の時はどんなだったのかな?」と思った。そして、華恋と栞代、そして自分――全く違う性格や背景を持つ3人が笑い合う様子に、不思議と温かいものを覚えたのだった。


華恋が帰る時、「杏子が栞代の側に居てくれて、なんか良かったよ。あいつ、一人で抱え込むところあるからさ。よろしく頼むな。」

「わたしの方が、ずっと助けられてるの」

「ま、それがあいつの趣味だから」

そう言って笑ったあと、

「杏子も、何かあったら、連絡してくれよ」

と連絡先を交換して、帰って行った。


文化祭は新たな仲間と絆を育む場となり、栞代にとっても過去の傷が少し癒される特別な時間となった。


その後、また祖父がリベンジにやってきたが、返り討ちにあったのであった。

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