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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
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第53話 二次合宿

お盆が終わり、夏休みの後半、部員たちは期待と少しの緊張を胸に「二次合宿」に向けて出発した。今回は、弓道漬けの一次合宿とは少し趣向が違い、なんと「文武両道」というテーマで行われるという。


「インターハイに向けての一次合宿とは異なり、今回は勉強の主と考える合宿だ」と、拓哉コーチが宣言した。


コーチはその後「あれだけ言たのに、きっと宿題をまだ終わらせていない者がいるだろう?」と、拓哉コーチが笑いながら言った時、大半の部員が微妙な表情のまま下を向いた。




「ねぇ、なんで夏休みの合宿にわざわざ勉強が入ってくるわけ?」

栞代が首をかしげながら、バスの座席で杏子に囁く。

杏子は小さく笑いながら、「わたし、ちょっとほっとしてるかも。弓ばっかりだと、つい夢中になりすぎて、宿題が後回しになっちゃうし……」と答えた。


それを聞いた栞代は目を丸くした。「おまえ、宿題やってるの?」

「途中まで……ね。」杏子が控えめに答えると、隣のつぐみが「やっぱりね」と苦笑した。

「それより、二人はわたしが居ない時に、一緒に勉強してたんじゃないの?」

「弓の勉強をしてたんだっ」

栞代とつぐみは声を揃えた。

「杏子こそ、どうなんだよ。休みは弓ばっかりだったんだろ?」

「う~ん。弓の練習って言ったらおじいちゃんは行かせてくれるんだけど、宿題や勉強するって言ったら、そんなものしなくてよろしいって言って、連れまわされるからなあ。時々はおばあちゃんが叱ってくれるけど」

「今始めて、杏子にあのおじいちゃんが居て、羨ましいと思った」

と栞代が応えると、つぐみは声を出して笑った。


バスの中ではそんな軽口が飛び交いながら、目的地の合宿施設に到着。一次合宿では気がつかなかったが、立派な自習質がある。道場と自習室、食堂と寝室が同じ建物内に揃うという、まさに「練習と勉強の両立」を掲げた場所だった。

なんとなく、世話役の神楽木綾乃さんが妙に楽しそうに思えた。



「さて、みんな集合!」

拓哉コーチが大きな声で部員たちを呼び寄せる。

「今回の合宿の予定を再確認しておく。一次合宿であった、早朝練習は無し。起床時間も少し遅らせてるし、朝食までは自由時間だ。素晴らしいだろう?」

コーチがわざとらしく恩きせがましく言うが、確かに朝ゆっくりできるのはありがたい。


「朝食後、午前中は体力作りと全体練習。午後は個別練習2時間。ここまでが弓道にあてる時間になる。切り換え時間には、おやつまであるんだ。幸せたなあ、みんなは。

そしてその後、午後2時間と夕食後2時間は勉強時間だ!みんな、もう一度聞くけど、夏休みの宿題はちゃんと進んでるか?」


その問いかけに、一瞬静まり返った後、部員たちの間から笑いが漏れる。


「進んでるわけないでしょ。」

「これって、合宿じゃなくて地獄だよ~!」


そんな声に拓哉コーチは腕を組み、「やっぱりな。だからだよ。宿題やらずに焦る未来を救ってやる親心ってやつだ。感謝しろよ」とどや顔を決める。


「それから、一次合宿にも来てくれた、草林コーチ、神矢コーチ、深澤メンタルコーチも来てくれることになった。しかも、勉強まで見てくれるなんて、ありがたすぎるだろう」


コーチ陣が笑顔で一礼すると、部員たちからは自然と拍手が起きた。その中で、つぐみが手を挙げる。「先生たち、弓道だけじゃなくて勉強もすごいんですか?」


「当然だろ。」草林コーチが答える。「全員現役でインターカレッジ優勝だ。それに、俺は数学が得意。拓哉は文系科目全般、神矢は理科。そして深澤コーチは英語のスペシャリストだ。」


「メンタルコーチってメンタルのことだけじゃないのか」栞代が驚きながら呟くと、深澤コーチは微笑む。「心を整えるには基礎が大事。つまり、知識も心も鍛えようということだ。」



勉強時間になると、部員たちは一斉に自習室へ向かった。

「ねぇ、これ解けない!」

「ああ、それは公式の使い方が違うな。ほら、こうやって――」


草林コーチが数学の質問に答える一方で、神矢コーチが科学の公式を丁寧に解説する。その後ろでは深澤コーチが発音練習を指導しており、部員たちの間には和気あいあいとした空気が流れる。


杏子は分からない問題を拓哉コーチに尋ねていた。「この歴史の記述、どうしてこうなったんでしょう?」

拓哉コーチは少し考え、「これは因果関係を整理して考えるといい。ほら、弓道でも射る順序を間違えたら台無しだろ?歴史も順番が大事なんだ。」

杏子はその説明に納得し、「あ、そういうことですね!」と笑顔で答える。


また、学年でもトップクラスの流芳瑠月とマネージャーの雲英まゆが積極的に勉強を教えていた。教えることは、とてもいい復習になるし、あやふやなところを再確認できるので、積極的にみんなと一緒に勉強をしていた。


瑠月は、2年生ながらも豊富な知識と冷静さを活かして、1年生たちに丁寧に説明をしていた。


「ここはね、公式を覚えるだけじゃなくて、どうしてこうなるのかを考えるのが大事だよ。」

瑠月が笑顔を浮かべながら、つぐみのノートを指し示す。聞いていたつぐみが首を傾げ、「でも、分母が何でこうなるのか分かりません……」とつぶやくと、瑠月はペンを取り、紙に図を書き始めた。

説明を聞いていたつぐみが応えると、

「そうそう!同じ量でも、受け皿が大きければ薄まるんだよね。それが、この式のイメージだよ。」


つぐみは目を輝かせながら「分かった!瑠月先輩、ありがとうございます!」と感謝の声を上げた。周りの1年生もその説明に聞き入っていた。瑠月の指導は理路整然としているだけでなく、優しさと配慮が感じられるため、1年生たちは安心して質問を投げかけていた。


一方、マネージャーの雲英まゆも静かに、けれど確かな存在感を放っていた。生まれつき身体に障害を持つ彼女は、長年のリハビリを経て短い距離なら歩けるようになったものの、移動にはいつも杖が欠かせない。声帯も弱く、小さな囁き声でしか話せないため、基本的にはノートや手話で意思を伝えている。それでも、彼女の笑顔や優しい仕草には、誰もが励まされるような力があった。


一方で、親友のあかね自身は勉強に苦戦していた。数学の問題に頭を抱えながら、「これ、絶対無理!もう赤点決定!」と嘆く。


その声にまゆがふとペンを止めると、ノートに「ちがう」と書いてあかねに差し出した。続けて、「一緒にやれば、きっと大丈夫」と走り書きし、優しい笑顔を向ける。そのノートを見たあかねは少し頬を赤らめ、「まゆがそう言うなら、頑張るしかないか……!」と決意を新たにする。


その後も、まゆはあかねの苦手な箇所を一つ一つ丁寧に教えていった。小さな声で、時折単語を囁きながら、あとはノートに簡潔な説明を書き連ねる。

「ほら、ここが分かると次も分かるから!」と、あかねが問題を解く手をサポートする中、まゆがそっと「がんばって」と囁くと、あかねは嬉しそうに笑い、「まゆに褒められるの、なんか嬉しいんだよね」と照れくさそうに言った。


勉強に集中する二人の姿を見ていた部員たちも、「まゆさんって、ほんと優しいな」「あかね、いい親友がいて羨ましい」と声を漏らす。その声に気づいたあかねは「私がまゆのお世話係だからね!」と胸を張るが、まゆは小さく微笑むだけで、黙々と次の解説を書き続けていた。

確かにあかねのガードは固く、男子部員が質問に来ても、コーチや瑠月さんのところに向かわせていた。


その静かな献身と優しさは、部員全員の心をじんわりと温めていた。周囲の1年生たちも次第にまゆに質問を投げかけ、まゆはそれに手話やノートで根気よく応じていた。彼女の努力と温かさが、自然と周りを勉強に向かわせていたのだ。


合宿の終わり際、あかねが最後の問題を解いて大きなため息をついた。「はぁ……でも、なんとか間に合いそうかな……」

その声にまゆが「えらい」とノートに書き、ふっと息を吐くような囁き声で「おつかれ」と伝えると、あかねは感激した表情で「まゆ、ほんとにありがとう!」と頭を下げた。


いつも一緒に居る二人。身体サポートをあかねが積極的に請け負い、そして勉強をまゆが教える。本当にいいコンピだった。



弓道の練習では、草林コーチと神矢コーチ、そして拓哉コーチが、それぞれの部員の射型を丁寧にチェックしていた。

「栞代さん、、構えはいい。あとは弓を引くとき、肩が上がらないように意識してみろ」

「つぐみさん、打起しのテンポが少し速いな。もっとゆっくりでいい」


午後の個別練習では、深澤コーチがメンタル面の指導も加えてくれる。

「冴子さん、試合で一番緊張した場面を思い出してみて。」

冴子が真剣に答えると、深澤コーチはそれを踏まえて呼吸法や集中力を高めるためのアドバイスをしてくれた。



最終日、練習と勉強の成果を感じながら迎えた夕方。全員が楽しみにしていたバーベキューが始まった。

「綾乃さん、今回もありがとうございます!」

部員たちの感謝の声が響く中、綾乃さんが微笑みながら手を振った。

「これからも頑張ってね。全員が自分らしく輝けるよう、応援してるから。」


部員たちは笑顔で食事を楽しみ、練習や勉強の話題で盛り上がった。杏子と栞代はコーチたちに感謝を伝えながら、それぞれの目標に向かってさらに頑張ることを誓っていた。


この合宿は、弓道部全員にとって「技術だけでなく、心も知識も鍛える」という大切な時間となった。帰りのバスの中では、どの部員の顔にも充実感が浮かんでいた。

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