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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
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第52話 盆休み

弓道部がしばらく休みになったとはいえ、弓道をやりたい杏子は、毎朝、中田先生の自宅の弓道場に通い、弓を引く。練習を終えると、昼頃には家に戻り、おじいちゃんに連れまわされる日々が続いていた。


「おじいちゃん、また今日も喫茶店?」

杏子が微笑みながら聞くと、祖父は得意げに胸を張る。

「あそこのマスターは紅茶の淹れ方を学び直したらしいぞ。確認してやらんといかん!」

そんなやり取りを聞いている祖母は、少し呆れつつも温かな笑みを浮かべている。

「おばあちゃん、たまには一緒に行こうよ」

杏子は祖母も誘うが、

「おじいちゃんが居ないと、家事がはかどるから、また今度ね」

といって、せっせと家を掃除していた。特におじいちゃんの部屋を。


その頃、栞代とつぐみはそれぞれ自宅にいる時間を持て余していた。家庭の事情から、どちらも家に長くいたくない気持ちがあり、次第に杏子の練習に同行するようになる。


「杏子、練習してるんだって? 私も一緒に練習していい?」

つぐみの声に、杏子は、笑顔で頷く。

「もちろん!栞代も来る?」

「おう、オレも家にいるより、弓道やってた方がいいしな」

こうして三人で午前中は中田先生の道場に通い、午後は杏子の家で宿題を片付けたり、おじいちゃんの淹れる紅茶を楽しむ日々が始まった。

「おじいちゃん、今日の紅茶も最高だよ!」

栞代の言葉に、つぐみも嬉しそうに頷く。

「本当に美味しい。こんな紅茶、家では飲めないもん」

それを聞いた祖父は、わざとらしく眉を寄せたかと思うと、

「つぐみくん、いいかね。わしの淹れる紅茶は、そんじょそこらの喫茶店にもない代物じゃ。ましてや、家庭で飲むとなると、日本で数えるほどしかないんじゃ」

「ここだけって言うんだろ?」栞代がすかさずつっこみ、

「それなら、一つだけ数えたら終わるもんな」

眉間にわざと皺を寄せていた祖父は、さらに鼻の頭にも皺を寄せて口をヘの字にして栞代を睨んでいた。かと思うと、

「ま、そういうことじゃ。二人のために、新しい茶葉を試してみようかの」

と、ご機嫌を隠しきれない様子だった。


お盆に近づく頃、拓哉コーチから連絡が入る。

「中田先生のところで練習しているんだってな。他の部員からも、練習したいという声が上がってるんだ。学校の弓道場を使えるようにしておくから、学校で練習するように」

杏子たちはすぐに連絡を取り合い、お盆の期間も学校で練習することを決めた。中田先生十分にお礼を伝えた。いつも支えてくれる、中田先生には本当に感謝していた。


学校の道場には、既に拓哉コーチがいて、弓を引いていた。

「コーチも練習するんですか?」

杏子の問いかけに、コーチは頷く。

「指導するだけじゃなく、自分を磨くのも大事だからな」

杏子、つぐみ、栞代の三人は、コーチの見事な射に息を呑んだ。正確無比な動作、矢が放たれるたびに響く清々しい音。その姿は、杏子たちの目指す理想そのものだった。

「すごい……」つぐみの呟きに、栞代も目を丸くして頷く。

杏子は静かに胸に手を当て、もっと努力しなきゃと心に誓った。


杏子らは、主に午前中に行っていたが、冴子や沙月は午後から、だそうだ。時間バラバラのあかねや紬に話を聞いた。その時も、コーチは練習しているらしい。もしかして一日中やってるのかな?




お盆休みのある日、杏子の両親が久しぶりに帰省した。家族全員での団欒のひとときを過ごし、翌日には親子三人で一泊旅行に出かけることになっていた。


杏子は栞代とつぐみに声をかける。

「ねえ、つぐみ、栞代。明日、私が旅行に行ってる間、おじいちゃん寂しがるから、遊びに来てくれない?」

つぐみと栞代は顔を見合わせ、すぐに頷いた。

「でも、迷惑じゃないかな?」

「大丈夫」

「ま、おじいちゃんの紅茶も飲みたいしね」

「助かるよ。おじいちゃんには内緒にしておくから、ちょっと驚かせてあげて。おばあちゃんにはちゃんと伝えておくから」

杏子は少し悪戯っぽく微笑んだ。




翌日の昼過ぎ、つぐみと栞代は杏子の家を訪れた。

「おじいちゃん、紅茶淹れて~!」

栞代の声に、祖父は驚いた表情を浮かべた後、大笑いした。

「おいおい、杏子は居ない。そんなにわしの紅茶が飲みたいのか~」

「そうなんです。もう一日一回は飲まないと~」

つぐみが笑顔で答えると、祖父は嬉しそうに台所へ向かった。


その後、二人は杏子の部屋で宿題を広げ、くつろいでいた。

「杏子の部屋って、なんか落ち着くよね」

つぐみの呟きに、栞代も頷く。

「そうだな。杏子の家って、全体的に居心地がいいんだよな。ま、実はオレ、自分の家が好きじゃないんだけどな」

つぐみも、栞代のその言葉に頷き、二人で少し込み入った話をした。

何かあったら、いつでも相談しよう。



夕食を共にし、二人は祖父母とのおしゃべりを楽しんだ。祖父母に強く勧められたこともあったが、杏子の頼みでもあったので、その夜はそのまま宿泊することになった。居場所さえ言っておけば、二人とも、特に心配されるような家庭でも無かった。


翌朝も再び食卓を囲んだ。つぐみと栞代は、杏子の家族と過ごす温かさに触れ、自分たちの家庭にはない穏やかさを感じていた。

「本当に、ここにいると心が安らぐよね」

つぐみのポツリとした言葉に、栞代も「確かにな。緊張しないし」と静かに応じた。


夕方、杏子が旅行から戻り、二人にお礼を伝えた。

「ありがとう!おじいちゃんの相手、大変だった?」

二人は笑いながら「そりゃも~、紅茶何杯飲んだことか」

と笑った。

その夜、杏子の両親も加わった夕食を楽しんだ。

杏子の父母も、とても穏やかで優しい人たちだった。

栞代とつぐみは、杏子の祖母と父が似ているのは分かる。でも、祖父と母は血で繋がっている訳ではないのに、なんとなく似ているのが、なにか不思議だった。


今日はいつもと違い、父と杏子が二人を送って行った。弓道部でのいろんな話をした。杏子の父は穏やかに話を聞いていた。


それぞれの家に着き、それぞれが降りる時には、「いつでも遊びにきてください。杏子をよろしく」と伝えた。それを聞いて、二人とも、祖父と同じことを言うんだな、と何か可笑しくなった。


帰りの車の中では、父と杏子で少し話した。二人きりになる時間は珍しかった。仕事とはいえ、年に何回かしか会えないことを侘びる父に、祖父母が居るから、全然平気だよ、と杏子は応えた。今は離れてても、顔を見ながら話せるしね。

それより、祖父と母がどんな話をしているのか。その方に興味が行く杏子なのであった。

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