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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
51/206

第51話 久しぶりの我が家

夏の日差しが校門を照らす中、弓道部の一行はインターハイから戻ってきた。


拓哉コーチと滝本先生に率いられ、杏子たちは校長室へと向かう。部長の花音が代表して報告を行う間、校長先生は穏やかな笑顔で部員たち一人一人を見渡した。


「個人全国準優勝、5位入賞、そして団体戦の予選突破――本当に素晴らしい結果です。皆さんの努力が実を結びましたね」


その声には、穏やかさと共に確かな重みがあった。


「しかし、これで満足することなく、次の目標に向けて努力を続けてください。光田高校の誇りとして、これからも期待しています。学校としても、全力でサポートします」


前校長と違い、また滝本先生の尽力もあり、無くてはならない学校からの全面的な協力を得られることは心強かった。


道場に戻った部員たちは、久々の帰還に安堵の表情を浮かべる。まるで自分の家に戻ってきたような安心感があった。


当初からの予定とはいえ、滝本先生が改めて「盆明けまで練習はお休み」と告げると、部員たちから歓声が上がる。

しかし、拓哉コーチが淡々と続けた。


「その間に、夏休みの宿題を終わらせること。それが次の練習の条件だ」


一斉に苦笑いが広がる中、栞代がつぶやく。

「宿題、あったの忘れてた……」


杏子も同調するように微笑みながら、「そうだよね」と元気なく返した。


長い合宿を終え、みんな家族の待つ自宅へと帰っていく。その中で、昨晩の約束通り、栞代とつぐみが杏子の家で夕食を食べることになっていた。


昨晩、杏子と栞代が、つぐみを誘った。


「ねえ、栞代。明日も、うちで夕飯食べるでしょう?」

「あ、いいのかな」

「おじいちゃん、栞代と話すのが楽しくてしょうがないみたい。おじいちゃん、栞代も来てくれたら喜ぶよ!」

「それなら遠慮なくお邪魔するよ!……けど、杏子、どうせならつぐみも誘えないか?」

「うん。そうだね」


二人は、ブロック大会終了後、つぐみの母が来なかったことを覚えていた。いろんな家庭の事情があるだろうけれど、そこに何かを感じていたのだ。栞代自身、少し家庭が上手く行っていなかったから、特に敏感だったのかもしれない。


杏子が「私誘ってみるね」と言うと、栞代が手をひらひら振る。

「いやいや、二人きりだとつぐみが遠慮するかもしれないし、そうなったら杏子は強引に行けないだろ。私も一緒に行くって」

杏子は笑顔で「うん」と返した。


荷物整理をしていたつぐみのところへ二人で向かう。つぐみは顔を上げて微笑んだ。

「杏子に栞代。どうした?あんたらいつも一緒だね」

「つぐみ、あのね。明日、うちで夕飯を一緒に食べない?栞代も来るんだけど……」

つぐみは目をぱちぱちと瞬かせ、「えっ……私?」と戸惑いを見せる。

「うん!おじいちゃんもおばあちゃんも、みんなで集まるのが好きだから。つぐみが来てくれたら、きっとすごく喜ぶと思う!」

「でも……私、急にお邪魔しちゃうのは申し訳ないな……」

栞代が軽く肩を叩きながら笑顔で言う。


「つぐみ、お前が来ないと杏子が寂しがるだろ?それに、あのおじいちゃん、覚えてるだろ?杏子が着替える時とか、オレ一人に相手させないでくれよ。大変なんだよ。それに、つぐみがいる方がみんな楽しいって思うよ。ね、杏子!」

「うん、絶対楽しいよ!」


つぐみは二人の真っ直ぐな視線に押され、少し照れくさそうに笑った。

「それじゃあ……お邪魔させてもらおうかな。ありがとね、杏子、栞代」


つぐみの部屋を出た時、杏子が少しムクれているのに気がついた栞代は「杏子、ウソも方便だろ」とフォローした。

自分が突っ込む分にはいいけど、人から突っ込まれると絶対に庇うしな、杏子は。なんやかんや、おじいちゃんも大好きだからなあ。


杏子はすぐに祖母に電話をして、「明日、栞代とつぐみが来るからね!」と伝え、二人を迎える準備に胸を躍らせた。




夕暮れ時、杏子の家の食卓は既に賑やかな空気に包まれていた。祖母が手際よく並べた料理が、テーブルに所狭しと並ぶ。湯気の立つ煮物や、おじいちゃん特製の漬物も彩りを添えていた。


「わー、おいしそう!」つぐみが目を輝かせると、祖母が優しく微笑んだ。

「たくさん食べてね。つぐみちゃん、おかわりはいっぱいあるからね」

栞代は箸を取りながら、「おばあちゃんの料理、今日はさらにすごいな!」と感心しきり。


おじいちゃんは得意げに胸を張る。

「そりゃそうだ。今日はわしも漬物を多めに仕込んだんだからな!」

「おじいちゃん、それはいつもだよね?」

杏子が小声でツッコむと、つぐみと栞代がクスクス笑う。


「おばあちゃんの料理が上手なのは、おじいちゃんが全然文句言わないことでも分かるよな。このうるさ型のおじいちゃんが」栞代が言うと、祖母が懐かしそうに微笑んだ。

「そう言えば、杏子が初めてご飯を炊く練習した時、何度目かにおじいちゃんが美味しいって言ったら、本当に喜んでたわよね」

「いや、最初は雅子ちゃんの調子が悪いのかと思ったけど、すぐにぱみゅ子が炊いてるって分かったよ。3日ぐらいで本当に美味しくなったなあ」


「へ~。そんなことがあったんだな、杏子」

栞代がにやりと笑うと、杏子は「そんなことは忘れましたっ」と照れくさそうに言った。


食事が進むうち、話題はインターハイの話へ。

「つぐみちゃん、準優勝だってな!瑠月さんの5位入賞も立派だが、つぐみちゃんも素晴らしい!」

おじいちゃんが声を張り上げる。


つぐみは少し照れながらも、「ありがとうございます。みんなの応援があったからこそです」と答えた。

「その応援の中でも特にぱみゅ子の応援が効いたんじゃろ?正直に言っていいんじゃぞ」


杏子が呆れたように笑う中、栞代が「言っておくけど、おじいちゃん、私も全力で応援したんだからな」

「いやいや、それでもぱみゅ子の方が」

おじいちゃんが譲らないのを見て、つぐみが笑顔で「はい、みんなの応援が最高でした!」と締めた。


「ところで、つぐみちゃん、準優勝のお祝い、なにか欲しいものはあるのかな?このあと、美味しい紅茶を入れようと思っているのじゃが、好きな銘柄はあるかのう?」

「いえ、紅茶の銘柄って詳しくありませんし、おじいさんの好きな銘柄で大丈夫です」

「ほほ~、そうか?わしの好きな銘柄はの~」

と長くなりそうだったので、栞代が遮る。

「そしたらさ、つぐみ、おじいちゃんのことをおじいちゃんと呼ぶ権利を貰ったらどうだい?」

「え?」

「まあ、その代わり、おじいちゃんから『つぐみ』って呼ばれることにもなるけどな」

「あ~、そうしようそうしよ」

おじいちゃんは、つぐみの返事を聞く前に、栞代の提案をさっさと受け入れて、紅茶を入れる準備をしに行った。


夕食後、つぐみと栞代を送るため、おじいちゃんが車の鍵を手にした。玄関まで見送りにきた祖母に、つぐみが「おばあさん、本当に美味しかったです」とお礼を言うと、祖母は優しく微笑んで、「つぐみちゃん、またいつでもいらっしゃいね。それから、次からは、おばあちゃんって呼んでね」と小さな声で伝えた。


車に乗り込み、穏やかな夜道を走り出す。


助手席に座るつぐみが、「おじいちゃん、本当にありがとうございました。夕飯、とても美味しかったです」と感謝を述べると、後ろから栞代が「それはおばあちゃんの手柄だけどな」と突っ込む。


おじいちゃんは「一番美味しい漬け物はわしの作じゃ。いつでも食べにいらっしゃい!」と豪快に笑う。栞代が「漬物?」と笑いながら突っ込むと、祖父は「紅茶もあるでよ」と返し、車内は笑い声で満たされた。


車がつぐみの家の前で止まる。つぐみが降りる際、もう一度感謝の言葉を口にした。

「今日は本当にありがとう。杏子、栞代、おじいちゃん。

おばあちゃんにもよろしくね」


杏子は車を降りて、つぐみに寄り添う。

「また絶対来てね!おじいちゃん、賑やかなの好きだから」


つぐみは少し恥ずかしそうに微笑みながら、「うん、杏子、サンキューな」と返した。


車に戻った杏子と栞代は、つぐみを見送りながら手を振る。車が発進すると、つぐみが小さく手を振り返していた。


栞代を送る途中、「杏子、今日はつぐみも来てくれてよかったな」と栞代が杏子を見やる。


杏子も笑顔で頷き、「うん。つぐみが楽しそうにしてるのを見て、私も嬉しかった」


いつもの手慣れた様子で栞代を送り、帰路は祖父と杏子の二人きりになった。


「ぱみゅ子、明日からはしばらくゆっくりできるんじゃろ?」


「うん、お盆明けまでは家に居るよ」


「よ~し、じゃあ、たっぷりと遊べるな~」


「おじいちゃん、コーチから宿題するように言われてるんだよ」


「宿題なんて、せんでよろしいっっ」


杏子は苦笑いしながら、きっと明日からいろんなところに連れまわされるんだろうなあと、ぼんやり思う。夜空に浮かぶ月を見上げながら、流れる景色に目を向けた。この穏やかな時間が、いつまでも続けばいいのに。そんな思いが、杏子の胸をそっと温めていた。

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