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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
504/581

第504話 『静寂の水底、最強の絆』

道場の空気は、朝から乾いていた。 湿気を嫌う弓道場としては理想的な環境だが、今日ばかりはその乾燥が、部員たちの喉をじりじりと焼くようだった。 予備抽選、立ち順抽選。くじが机に置かれるたび、木の板の音だけがやけに鮮明に響く。


立ち順が張り出された。


1.(かえで)

2.まゆ

3.つばめ

4.あまつ


5.杏子

6.(つむぎ)

7.栞代(かよ)

8.あかね


9.(くるみ)

10.ソフィア

11.真映(まえ)


最初は四人、次に四人、最後は三人が一度に的前に立つ。 一人四射。三射以上の的中で次へ。同じ条件をもう一度。 それでも決まらなければ八寸的(二十四センチ)で競射、上位五名が決まるまで続くサドンデス。 同時に五位以内が決まる時は、特に順位はつけない。


最初に引く楓は、極度の緊張の中、一本目を外す。 続くまゆも、弓を引くだけで精一杯だ。矢は的枠を叩くこともなく、安土の砂に吸い込まれた。 その悪い流れを断ち切ったのはつばめ、そしてあまつ。続けて快音を響かせ、的中。 いきなり追い込まれた楓だったが、唇を噛み締め、次を的中させる。 同じく追い込まれたまゆだったが、いっぱいいっぱいの矢は、無情にも的を外した。 この時点で、まゆの脱落が決まった。 その後は、楓、つばめ、あまつと完璧な射を見せ、三人は次のステージへ。


最初の四人が退場する時、控えていた菓、ソフィア、真映、そして一年生と一華(いちか)二乃(にの)が思わず手を叩く。

まゆさん、立派です。

弓の勢い自体は無かったが、姿勢の美しさは崩れていなかった。 まゆは目元を赤くしながら、それでも穏やかな笑顔で礼を返した。


第二グループ、杏子、紬、栞代、あかね、といった三年生グループ。 まるで動じていない杏子の流れをそのまま踏襲するように、全員が的中を重ねていく。 あかねが最後の一本を外すが、条件はクリア。四人揃い、次のステージへ。


そして、菓、ソフィア、真映。このグループも安定した射を見せる。連続で決め、緊張が解れたのかラストを外した菓と真映に対し、ソフィアは一本外して追いこまれたが、最後を綺麗に決めた。それぞれが三本的中で、次のステージへ。


試合は第二ステージへ。 まゆが脱落したことにより、五人ずつのグループになる。


楓、つばめ、あまつ、杏子、紬。 五人とも、極限の緊張の中、楓が一本外すも、条件はクリア。


栞代、あかね、菓、ソフィア、真映。 ここで、重圧の中踏ん張ってきた菓が二本外す。 まゆと二乃が、呆然とする菓を迎える。 一華はずっとカメラの映像を睨み続けている。 この舞台の経験は試合に必ず生きる。次のために、来年のために、修正点を拾い続けていた。




そして、勝負は競射へ。的は八寸的へ。 九人が残っている。外したとしても残る可能性はあるし、当てたからといって残るとは限らない。


冒頭、楓が外す。唇を噛み、涙をこらえ、礼をする。 まだ分からない。しかし、チームメイトが外すことを祈ることはしたくない。 楓はそう思いつつ、射場から目を逸らせない。


しかし、その後、つばめ、あまつ、杏子、紬、栞代と連続で決める。 この時点で、楓の望みは消えた。 まゆ、菓、二乃が、崩れ落ちそうになる楓を受け止める。


5人が既に決めているので、この後は、外せば自動的に脱落。決まれば、まだ競射が続く。 このプレッシャーの中、あかねが決める。 続いたソフィアが惜しくも外す。 ソフィアは礼をし、胸を張って、まゆ、楓、二乃の元へ戻る。 凜としたソフィアの姿は、まさに美しかった。ラストの真映も震える呼吸を押しとどめて踏ん張る。的中。


残り七名。 つばめ、あまつ、杏子、栞代、紬、あかね、真映。 流れはそのまま、次々と県大会出場メンバーが決めていく。 そしてあかねも意地を見せるかのように決める。 続けて、真映。今まで的に吸い込まれていた矢が、僅かにぶれた。


「…………っ」

真映は唇を震わせながらも、礼を崩さず下がる。 駆け寄った楓が、真映を抱きしめる。 まゆ、二乃、菓がそこへ重なる。言葉は無かった。


競射は続く。 ここで、つばめ、あまつが連続して外す。だが、続く杏子は最初の矢と寸分違わぬ姿勢で的に届ける。 この段階で杏子は当確。 続けて、紬、栞代が連続して当てる。 この段階でこの三人は確定した。


そしてあかね。

今まで、決めなければ脱落、という場面を踏ん張ってきたあかね。

一転、ここで的を捕らえれば、全国大会出場メンバー入りが決まる。

まさに運命の一射。

だが。

矢はぎりぎり外してしまう。


まゆが声にならない悲鳴をあげる。

地区予選で一緒に組んだメンバーも、唇を噛みしめる。楓、真映、菓。あのときのメンバーで残っているのは、杏子を除けば、あかねだけだ。

しかし、あかねの目は前を見続けている。


杏子、栞代、紬、の三名は、選抜大会準優勝メンバー。結果だけを見ると順当にも思えたが、やはり大舞台での経験は伊達では無かったということだろう。


残る二つの椅子を、つばめ、あまつ、あかねの三名が争う。 つばめが決め、あまつが決め、あかねも続く。


夢と希望をかけた一本は、なおも続いた。 三人の夢と希望、今までの経験を総動員した姿を見せ続ける。つばめが決める。あまつが決める。そして、あかねが決めた。 地区予選のメンバーの中で、唯一残っていたあかね。まゆの想いを背負い、杏子の隣に立ちたいと願った彼女の執念。


しかし、決着が着く瞬間は必ずやってくる。 ――あかねの放った、運命の一本。 それは、吸い込まれるような軌道を描きながらも、的に届かず砂に突き刺さった。


最後の二つの椅子が決まった。


その瞬間、道場を、息をするのも憚られるような深い静寂が支配した。 誰もが息を殺し、道場は一瞬水底に沈んだように景色が歪んで止まり、複雑に絡み合った感情が、重く沈殿した。


次の瞬間、まゆがあかねに駆け寄った。倒れるギリギリで、あかねに飛び込んだ。


「まゆ……杖なしで歩ける距離がまた伸びたな」

あかねがいつもと変わらない明るい声でまゆに話しかけるが、まゆはただただ抱きついて、声を出すことができない。


「つばめ、あまつ、頼んだで」

あかねはいつものように笑顔を崩さず、二人に声をかけた。 つばめとあまつも、あかねの元に寄り添う。 なにか声をかけようとするも、二人もまた、声にはならなかった。


拓哉コーチの声が響く。

「よし、メンバーは決まった。 栞代さん、つばめさん、紬さん、あまつさん、そして部長。以上の五名を全国大会メンバーとする。そして予備メンバーとしてあかね。ブロック大会のメンバーは、休憩後に発表する。それでは、一旦休憩」


杏子を中心に、全員が集まった。 誰にも言葉がない。栞代も、なにかを言おうとするが、言葉にならない。全員が戸惑いつつ、部室に戻った。


全員が部室に揃ったその時。 杏子が、火がついたように、突然泣き声をあげた。

「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」


部屋いっぱいに、抑えていたものが一気に破裂した杏子の泣き声が響きわたる。 栞代が慌てて杏子を抱きしめ、あかねがその上から二人を包み込む。 その涙が導火線となり、まゆが、楓が、真映が、あまつが、菓が、こらえていた声をあげて泣き崩れた。


それを見た、まだ的前に立ったことがない一年生フルーツトリオ、苺、葡萄、(しずく)ももらい泣きする。 一華も、紬も、二乃も、つばめも、いま声を出せば崩れるのが分かっているように、唇を噛み締めて耐えている。

一華はただ、崩れそうになる自分を繋ぎ止めるように、脱落したメンバーを一人一人、強く、強く抱きしめて回った。 言葉の代わりに、せめてもの気持ちを渡すように。


休憩時間が終わっても、部室に籠もったメンバーは、誰も道場に行こうとしなかった。いや、行くことができなかった。


そこへ、拓哉コーチが部室に入ってきた。 さも部室で発表するのが当然のように、言葉を発した。


「それでは、ブロック大会のメンバーを発表する。 メンバーは、栞代さん、ソフィアさん、あかねさん、紬さん、部長、そしてまゆさんを予備メンバーとする。去年、この大会では、見事に負けてるからな。今年はやり返すぞ」


そう言ったあと、拓哉コーチは全員の涙顔を見渡し言った。


「よし、今日の練習はもうここで終わりだ。明日からはテスト勉強しなけりゃならないけど」


一拍おいて、悪戯っぽく笑う。


「これは命令だ。今日はここで解散! 全員で……思いっきり、遊んでこい!! 遊ばんやつは、除名やっ」


ようやく、誰かが小さく笑った。 それは、最強の五人と、それを支える最強の仲間たちが、変わらず一つである、という宣言に聞こえた。

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