表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
503/581

第503話 それぞれの弦音(つるね)

全国大会出場決定の垂れ幕が、初夏の風を受けて誇らしげに揺れている。 白地に墨で書かれた力強い文字は、登校する生徒たちの目を引き、校舎全体を華やかな祝祭ムードで包み込んでいた。 しかし、その喧騒の裏で、光田高校弓道部の道場には、これまでで最も重く、鋭い「静寂」が立ち込めていた。


全国の舞台に立てるのは、わずか五人。 今の光田には、誰が選ばれてもおかしくない。……そんな残酷なまでの実力者が揃っていた。


県大会終了後すぐに試合に向けての激しい練習が始まった。その中で、杏子は、一華やコーチと並んで、部員の姿勢のチェックを続けていた。最高の状態で。悔いのないように。杏子はそれだけを望んだ。

そして、自身は、通常練習の終了後、栞代と中田先生の道場に通い、追いこんでいた。


【栞代】


地区予選の選抜試合で負けた日のことは、一秒たりとも忘れられない。 一本の差。紙一重の敗北。 もう二度と、あんな思いはしたくない。 あの時、オレの中に油断も奢りもなかったはずだ。それでも負けた。 だから、怖い。 それは要するに、「実力がなかった」という冷徹な事実を突きつけられたということだから。


一華(いちか)がくれた映像を、何度も何度も見直した。 ほんの僅かの狂い。自分でも気づかないほどの心の揺れが、指先に伝播していた。 コーチにも何度も何度も食らいついた。「なぜ外れたのか」「何が足りないのか」。


杏子に初めて出会った日を思い出す。 自己紹介で、震えながらも真っ直ぐな瞳で目標を口にした杏子。 あの日から、あいつは全くぶれていない。 あの日、杏子に言われた言葉。 「一緒にがんばろうね」


あの言葉が、今も鮮烈に蘇る。 そこは大丈夫だ。「頑張ること」はもう辞めようとしていたオレを、またこうして、ヒリヒリする世界に連れ戻してくれた。 この、残酷で、熱くて、素晴らしい世界に。

杏子、ありがとう。 その思いを表現するよ。お前を倒してな。


昨日の夜、中田先生の道場での練習が終わったとき、先生から声をかけられた。

「杏子、強いだろ?」

「はい、強いです」

「倒してこい」


ああ、分かっている。 最高の感謝を伝える方法は、ただ一つ。 お前を倒して、その隣に立つことだけだ。



(つむぎ)


それは、わたしの、課題では、ありません。


「弓道は一人で出来るから。そう思ってこの部の門を叩いた。

弓道は自己完結できる競技だ。それは今も間違っていないと思う。 一人でできる。他人の感情に振り回される必要はない。 関わり合う必要もない。

でも、杏子が私を放っておいてくれなかった。栞代が無理やりみんなの輪に引き入れた。 面倒くさくて、恥ずかしくて。……けれど、悪くない心地よさだった。


弓道は一人でできる。でも、団体戦は一人では出来ない。 連携。流れ。気持ち。 苦手な感情の表現にも取り組んだけど。でも、苦手なことは二の次だ。 余裕があればやればいい。今は、弓に集中する。

一華の、記録と統計、分析という根拠に基づいた冷徹な指摘は私の性に合っている。感情論で誤魔化さないところが信用できる。


杏子の側で一緒に引きたい。 けれど、もし負けたら、私より強い人が側に居るということ。 それはそれでいい。チームが勝つことが最優先だから。 ただ、私は私の「できること」をやるだけ。 それだけが、私の課題だから。



【まゆ】


やっぱりまだ戻ってない。 練習のブランクもそうだけど、身体の芯の部分が、まだ完全じゃない。 でも、なんの後悔もしてない。

コーチと相談して、無理を承知で抜擢してくれた五月の練習試合。 対戦相手からのすごい圧力を、杏子が、そして真映(まえ)(かえで)(くるみ)が跳ね返してくれた。 少し無理しちゃったけど。それがなければ、あの日のみんなの笑顔も、結果も無かった。 だから、なんの後悔もしていない。


今回の選抜試合、欠場も頭をよぎったけれど、この試合だけは出ないわけにいかなかった。 結果を残すためじゃない。 弓道に対する、そして私を部に引き入れてくれた、杏子に対する「姿勢」を、みんなに見せなくちゃ。 車椅子でも、身体が万全じゃなくても、心は折れていないってことを。 杏子、見ててね。


【ソフィア】


Nuolet lentää vain eteenpäin, eiks niin.

Mayu sanoi sen nauraen.


Silloin kun mä vähän valitin, että olisin tarvinnut vielä vähän enemmän aikaa.


On ihan turhaa käyttää aikaa katumiseen.

Kyllä mä sen ymmärrän.


Tsumugi on ollut mun vierellä koko ajan.

Ja mun vaari ja mummo on tukeneet mua koko ajan.


Viime vuoden valintakisa…

oli oikeesti tosi hauskaa taistella siellä kaikkien kanssa.


Vielä kerran.

Yhden kerran vielä yhdessä.


Mä tulin tänne, koska Akiko veti mua puoleensa.

Mä haluan olla Akikolle voimaksi.


Jos en voita,

se tarkoittaa vaan sitä, ettei mulla vielä ollut siihen tarpeeksi voimaa.


(矢は前にしか飛ばないよ。

まゆが笑いながら言ってたっけ。

わたしが、もう少し時間があればって少し弱音を吐いたとき。

後悔してる時間が勿体ないよ。

意味は分かるよ。

紬がずっと一緒に居てくれて。

おじいちゃんとおばあちゃんがずっと支えてくれて。



もう一度。

もう一度一緒に。あの一体感の中へ。

杏子に惹かれて来たんだから。

杏子の力に、なりたい。

だけど、もし勝てなかったら、それは私がまだ、その場所にふさわしい「強さ」を持っていないということ。それだけ。残念だけど。



【あかね】


まゆ、やっぱり試合に出るんだな。 今回ばかりは止められない。最後だもんな。 試合に出て、弓道に対する気持ちを、杏子に対する感謝を示したい。 そんなことを言われたら、止められないよ。 止める気も無かったけど。


それにしても。

ふーっ。

勝ちたいなあ。 もともとは、まゆのための偵察気分だったけど。 杏子の真っ直ぐな瞳に当てられて、まゆも決意を固めて。 杏子はまゆに本当に良くしてくれて。 そのうち、わたしも一緒に引きたいって思うようになった。


地区予選での選抜試合で勝って、レギュラーとして杏子の横に立ててほんとに嬉しかったけど、結果に繋がらなかった。 悔しかった。 まゆに代わって出場した五月の鳴弦館との試合もそうだったけど。やっぱり結果が欲しい。個人的には最高の結果を出してるんだけど、団体戦は一人の目標よりずっと重くて、大変だ。

すごいメンバーが揃っている。けれど、誰にも譲りたくない。 杏子の隣を。


【真映】


勝ちてーなー。 公式戦で親分と組めて喜んだけど、それだけじゃあかんかったんや。 親分と組んで、なんか一つ殻を破った気はしてるけど。 調子に乗ったらすぐに崩れる。 一華に怒鳴られた日々を忘れるな。 強いやつが、親分と組める。シンプルや。 なら、私が最強になればええ。 宇宙の帝王の右腕になるんや。



【楓】


反復練習は得意。 最初に瑠月(るか)さんと杏子部長に教えてもらったことは、もう何万回繰り返しただろう。 鳳城戦で感じた、あの「ゾーン」に入る感覚。

今、すべてを出し切りたい。 杏子部長、見ていてください。私があなたの背中をどれだけ追いかけてきたか。あのときの感覚が蘇ってくれたら、勝負になるはず。 そして、一緒に……。



【つばめ】


ほんっと、みんな強いからなあ。 姉ちゃん(つぐみ)の図太さが、もう少しあればなあ。 スランプ自体は仕方ないけど、気持ちはもっと伝えるべきやったわ。 でもま、考えてみたら、姉ちゃんとの個人戦は勝ち逃げ、か。ま、それも悪くないわ。 問題は団体よな。 杏子部長を支えてくれって姉ちゃんの願い、団体での直接対決で姉ちゃんに勝つ。 一石二鳥が待ってるからな。ここを潜り抜けないと。 真映も楓も、急に強くなったからなあ。 いやいや、絶対に勝つぞ。



【菓】


高校は高校の努力がいる。そんなことは分かってたけど。 もうずっと全力で走り続けてきた。もう少し。 ここをクリアしたら、少し落ち着ける。 だけど、ほんとにずっと試合してる感じする。 姉貴にもいい報告したいしな。 最後に杏子さんと一緒に試合に出るチャンス。 やるしかない。


【あまつ】


よし。落ち着け、落ち着け。 ここで結果を出さなきゃ、お父さんに顔向けできない。 麗霞さんとの個人戦の直接対決を逃した今、団体戦しか残ってない。


県大会でのズレは、一華と杏子さんのおかげでもう完璧に戻った。 あとは、わたしの矢を引くだけ。 いろんな思いは、的には関係ない。 杏子さんを見習って。 近くに居たら、信じられないことばかりだけど。 このために、わたし、鳳城を蹴って、光田に来たんだから。


【杏子】


金メダルを取って、おばあちゃんにプレゼントしたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ