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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校3年生
502/581

第502話 『鉄壁の祖父とコンビニプリン』

県大会の表彰式が終わり、夕方の光が長く伸びていた。会場の外は、光田高校弓道部の熱気に包まれていた。


「杏子! 栞代(かよ)! おめでとう!」

あかね、ソフィア、まゆたちが駆け寄り、次々と祝福の声をかける。応援していた、明日、自分たちの試合を控えた男子部員たちも、興奮気味に後に続こうとしたが――。


「……そこまでじゃ。寄るな、若造ども」


そこに立ちはだかったのは、仁王立ちになっている、杏子の祖父だった。

「お祝いは受け取った。ありがとな。はい、次」


お祝いを言おうと近づく男子部員に対し、失礼寸前……いや、完全にアウトな威圧感を放っている。

「お、おめでとうございます、杏子さん……」

「うむ、聞こえとる。そこから動くな。ぱみゅ子に触れるな」

「……すみません」

あまりの剣幕に、男子部員たちは石のように固まる。 そこへ即座に栞代が慌ててフォローに入った。

「おじいちゃん! その言い方! ……ごめんな、気にせんで」


さらに、おじいちゃんの方針に賛同した(かえで)(しずく)が、ささっと杏子の両脇を固める。

「お祝いの言葉は、私たちが責任を持って伝えますので! 直接話しかけるのはご遠慮ください」

「はい。丁重に、正確に、漏れなく伝えますので心配はいりません。立ち止まらないで」

「杏子はアイドルかパンダかいっ」

栞代がすかさず突っ込む。


護衛か、受付か。 どちらとも取れる完璧な布陣に、一華(いちか)が満足げに深く深く頷いていた。

「……よし。完璧な防衛陣形です」


一方、勇気を出して意中の相手に近づこうとした男子たちもいた。 まゆの大ファンである松平清純と、ソフィアに心を捧げる海棠(かいどう)哲平だ。二人が健闘を誓おうと歩み寄るが、まゆの前にはあかねが、ソフィアの前には(つむぎ)が「壁」として立ちはだかる。

「松平くん、応援はありがたいけど、まゆは今、疲れてるから」

「海棠、ソフィアは、夕食の時間です」

鉄壁のガードにより、会話一つままならない。まゆもソフィアも、別に頼んではいないのだが。


それを見て、おじいちゃんが「うむうむ」と満足げに腕を組んで深く頷いた。

「これこそ光田高校弓道部じゃ。必要以上に男子と交流する必要など、全くもって、一切なし!」


しかし、そんな光景を見た栞代が、ニヤリと笑って男子部員たちに声をかけた。

「おい、お前ら! 明日勝って、男女で全国行けたら……合コンしてやっからな!」


その言葉に、常に冷静な部長の山下を除く男子部員たちが、試合に出場しない一年生から二年生まで全員で、

「うおおおおお!」

と一斉に野太い歓声を上げた。

「よっしゃあああ!」

「絶対勝つ!」

「全国行くしかない!」

一、二年生が叫ぶ。……試合をするのは三年生だが、気合いだけは十分だ。


祖父が即座に食いつく。

「ふざけるな! 栞代っ。わしのぱみゅ子は絶対に参加させんぞ!」

「いやいや、おじいちゃん、落ち着いて。あいつらの目的はまゆとソフィアと葡萄(ぶどう)だから」


「……え?」

栞代にさらっと言われ、それはそれで複雑な顔になる杏子の祖父。

「ふんっ……ぱみゅ子の魅力は、しょんべん臭い高校生には理解不能だからのう」

負け惜しみのように吐き捨てた。


そのころ、当の杏子は、喧騒から少し離れたところで、祖母の側にぴったりと寄り添っていた。

「杏子ちゃん。……素晴らしかったわよ」

祖母が試合後に杏子へかける言葉は、毎回ほとんど変わらない。 それでも杏子は、その一言を聞くたびに、胸の芯からとろけるように笑う。


その様子を遠くから見守っていた一華は、心の底から安堵していた。

(……よかった。これで杏子部長の夢への、最初の一歩が記せた)


もちろん、ここからが本番だ。全国の舞台に立つには、部長の杏子であっても、光田高校が誇るハイレベルな「部内選抜試合」を再び突破しなければならない。ほんの小さな歯車の狂いで順位がひっくり返る。 それくらい、今の光田は層が厚くなっていた。


祖父母と別れ、部員たちは旅館に戻った。 夕食の席で、拓哉コーチが珍しく真面目な声で言う。

「よくやった。まずは、おめでとう」

一拍置いて、紙袋を持ち上げる。

「ご褒美を用意した」


部員たちの目が一斉に輝く。 次の瞬間、テーブルに並んだのは——コンビニのプリンだった。


「……えっ」

「プリンやん」

「いや、好きですけど!」


真映(まえ)が口を尖らせる。

「コーチ、もっと奮発してくださいよっ!」

「次からな」

「渋いっすねえ……」

笑いが起きる。 その空気が落ち着いたところで、コーチは続けた。


「それと、部内試合の日程を伝える。期末テスト前、練習規制が入る直前だ。特に三年生は最後の大会になる。だからと言って、優遇措置は一切ない。悔いのないように。

ブロック大会の選考も兼ねるが、こちらは当日の試合結果を参考に、今までの総合評価を加味し決定する。これも即日に発表する」


部員たちの背筋が伸びる。 有力なのは県大会メンバー。だが、地区予選の選抜試合を勝ち抜いた側にも、当然意地がある。 「どうせ決まってる」なんて顔は、ここには一つもない。


翌日。男子の試合は、女子の「圧倒」とは対照的な、血を吐くような接戦の連続だった。 海浜中央、紀央西といった強豪がひしめく中、光田男子は予選を2位で通過。 決勝トーナメントは、まさに「薄氷の勝利」の連続だった。


準々決勝 光田 14 - 13 貝沼

準決勝  光田 15 - 14 上尾

決勝   光田 15 - 14 紀央西


全試合、一本差。その最後の一本をすべて射止めたのは、ソフィアへの想いを弓に乗せた(?)「おち(5番目)」の海棠だった。 滝本顧問が復帰して、ようやく掴んだ全国への切符。 男女そろっての優勝は、長い光田高校の歴史でも数えるほどの快挙である。


応援席では真映が大興奮し、苺、葡萄、滴の一年生、フルーツトリオを従えて祭りのような騒ぎ。

男子の一・二年生も

「いったああああ!」

「全国! 全国!」

「海棠先輩、神!」

と口々に大騒ぎ。


滝本顧問は、いつもの、部員たちをビビらせている“悪魔の微笑み”を浮かべたまま、頬に一筋の涙を伝わせていた。 それを見た男子一・二年生は、なぜかいつもよりさらにビビっていた。


誰よりも喜んでいたのは、光田弓矢会の高階会長だった。

「期末テストが終わったら、盛大に祝勝会を開こう!」

会長のその言葉に、部員たちの士気は最高潮に達した。



週明け、登校した杏子たちの目に飛び込んできたのは、校舎に誇らしげに掲げられた大きな垂れ幕だった。


『祝・弓道部 男子・女子 全国大会出場決定』


白地に太い墨。風に揺れるその文字を見上げて、誰もすぐには言葉が出なかった。


杏子にとって、初めての垂れ幕では無かったが、高校生活最後の垂れ幕だ。 やっと、実感が追いついてくる。 喜びと、重さと、これから始まる本当の勝負への緊張が、同時に胸へ入ってくる。


杏子は小さく息を吐いて、隣の栞代を見る。 栞代も、同じ顔をしていた。

「……行くか」

「うん」


「おめでとうっ」

垂れ幕を見た同級生たちが声を掛けてくれる。 真っ赤になって俯く杏子に代わり、挨拶を返すのは栞代の役目だ。

「ありがとう」


しかし、全国大会出場へは、最大の試練が待っていた。 喜びの余韻に浸る暇もなく、彼女たちの前に立ちはだかるのは、残酷なまでの現実――再びの部内選抜試合だった。

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