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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
385/432

第385話 卒業試合 その5

少々の休憩時間を挟み、道場には先ほどまでの団体戦とはまた質の違う、静かで、どこまでも張り詰めた緊張感が漂い始める。


一順目。栞代、中てる。紬、中てる。冴子、中てる。杏子、中てる。

二順目。栞代、中てる。紬、中てる。冴子、中てる。杏子、中てる。


やや調子を取り戻しきれていないように見えた冴子だったが、この土壇場での勝負強さ、集中力はさすがだった。


三順目。四順目。誰も一歩も引かなかった。


ここで、中田先生の指示により、的が小さい八寸的に変更される。


最初に引いたのは紬。放たれた矢は──わずかに下へ。外れ。

大きな、大きな拍手を受け、紬は静かに一礼し、射位を退いた。ソフィアと楓がその両脇を固めるように、拍手で迎えた。


そして、二巡目。

栞代。彼女の放った矢もまた、ほんのわずかな差で的の左へと逸れていった。外れ。

栞代もまた、大きな拍手の中、悔しさは微塵も見せず堂々と射位を後にした。自分の力を出し切った、納得の一射だった。


残ったのは二人。

奇しくもそれは、光田高校弓道部の新旧の部長対決となった。


同門対決に弱かった杏子。その最後の感傷が、ここで顔を出すのか。去りゆく偉大な先輩に花を持たせようという意識が働くのか。


あるいは冴子。ブランク明けの練習では全く取り入れていなかったこの小さな的に、果たして対応し続けることができるのか。


果たして──。


先に引いたのは冴子。

その矢は──無情にも、的のほんの数センチ上を通過していった。外れ。


続けて、杏子が構える。

残された相手が、あの尊敬する冴子部長であったとしても。今の杏子は、もう全くブレてはいなかった。


これが、わたしの今の最高の姿です。


その姿勢こそが、去りゆく冴子に示すことができる最大の感謝であり、敬意なのだと、彼女は知っていた。


一寸の狂いもない美しい姿勢で弓を引き絞り──放った。


カァンッ!


澄んだ空気に、一点の曇りもない美しい弦音と、完璧な的中音が重なって響き渡った。


大丈夫だ。杏子に任せておけば、もう何も問題ない。

わたしたちが歩んできたこの道は、決して間違ってなんかいなかったんだ。

瑠月と沙月が、大きな拍手で冴子を迎える。


礼をし、射位を退く杏子に、瑠月と沙月、そして冴子が歩み寄る。


道場は、割れんばかりの大きな拍手に包まれ、その音はいつまでも鳴りやまなかった。


「……やっぱり、強いな、部長」

冴子が晴れやかな顔でそう声をかける。

「ちょっとは弱点見せろよ」そして、笑う。


「い、いえ! 部長こそ、さすがでした! めっちゃプレッシャーでした!」

「嘘つけ、この宇宙人めっ!」


現役生たちも一斉に駆け寄り、その輪は幾重にも広がっていく。全員で控室へと戻った。


「いや〜〜〜っ! 親分! さすがっすね〜!」

もうすっかりいつもの調子に戻った真映がおどける。


「真映もすごかったな」

冴子がそう褒めると、真映は満面の笑みを浮かべた。


「うぉっ! せ、先代の親分に褒められたっ! 初めてっ! ……弓道続けてて、ほんっとに良かった〜〜〜! 何度辞めようと思ったことかっっ」大げさに泣きまねをする真映。続けて、

「さ、あとは死ぬまでに一華に褒めてもらえたら、もう言うことないわっ!」

と続けたその瞬間。いつの間にか真後ろに立っていた一華が、

「……それはありえませんね。……まあ、真映が部長を超えられたら、その時は考えてもいいでしょう」

と、こちらもすっかりいつもの調子に戻った一華が、抑揚のない声で言い放った。


これまたいつも通り。真映が嘆き、まゆが言葉をフォローし、栞代のつっこみに紬が締める。部室が大きな笑いに包まれたその時だった。


ドアがノックされ、スカウト担当の大和コーチが顔を出した。

「よう、みんな、すごかったな。いい試合だった。……どうしても挨拶したいって子がいるんだけど、挨拶させてもいいか?」


そう言って彼が招き入れたのは、あの城塚あまつと仙洞寺菓の二人だった。

二人とも、頬は興奮で紅く、その瞳は感動に潤んでいた。


「あ、あの……! 本当に素晴らしい試合を見せていただいて、ありがとうございました! もし合格できたら、絶対こちらでお世話になりたいです! なりますっ! よろしくお願いします!」


「入れ違いか」

冴子が軽く応じる。瑠月も沙月も、未来の後輩たちと笑顔で握手を交わした。


「ふふっ。やっぱり、若い子は手が柔らかいわ〜。」

沙月が感心したように声をかけると、


「どれどれ?」

と真映が割り込んできて、二人と握手をし、笑わせた。


「杏子さんはもちろんすごかったですけど、他の皆さんも本当にすごかったです。あんなに追い込まれた場面でも、平常心で的中させて……そんな場面を何度も見せていただいて、本当に感動しました。光田高校弓道部の本当のすごさを見ることができました。入部できたら、一日でも早く皆さんに追いつけるよう頑張ります!」


「「ありがとう」」

杏子と冴子。新旧二人の部長の声が美しく重なった。


「まあ、いろいろと話したいこともあるだろうけどな。この二人は、まだ合格発表もこれからだ。今日はこの辺で失礼するよ。……そろそろ拓哉も来るだろうしな。みんな、またな」

そう言って明るく手を振り、大和コーチは二人を連れて部室を出て行った。


その言葉通り。入れ替わるように拓哉コーチがやってきて、全員を再び弓道場へと呼び戻した。


そこには、夏の合宿の時の臨時コーチたちが勢揃いしていた。卒業生へのお祝いの言葉。そして今日の素晴らしい試合への感想。それぞれが短く、しかし心のこもった言葉を贈った。


「……今日は本当に疲れただろう。後片付けが終わったら、まっすぐ家に帰ってゆっくり休め」


拓哉コーチはいつも通りクールにそう言うと、自らは見学に来てくれていた保護者たちへの挨拶へと向かった。


杏子は、その輪の中に見慣れた優しい顔を見つけ、いつものように駆け寄った。

「ね、おばあちゃん、わたし、どうだった?」


まるで授業参観の感想を母親に聞く小学生のように、目をくりくりさせながら尋ねた。

「ええ。杏子ちゃん、本当に素晴らしかったわよ」

杏子の両手を優しく握り、祖母はこれまたいつも通りの優しい言葉を返した。


杏子はその一言だけで、照れながら、満面の花が咲くような笑顔を浮かべる。


弓道部のメンバーたちは、その純粋で幸福な笑顔を見ては、また自分たちまで幸せな気持ちになっていた。


「あの笑顔には、地球人では対抗できませんね」

真映が栞代に手痛いつっこみを受けていた。

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