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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
384/432

第384話 卒業試合 その4

卒業生チーム、七中。それは、現役生たちにとってあまりにも高く、そして美しい壁であった。


だが、続く杏子・真映・まゆ組は、その壁に見事食らいついた。最後の、まゆの願いの結晶とも言える一射によって、奇跡的に七中同中へと持ち込んだのだ。控室に戻った時の、あの真映の涙ながらの抱擁は、いつまでも温かい余韻として残っているかのようだった。


そして次に的前に立ったのは、あかね、楓、栞代のチーム。


「まゆに続け!」

そのあかねの気合のこもった想いと共に、放たれた矢は美しい軌跡を描き、的を見事に射抜いた。


しかし、続く楓は先ほどの杏子組のあまりにも劇的な展開を目の当たりにして、逆にガチガチに緊張してしまっていた。大きく的を外してしまう。


その後ろで弓を構える、栞代。


楓! 落ち着け! 大丈夫だ! お前ならできる!


そう心の中で強く念じながらも、次の瞬間、彼女は己の射だけに意識を集中させる。栞代の土壇場での勝負強さは、この部でも随一だ。まだ身体に馴染みきってはいない斜面打起し。だが、その射は力強く、そして気持ちが乗っていた。


その頼もしい先輩の想い。それが、楓を絶望の淵から引き戻した。あかねが目の前で続けて外し、先輩も惜しくも外し、嫌な流れのなか、外せば負けが決定するという瞬間、彼女はまるで憑き物が落ちたかのように、見事に的中させたのだ。


あかね 〇××

楓    ××〇

栞代  〇×


だが、追いこまれた状況には変わりなかった。残り4射、全的中が必要。

栞代が決める。

あかねで決める。

楓が決めた。


追いこまれた状況の中だからこそ、開き直りとも言える集中力が続いた。

そして栞代が完璧な射を見せた。その土壇場での精神力は、まさに圧巻であった。


結果──合計七射。またしても卒業生チームと同中。


これまた大きな拍手に包まれて、チームはチームが控室に戻った。笑顔で待っていた杏子を見た瞬間、楓が「部長……!」とただ一言だけ呟くと、そのまま杏子の胸に飛び込み、(せき)を切ったように大粒の涙を流した。


「すごかったよ、楓。本当にすごかった。よく、あそこから立て直したね」


杏子がその背中を優しくさすりながら声をかける。栞代とあかねを、真映とまゆが大きな笑顔と拍手で迎えた。


「いや〜〜〜っ! 若頭! あの最後の一本! まじちびりそうでしたよ!」

「おい、だから、そういう言い方やめろって。……でも、ほんと、最後の5連続的中はすごかったな」

そう言って、栞代は笑い、あかねと固い、固い握手を交わした。


そして、現役最後の組。ソフィア、つばめ、紬のチームが的前に立った。

このチームは、前の二組とは対照的に、序盤から順当に的中を重ねていく。


ソフィア ×〇〇

つばめ 〇×〇

紬    〇〇


残り四射。その時点で、すでに六中。あと二射()てれば、卒業生チームの記録を上回る。彼女たちの力なら勝てる。


状況に左右されない。その意味では、杏子にも通じるほどの落ち着き、無神経さ、図太さとも言える精神力を持ち合わせている、紬。彼女なら、と彼女を知るものすべての想いがあった。


だが──。


放たれた矢は、ほんのわずかに的の上を逸れた。

道場に小さな悲鳴が漏れる。


常にギリギリのところでの射。いろんな想いが交錯する。

そして、その動揺が伝染したのか。続くソフィア、つばめが立て続けに矢を外してしまった。


つばめは、去年のブロック大会で姉・つぐみを超えて以来、ずっと長いスランプの中にいる。無難にまとめることはできても、あと一本という場面での勝負強さが完全に影を潜めてしまっている。それが今の彼女の最大の課題だった。現在、一華の最重要課題であり、杏子が最も心を砕いているところでもあった。


最後の一射。落ちの紬。

ここで()てなければ、追いつかない。外せば届かない。

正のプレッシャーから一転、追いこまれた負のプレッシャー。わずか一射の間に置かれた立場は裏表だ。


だが──。


こういう「決めなければ負け」という極限の場面において、異様なまでの強さを発揮するのが、また、この(ひいらぎ)紬という射手であった。


彼女は静かに息を吸い込み、そして放った。

矢は、寸分の狂いもなく的の真ん中を射抜いた。

結果、七射的中。またしても卒業生チームと同点。


三人が控室に戻る。同じように笑顔で迎える杏子。「紬、最後、完璧な姿だったねっ」そうと声をかけるも、「それは、わたしの課題では、ありません」と、いつものセリフが帰ってくる。

ソフィアが後から「Tsumugi, sinä onnistuit!」と声をかける。

「ソフィア姐御(あねご)、意味分りません」真映が突っ込むと、

「Tsumugi, you did it!」と言いなおす。真映がさらに

「それも分りませんっ」と涙目になるも、あかねがすかさず

「いや、それはちょっとマズイやろっ」と続けた。

栞代がお約束の言葉を投げる「紬、これはどう思う?」

「それは、わたしの課題では、ありませんっ」

「ここは正しいっ」栞代の一言で、控室は笑い声で包まれた。



全ての射が終わり。残されたのは、全チームが七本的中で並ぶという、信じられないような結果だった。


この結果をどう解釈するのか。それは、その場にいる一人ひとりに委ねられた。

だが、勝負は勝負。決着はつけなければならない。


各チームの代表者一名による競射。

卒業生チームからは、当然、予定通り、前部長の三納冴子が選ばれた。


そして現役生からは──それぞれ、杏子、栞代、紬。この三名が、打倒・冴子のために選出された。まさに今の光田高校が誇る最高の布陣、今回は団体で戦う訳ではないが、全国選抜大会、準優勝組だ。


抽選の結果、射順は栞代、紬、冴子、そして、杏子の順と決まった。


少々の休憩時間を挟み、道場には先ほどまでの団体戦とはまた質の違う、静かで、どこまでも張り詰めた緊張感が漂い始める。

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