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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
378/432

第378話 栞代のモノローグ ~巣立ちの前の静かな誓い~

入学試験の最終日。面接試験。

後で、北澤先生からこっそり聞いた話によると、城塚あまつと仙洞寺菓の二人は、落ち着いた態度の中に、隠しきれないほどの強い意志を滲ませていたらしい。「絶対にこの高校に入学し、弓道部で杏子部長と共に弓を引きたい」と、その全身から、思いを発散させていた、と。

仏の北澤先生は、この二人が真映の後輩になるのか、と感慨深かったらしい。


面接試験が終わった後、二人は弓道場を見学しに来たらしい。だが、この日在校生は、登校禁止。がらんとした誰もいない道場を、ただ静かに見つめて帰って行った、と。練習も見たかっただろうに。

……まあ、仕方ない。翌日部内試合だから練習しているとは思っただろうが、さすがに中田先生の道場までは、たどり着けんわな。


それに、もう一日滞在を延長して卒業試合を見るための交換条件が、それぞれの母親の「観光に付き合うこと」だったらしいから。二人は心残りはあっただろうけど、自分たちが春から通うことになる(であろう)、この街の散策を楽しんだということだ。


その頃、オレたち光田高校弓道部は。

明日に迫った卒業試合に向けて、最後の調整に入っていた。

道場には、いつも以上に張り詰めた、緊張感が満ちていた。

にこやかなのは一華だけ。

「みんなすごい集中。ここに機材が揃っていないのが残念。せめてスマホの映像だけは遺しておきます。やっぱりなにかあれば、違うなあ」。

そりゃ特別な試合だからな。


明日は卒業式。

冴子部長、沙月先輩、そして、瑠月さん。この光田高校弓道部を、どん底から立て直し、今のこの、温かくて強いチームの(いしずえ)を築いてくれた、偉大な先輩たちが、この場所から巣立っていく日なのだ。

ここ、二、三日、杏子は、明らかに感傷的になっていた。的に向かっている時は、相変わらず宇宙人並みの(宇宙人知らんけど)、集中力を見せる。だが、一旦、弓を手から離すと、すぐに卒業式のことを考えてしまうのか、目が潤む。


その杏子の様子に、最初に気づいたのは、やはりこの人だった。

練習の合間、杏子の隣に、すっと立った冴子部長。

「……おい、部長。卒業試合の団体戦のメンバー割りは、もう出来ているんだろうな?」

「え? あ、い、いえ……部長、まだ、です……」

「そうか。……なら、決めろ。今すぐに、だ」

その声は、静かだが有無を言わせぬ、前部長のそれだった。

「いいか、部長。卒業試合はただのお遊びじゃない。わたしたち三年生にとっても、そしてお前たち現役生にとっても、真剣勝負だ。……お前たちは、今の光田高校弓道部の最強の布陣で、わたしたちに挑んでこなければ失礼だろう。……お前が部長として完全勝利するための、最高の組み合わせを、最強の順番を、考えろ。そして、練習時間で試せ。残り時間は少ないぞ」

「あ、そ、そう、ですよね……! すみません!」

「いつもはコーチの役目だが、……今回コーチは審判に回る。中立の立場だからな。采配は全て部長である、杏子にかかっているんだぞ」

そう言って冴子先輩は、にやりと笑った。


(……くそっ。さすが冴子部長だ。……ほんとうに杏子のことをよく、分かってる)

オレは、心の中でそう呟いた。

思えば、現役、最後の試合となった、あの蓮遥祭の時もそうだった。大会の直前に杏子を次期部長に指名することを打ち明け、杏子に「自分が部長?」と戸惑わせ、気持ちが自分たち三年生の引退へと向かないように、細心の配慮をした。


まるで杏子のために杏子を部長にしたかのように思われた。

今、それはそうではなく、完全に正しかったことが証明されている。

今回もそうだ。自分たちの卒業という感傷的な出来事に、杏子の優しすぎる気持ちが、全部向いてしまわないように。こうして新たな責任と課題を与えることで、彼女の意識を巧みに逸らしている。


弓を握っている時の杏子は無敵だ。

だが、弓を手放したその途端、杏子はまるで幼稚園児のように、純粋で、まっすぐで、優しくて、そして、どうしようもなくもろい。

冴子部長は、ずっとそんな杏子の危うさを見ていて、そしてずっと守ってくれていたんだ。

瑠月さんは、いつも隣に寄り添って、杏子の心を支えてくれた。

冴子部長は、部長として常に全体を俯瞰(ふかん)して、道を示してくれた。

そんな二人のコンビを、いつも後ろから笑顔でフォローしてくれていたのが、沙月さんだった。

……本当に、最高すぎるぜ、あの人たちは


卒業したら、今度はオレたちがみんなで杏子を守らないと。

あいつの夢のために。

そして、それはもうオレたち全員の夢でもあるのだから。

そのためにも、卒業試合は絶対に勝つ。

オレたちの成長した姿を、あの人たちに見せつけてやらないと。


卒業試合前日の夜。ここ数日はずっとそうだが、杏子の部屋のテーブルの上には、メンバー表と、いくつものメモ用紙が散らばっていた。

杏子は、オレ、まゆ、一華の四人でのグループLINEで、最後までメンバー編成と、射順について打ち合わせを続けていた。一華のデータとまゆの分析には随分と助けられた。


杏子の真剣な横顔を見ながら思う。

あの三人を相手に、絶対に勝たなければならない。もし負ければ、杏子にとってはかなり辛いだろうペナルティーが待っている。……いや、それ以上に最高の形で先輩たちを送り出さなければ。


……このくらいの厳しさとプレッシャーがなければ。杏子はきっと、明日の卒業式のことばかり考えて、メソメソしていただろう。

一つのことを考え出すと、他のことが全く考えられなくなる。杏子の不器用なまでの、一途さ。

……こういうところは、まさに、あのおじいちゃんとおばあちゃんの孫だって思う。


卒業式当日。

朝の散歩の時も、ここ数日そうだが、杏子はどこか上の空だった。明らかにプレッシャーを感じている。

おじいちゃんとオレは、いつも通り、くだらない話をして杏子を笑わせようとするが、その笑みは、どこか表面だけで繕っているようにも見えた。


杏子は弓道部を代表して、卒業式に参列することになっている。

変わってもいいぞ。そう、提案した。だが杏子は、きっぱりと首を横に振った。

「ううん。冴子部長が、わたしを選んでくれたんだから。その気持ちを後悔させたくない。……わたしがちゃんと役割を果たさないと」

頑張ろうとするところが、もう溜まらんぞ、杏子。


学校への登校途中。弓道部のグループLINEを覗くと、今日式には直接関係のない部員たちも、全員、朝から登校する、というメッセージで溢れていた。

誰もその理由は書いていない。だが、理由は一つ、だわな。

……これが、杏子が冴子部長から引き継いで、一年かけて育ててきた、弓道部の今の姿なんだ。

そのことを考えたら、ちょっと胸アツだな。


学校に着き、その、別れ際。

車で送ってくれた祖父が、杏子を呼び止めた。

「ぱみゅ子」

「なに? おじいちゃん」

「……今日はな、泣くのは解禁じゃ」

「え?」

「いっぱい泣いておいで。大好きだった先輩たちが、卒業するんじゃ。そんな寂しい時に泣かないなんてのは、無理な話じゃ。……じゃがな、寂しい、だけやないやろ? 感謝の気持ちも、いーーーーっぱいあるはずじゃ。それに、卒業は単なる卒業で、終わりやない。まだまだ、先輩たちとは、形が変わるだけで、これからも一緒に歩いていくことになるんやで。……だからな、泣いてもええけど、泣くだけやなく、とびっきりの笑顔もいっぱい、先輩たちに見せてあげるんじゃぞ。……ほれっ」


そう言って、おじいちゃんが、ポケットから差し出したのは、まるで業者かと思うほどの、大量のポケットティッシュの山だった。そのあまりの多さに、杏子とオレは、二人で同時に噴き出してしまった。


……くそっ。いいこと、言うじゃねえか、おじいちゃん。

杏子は、祖父が自分の涙を見ると、すぐにパニックになるので、人前では極力泣くのを我慢する癖がついていた。

……でも、今日ばかりは、それも、解禁、か。ときどきはいいこと言うじゃんか、おじいちゃん。


オレは式には出られない。だが、修学旅行で、打ち解けた、テニス部の部長の遥に、杏子のことはよくよく頼んでおいた。


終わったら、部室でみんなが待ってるからな、杏子。

栞代は、まだ誰もいない弓道場へと向かいながら、そう呟いた。

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