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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
374/432

第374話 鬼部長からの最後の宿題 その2

「みんな、ちょっと、いいか?」

その声に、全員の視線が集まる。


「卒業式の日に、みんなが私たちのために、卒業の記念試合をしてくれるって、話は聞いた。本当にありがとう。……まあ、そのために、今日から練習しに来るんだけな。

……これから卒業式まで短い間だけど、また、この道場で練習させてもらう。少し迷惑もかけてしまうかもしれないけど。まあ最後だから堪忍してくれ」


「迷惑だなんて……!」

「最後だなんて……!」

杏子が俯いて、寂しそうに呟く。栞代が、無言で頭をそっと撫でた。


「それでな」

冴子は続けた。「その卒業試合なんだけどな。ただ試合をするだけじゃ、面白くないし、こっちも気合が入らん」

その言葉の響きに、現役部員たちの間に、ぴりり、とした緊張が走った。

「だから引退した我々ロートルに、もし万が一にも負けるような、そんなぼんくらな現役生がいたとしたら。……ささやかながら、ペナルティーを課すことに、した」


「「「えっ!?」」」

明るく、笑いに包まれていた部員たちの目の色が、一瞬にして変わる。

「今回の団体戦で、もし我々に負けるようなチームにはな。……ちょっとだけ、追加で、練習をしてもらおうと思う」


その、意外と穏やかな内容に、安堵の息が漏れた、その瞬間。冴子はにやりと笑って、続けた。

「もしも、杏子が所属するチームが負けた場合は、杏子以外の二人が。そうでないチーム、負けた場合は──」


冴子は、そこで一度息を呑み、全員の顔をゆっくりと見渡してから言った。

「そのチームの三名全員に、杏子と競射をしてもらう。勝つまでやってもらうからな」


「「「「「ええええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」」」」」

今度こそ、全員が絶叫した。

その中で、真映がいち早く声を上げる。

「そ、それって! 親分に勝たない限り、永遠に家に帰れませんって、そういうやつですか!?」

「ま、そういうことだ」

「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ、先代の親分! それは、もう一生ここで暮らせってことと同じじゃないですか! 親分は宇宙人ですよ!? 人間じゃないんですから! ただの人間であるわたしたちには、宇宙人に勝つことなんて、絶対にできませんよっ!」


「ふーん」

冴子は、まるで聞き耳を持たない。

「ちょっと、先代の親分! それはもう無理ゲーってやつですよぉぉぉ〜〜〜!」

「真映。お前さ、ごちゃごちゃ言わんと、わたしたちに勝てばいいだけの話だろ? 簡単じゃないか」

「か、簡単って……!」

真映の顔に絶望の色が浮かぶ。


ブランクはあるとはいえ、瑠月は全国選抜大会個人3位、冴子と沙月は、高校総体団体戦全国準優勝のレギュラーメンバー。とてもじゃないが、簡単に越えられる相手ではない。

当の杏子も戸惑いの色を隠せない。


真映はまだグダグタと冴子に泣きついている。

「なあ、真映」

「は、はひっっ」

「今までわたしが言い出したこと、変えたことあったか?」

「は、はひっっ、い、一度も、ありません……!」

「じゃま、そういうことだ。……これから、一緒に練習もすることになる。お互いの力もよく分かる。……簡単だろ?」 


冴子はそう言うと、ふっと笑った。「わたしも現役時代は、みんなにちょっと厳しく練習させすぎちゃったからなあ。最後くらいは、少し優しくしてやろうと思ってな」


最後の最後まで「鬼部長」らしい、優しい言葉(?)。隣で沙月と瑠月が、肩を震わせて笑っている。

そして冴子は、現役の部員全員の顔を、改めて見渡して言った。

「それに──。杏子部長のもとで、お前たちが、この半年で、どれほど成長したか。それを、この目でしっかりと見せてもらうからな」

「まったく成長してなかったら、部長としての能力がない杏子を部長にした、わたしも無能だってことだな」


この挑戦的な言葉。栞代はそれを聞きながら、心の中でにやりとした。

……さすが冴子さんだ。プレッシャーのかけ方がハンパない。でも、これだ。これが必要なんだ。

わたしたちが、全国で優勝するためには、この極限のプレッシャーの中で、どれだけ自分の力を発揮できるか。その経験が、絶対に必要になる。


……ま、杏子は例外だが。

あいつは、宇宙人(笑)だからな。

ただし。

杏子には、あの「同門対決に弱い」という、致命的な弱点があった。相手の事情を知れば知るほど、力を出し切れなくなる、あの甘さ。

……もう、今はそれは克服した。……だが、冴子さんは、もしかしたらそのことも、その目で確認したいのかもしれないな。


杏子に実力で勝てる奴なんて、この弓道部にはいない。いや、全国を探したって、そうはいないだろう。

……麗霞さん、連れてくるか? かぐや、呼ぶか? ……いや、それでも、どうかな? 今の杏子は完璧だ。ま、確かに相手も進化してるか。


だから他のメンバーは、杏子との、あの無限競射だけは、絶対に避けたい。そのために、死に物狂いで、三年生チームに勝とうとするだろう。

……それに。

負けたら杏子の顔に泥を塗ることになると言われて、うちのメンバーが大人しくしているはずがない。燃えに燃えるはずだ。


そして、もし万が一、負けたとして。

今度は、杏子のテストだ。あの弱点を本当に克服したのかどうか。それとも、これだけ仲の良い、同門のメンバーが相手だったら、どうなるのか。

(……もし、オレが相手だったらどうなるのか。……それはちょっと知ってみたい、かもな)


だが。

杏子を貶めようとするなら。たとえ冴子さんでも、許すわけには行かない。

そうだろ、みんな。


栞代は静かに、そして自らも、他のメンバーと全く同じように、確実に燃え始めていた。



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