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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
364/432

第364話 鬼部長、再び

練習開始前、更衣室で手間取ったその日の練習。その遅れを取り戻すかのように、いつもより、少しペースアップして行われていた。

準備運動から、最初の時間制での射込み練習が終わり、部員たちが、ほっと一息ついた、その瞬間だった。

道場の、重い引き戸が、がらり、と開いた。


「「お邪魔します」」


その、懐かしい声に道場にいた全員が、弾かれたように顔を上げた。

そこに立っていたのは、前部長の三納冴子と、松島沙月の二人だった。平日ということもあって、その身を包んでいるのは、見慣れた光田高校の制服姿だ。


二人は、まず職員室に寄り、担任に合格の報告を済ませてきた。その足で道場まで、顔を出してくれたのだ。

いつもは休日も顔を出す拓哉コーチだったが、修学旅行明けの先週末は、珍しく滝本顧問に変わってた。本日、久しぶりに練習をチェックしていた拓哉コーチに、二人は深々と頭を下げた。そして、大学でも弓道を続けるつもりであることを報告し、高校とは、また違う大学の弓道部の雰囲気や練習について、コーチの経験談を聞いていた。


コーチは、練習を一度中断させ、引退した先輩と現役生との、特別な時間を作ってくれた。


「「「合格、おめでとうございますっっ!」」」

部員たちの、心のここもった祝福の声。

「みんな、ありがとうな」

冴子と沙月は、照れくさそうに、しかし、本当に嬉しそうに笑った。

そこへ真映が、すっと一歩、前に進み出た。


「先輩方、この度の合格、誠におめでとうございます! わたくし、朔晦真映、この学内の、理不尽な権力による弾圧に敢然と逆らい、お二人への祝福のメッセージを贈ろうとしたのですが……! 無念にも、官憲の、張り巡らされた監視網に引っ掛かり、その場で発覚してしまいました! 我が相棒たる端末は、強制的に押収されましたが、わたくしの、先輩方を思うこの熱い気持ちは、永久に、不滅ですっ!」


その、真映らしいと言えばらしい、大げさな、そして、相変わらず時代がかった報告に、冴子も、沙月も、そして、弓道部の全員が呆れ果てていた。

ただ、一人、一華だけが冷静に、その言葉を翻訳する。

「……要約しますと、『授業中に,スマートフォンをいじっているのが先生にばれて、取り上げられた』、ということです」


「お前……」

あかねが、にやりと笑う。「今のセリフ、今日の授業中、ずっと、ノートの隅に書いて考えとったやろ?」

「……! あかね先輩! なぜ、私のことがそんなにも、お分かりになるのですか!? もしかして、私のこと、愛してます?」

「ああ、愛してる、愛してる。どうせ、他にも考えとったんやろ? ボツ案のセリフ、あるんやったら、ここで言うてみ?」


「えっ!? ちょっと、メモ、見ても、いいですか?」

「ええで、ええで」


「えーと、次点は、これです。

『合格、おめでとうございます! ワタクシ、先輩方の、この慶事を黙っておれず、修行中の身ではありましたが、極秘裏に、密命“祝電作戦(コードネーム:BRAVO OMEDETO)”を敢行しましたところ、学内治安維持部隊に検挙され、端末は証拠物件として押収……! 動機は、ただただ、冴子部長への愛、沙月先輩への愛、(ゆえ)で、ございます! なお、心の中では、既に三百回、『おめでとう』を送信済みであります!』……以上、担当エージェント、MAE、でした」

「……お前、それ、長すぎて覚えられへんかったから、断念しただけやろ」

「アネキー〜! そんなに、わたしのこと、愛してるんですねっ!」

「ちゃうわ!」


栞代が、ふと、気がついたように、尋ねた。

「お前、それも、もしかして授業中に考えてたのか?」

「はい、若頭。限りある時間を有効に使うのが、真映流でございますので」

「こいつ、反省文だけじゃなかったのか……オレ、なんか頭、痛くなってきた……」


笑いに包まれる、道場。

冴子が、感心したように、言った。

「杏子、前回、『後輩への教育がなっとらん』、言うたけど、前言、撤回させてもらうわ。……杏子、よう、ここまで、この子らをまとめ上げて、結果出し続けてるな。感心しかないわ」

「ほんま、ほんま。ますます、パワーアップしとるもんなあ、特に真映は」

沙月も、呆れる以上に、感心している。

しかし、実は二人とも、馬鹿馬鹿しい笑いの中に、後輩たちからの、自分たちへの深い、深い、感謝と愛情を、感じ取っていた。


「杏子」

「はいっ、部長!」

「もう、部長は、お前だっての……。あのさ、卒業試合のこと、だけど」

「はいっ!」

「もちろん、一年生チームも、出るんだろ?」

「え? あ、はいっ! もちろんです!」

「楽しみにしてるよ」

「はいっ!」


「──真映」

冴子の声のトーンが、ふっと変わった。前部長としての、あの「鬼部長」の鋭い声に。

「お前な、口だけの成長じゃなくて、ちゃんと弓の技も成長したところ、見せてくれるんだろうな」

その、真っ直ぐな視線。真映は、ごくり、と、喉を鳴らした。

「肝心の弓道の実力が成長してなかったら、この、『杏子体制』が、ダメだったってことになるぞ。それは、わたしの見る目がなかったことにもなるし、そして、何よりも真映が大好きな杏子の顔に、泥を塗るっていうことと、同じだぞっ!」


冴子は、お返しに、とばかりに、後輩の心の、一番柔らかい場所に、ぐっと踏み込んだ。

「は、は、は、はいっ!」

真映の、いつもの自信に満ちた目が、珍しく、必死に泳いでいる。


三年生二人は、「じゃあ、また」と、練習の邪魔はしたくないから、と、挨拶だけで颯爽と帰って行った。


「お、おやぶ〜ん……! ど、どうしましょう……!?」

真映が戸惑っている。

栞代が、その肩を、ぽん、と叩いた。

「簡単だろ。お前がしっかり練習すれば、いーんだよ。今、ここから、できることを全力でな。結果じゃない。その姿勢だ。杏子はいつもそれを身をもって示してるだろ?」

「……! はいっ! もちろん、今までも、ずっと、そうしてます〜!」

「よし。それならいいんだ。結果じゃない」


一段落ついたところで、杏子が、「じゃ、練習、再開しよっか」と、みんなを、(いざな)う。


そして、弓を、引く。

その一瞬で、全員の顔が、再び、きりりと引き締まった。

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