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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
ブロック大会
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第34話 ブロック大会団体戦予選

七月の夏の陽気が心地よく感じられる朝、光田高校弓道部はブロック大会予選が行われる弓道場へと足を運んでいた。弓道場特有の張り詰めた静けさが漂い、杏子たちは一歩ずつ会場に入るたびに緊張感を増していった。


「今日は力を出し切ろう」

瑠月が気合いを込めてつぶやくと、杏子は静かに微笑んだ。メンバーの顔には今までやってきた練習への信頼感があった。


道場内には各校の選手がすでに配置につき、互いの存在感を確認するように静かに視線を交わしている。杏子たち光田高校のメンバーも、それぞれに準備を整えていた。


予選


ブロック大会の予選は、一人4射を5人、合計20射で的中数上位16校がトーナメントに進むという形式だった。同数の場合は、順位決定戦が行われる。光田高校のエースを自認するつぐみ、信頼の厚い杏子、そして成長著しい瑠月、冴子、沙月が、予選突破に向けて気持ちを引き締めた。


始めての練習試合、始めての公式戦だった地区予選、そして県大会と、いつも平常心を失わない杏子。


あいつは人間の神経を持っていない。あるのはおばあちゃんへの思いだけだな。

杏子のいつもと変わらぬ様子を見てつぐみは思う。

だが、そのいつも通りの姿は、いつもの力を出せばいいんだと、教えてくれているんだ、力む必要はないんだ、と全員に伝わっていた。


杏子も緊張していない訳ではなかったが、それは大会への緊張、というよりも、おじいちゃんおばあちゃんが見ている中で、いつも通り、正しい姿勢で引けるかどうか、という緊張だった。あたるかどうかはただ結果なだけ、だから。


杏子が足踏みを整え、弓を構える。呼吸とともに全身の力を抜き、静かに矢を放つと、矢は的の中心に吸い込まれた。


「よし!」

控えめな声が会場に響き、杏子は軽く微笑みながら立ち位置を後にする。

今の声、栞代ね。


次は冴子。杏子からの良い流れを崩すまいと意識を集中し、矢を放つ。中心に近い位置に当たる。


瑠月が静かに動き出す。彼女の矢はしっかりと中心を捉え、弦音が弓道場に響く。沙月は少し緊張した様子で矢を構えたが、彼女の放った矢も的に当たり、結果に安堵の表情を浮かべた。


つぐみが最後に立つ。堂々とした立ち姿で放った矢は、まっすぐに的の中心を貫いた。


いわゆる横皆中。幸先がいい。拓哉コーチは手応えを感じ頷いた。


1巡目結果:5射全中


2巡目


杏子は落ち着いた様子で再び的前に立つ。深呼吸とともに矢を放つと、再び中心を射抜いた。


「杏子、すごいね……。」

観客席で見ていたあかねが呟く。栞代も紬も、そしてまゆも静かに頷く。


冴子が静かに構えた。中心を捉え、彼女の表情にも余裕が見える。


続く瑠月も安定した射で2本目を的中。沙月は少し手が震える。惜しくも外した。


つぐみは微笑みながら構え、力強い一矢を見事に命中させた。


2巡目結果:5射中4的中


3巡目


ここで的中を増やしたい光田高校は、全員が一層集中していた。杏子の矢はまたしても中心に吸い込まれた。

冴子の矢も見事に中心を捉え、流れを引き継ぐ。瑠月が冷静に矢を放ち、これも的中。

沙月は再び緊張の色を見せ、惜しくも外す。その後のつぐみが「大丈夫だよ、沙月さん」とでも言いたげに、また正確な一矢を放ち、場内の空気が引き締まる。


3巡目結果:5射中4的中


4巡目


予選突破のためには、この巡でも安定感を維持する必要があった。杏子はいつもの言葉を心の中で唱える。「正しい姿勢で射ることだけ」。その言葉を支えに、彼女は見事な一矢を中心に届けた。


冴子は静かに構えたが、ここで外れる。しかし瑠月がその分を取り返すように見事に中心を射抜いた。


沙月は昨日の楽しかったことを思い出し、心を落ち着かせていた。わたしも、杏子のように、正しい姿勢だけを考えよう。的確に的を捕らえる。つぐみが力強い一射で締めくくる。全体の的中率は高いままだ。


4巡目結果:5射中4的中


予選結果


20射中17本が的中し、光田高校は予選1位で決勝トーナメント進出を決めた。外に出た瞬間、全員が緊張の糸がほぐれるのを感じた。


「みんな、よくやったね!」

瑠月が声をかけると、全員が微笑み、自然と手を重ねた。



予選が終わり、緊張感から解放された杏子たちが会場を後にすると、正面玄関の前で栞代、紬、あかねが待ち構えていた。三人の姿を見つけた瞬間、杏子たちは自然と笑みを浮かべた。


「みなさん、お疲れです!」


栞代が勢いよく駆け寄り、大きな声を上げる。その後ろから、無口な紬が控えめに頷き、あかねが笑顔で手を振っていた。その横で、まゆも満面の笑顔を見せていた。


栞代がつぐみの肩を叩きながら言った。


「すごかった!ちゃんと見てたぞ!」


次に、得意げにニヤリと笑い、杏子に向き直った。


「杏子、グッジョブ」


「ありがとう、栞代。でも、まだこれからだよね。次のトーナメントも頑張らないと……」


杏子は謙虚な笑顔を見せるが、その言葉を聞いた栞代は手を腰に当てて声を張った。


「大丈夫大丈夫。その謙虚さもいいが、もっと威張れ威張れ。紬もそう思うだろ?」


突然振られた紬は一瞬だけ杏子たちを見渡すと、静かに一言つぶやいた。


「それはわたしの課題ではありません」


一同が一瞬沈黙し、次の瞬間には大爆笑が起こった。あかねが声を上げて笑いながら紬の肩を抱きながら、栞代に食ってかかる。


「栞代、狙ってるでょっっ。」


冴子が笑いながら尋ねた。

「でも紬、見てたでしょ?どうだった?」


紬は少しだけ目を伏せた後、静かに言葉を紡いだ。


「……全員、良い姿勢でした」


その短い感想にも、紬なりの最大の褒め言葉が込められているのを全員が感じた。


あかねが杏子の手を取って言う。

「でも杏子、トップで全部当てたの、ほんとにすごいよ!」


つぐみが微笑みながら、あかねに答えた。

「杏子はいつも通りって感じだよな。的前の杏子はほんと、どっかおかしいぞ。少しはビビれっ。」


「それな!」栞代が手を叩いて笑う。「おじいちゃんとおばあちゃんにも報告だな、杏子!」


杏子は照れたように笑いながら、「うん。」と短く答えた。

「どこで見てるのかなあ」


全員が和やかな雰囲気に包まれる中で、次第に気持ちは次のトーナメントへと向かっていく。仲間たちの声援が、杏子たちをさらに強く支えてくれる予感がした。



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