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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
ブロック大会
33/415

第33話 ブロック大会の前日 杏子宅

いよいよ明日からブロック大会が始まる。

明日は集合時間が早いということもあって、今日はお昼すぎに練習が終わった。コーチは、ゆっくり休んで明日の準備をするように言ってたけど、せっかく時間があるんだから、と、杏子の家で壮行会という名のパーティーをすることになった


明日一緒に団体戦に出るメンバーとマネージャーのまゆ、そしてあかねをを家に招待した。


「みなさん、よく来てくださいました」と、祖母が温かい笑顔で迎えてくれた。祖母も祖父も一緒に、という強い要望が杏子からあった。

一通りの挨拶を済ませたあと、付け加えた。

「杏子がいつもみなさんのことを話してくれています。少しでもお話ができたら、嬉しいけど。お邪魔じゃないかしら?」

栞代と紬以外は、鳳城高との練習試合が終わったあと、少し話しただけだし、あゆとあかねは完全にはじめてだった。けれども、杏子がいつも話題にする、おばあちゃんにみんな興味津々だった。

「いや、お邪魔なんてとんでもない。今年のうちのクラブを変えて、支えているのはつぐみと杏子なんですが、特に杏子はずっとおばあさんの教えを受けていたとか。みんなもう、興味津々なんですよ。」冴子が説明する。


部屋に入ると、杏子の家のリビングと隣接する二部屋が広々とした空間になっていて、テーブルが二卓と椅子が十脚、全員分、ちゃんと用意されていた。椅子はちょっと揃ってなかったけれど。


「おばあちゃん、この椅子どうしたの?」

「ふふ。内緒。」


杏子が尋ねたが、祖母はにこにこしながら答えをはぐらかした。

テーブルの上には手作りのお菓子や料理、が並べられ、香ばしい匂いが漂っている。


冴子が瑠月をみると、瑠月が、お願い、と目で冴子訴えていた。瑠月が一番年上だが、仕切るのは苦手だ。冴子が持ち前のリーダーシップを取り、素早く全員を二手に分けて、みんなを椅子に座らせた。


「まずは紅茶でもどうぞ。」

祖父が自慢の紅茶を持って入れてまわると、手際の良さにみんなが感心している。


その隙に、瑠月が祖母に尋ねた。

「おばあさま、杏子さんはいつから弓道をしていたんですか? 」

「あら、えっと瑠月さんね、おばあさま、はこそばゆいから辞めて。笑 」

「えっと・・じゃあ、、その・・」

「おばあちゃん、でいいと思うよ」栞代が声をかける。

「ええ? いいですか?」

「もちろん。瑠月さん、いつから杏子が弓を始めたのか、という質問だったわね。杏子は小学校の低学年のころから弓をしたがったんだけど、わたしの恩師でもある中田先生から、まだまだやんちゃして、遊ぶことが弓道の練習だって言われたのよ。」

「え~。なんか素敵な話ですね」

「それでも、高学年になったら、もう我慢できない~って感じで練習を始めたかしら。自分から言い出したこともあって、練習の時はほんとに素直で、真面目だったわ。」

「瑠月さんっ、もうその辺にしてください~~。」

杏子が照れたように、まっ赤な顔で遮った。祖父がそのタイミングで、

「さあ、みんな、紅茶をどうぞ」

というので、みんな紅茶を手にとった。

「うわっ、おいしいっっ」だれかれともなく、声があがった。


「そうじゃろ、そうじゃろ。美味しいじゃろ、美味しいじゃろ。もっと言っていいんじゃぞ。」祖父が得意げに言って、誉め言葉を強要していた。あまりまだ馴染んでいないメンバーを相手に、いきなり屈託のない態度だったので、みんな少し驚いていた。

そしたら、まゆが、小さい声で懸命に「すごく美味しいです」と絞りだしていた。

祖父はそれを聞いて目を輝かせて感動し、「おおお、すまんまゆさん、ちゃんと聞いておるぞ。まゆさんはこれから、無理して話さず、沈黙で応えるんじゃぞ」

と豪快に言い放ち、部屋中が笑いに包まれた。いつもと変わらぬ調子で、紅茶自慢と、そして杏子の自慢を繰り返した。


小さい時の話を遮った祖父は、杏子の方を見て、小さく笑った。

瑠月も、小さい時の話は杏子が嫌がると思い、話題を変えた。


「あの、杏子ちゃんのおばあちゃん」と瑠月がもう一度丁寧に声をかけた。「杏子ちゃんの弓道の才能は、おばあちゃまから受け継いだものなのでしょうか?」

祖母は優しく微笑んで、「いいえ、それはすべて杏子の努力の賜物です。ほんとにここまでよくがんばってきたわ」

「そうなんですね。」と沙月が興味深そうに聞き入る。「ずっと姿勢のことだけ、注意されてたんですか?」

「もう、聞かないでください~」と杏子が顔を赤らめる。祖父は、さきほどとは少し違うニュアンスを感じて、今度は遮らずそのまま一緒に聞き入っていた。

「聞きたい!聞きたい!」とあかねが身を乗り出す。「私、杏子さんが憧れなんです。!」

おばあちゃんは嬉しそうに、「そうね。一番最初に、それは伝えたわ。というか、今もずっと、それしか伝えてないの。」と応えた。


するとそれを受けて、今度は祖父が、弓とは関係ない、杏子の自慢を始めた。永遠に続くのかと思わせるほど、いろんなことを誉めて、靴の履き方を誉め出した時に、栞代が茶目っ気たっぷりに、「でも、おじいちゃん、杏子が静かな気持ちで弓を引きたいと思うのは、おじいちゃんのこと忘れたいからじゃないの~?」

「も~、全然違うよ~、栞代~」と杏子が慌てておじいちゃんを庇う。「おじいちゃんがいるから、私、頑張れるんだよ~」

つぐみが少し羨ましそうに「杏子のところは、本当に楽しそうだなあ。」と言った。

「ねぇ、杏子のおばあちゃん」と冴子が。話しかける

「明日の試合について、アドバイスなどありますか?」

祖母は一瞬考えて、「そうねぇ・・・みなさん、楽しんでください。弓道は弓を引く時には笑えないんだけど、その気持ちは忘れないように。中田先生が良く言ってたわ。練習で泣いて試合で笑えって。でも本当に笑ったらダメよ。」と笑った。

「今は練習で泣くことはないんですが、練習で緊張して、試合でリラックス、というのは、メンタルコーチの深澤先生もずっとおっしゃっておられました。」

弓道には求道精神を求められることが多いけれど、それはリラックスと決して相反するものではないのかもな。みんなぼんやりと考えていた。祖母は続けて、

「明日は確かに大切な試合だけど、でも、それ以上に大切なのは、みなさんが一緒に過ごすことじゃないかしら。みんなが仲良く、そしてひとつの方向に向かって努力するって、ほんとに素晴らしいことよ。」祖母の言葉に、部屋が静かになる。

まゆがノートに何か書いて、みんなに見せる。『私も同じことを思っていました。勝ち負けよりも、この瞬間が宝物です』

「まゆちゃん・・・」と杏子が感動して呟く。

そこへおじいちゃんが咳払いをして、「さ、もっと紅茶を入れてこよう。これも最高の紅茶じゃぞ!」

「もう、おじいちゃん!」と杏子が笑う。「さっきから紅茶の自慢ばっかり」

「だって、わしの紅茶は本当に美味しいんじゃ!」

「本当においしいです」と沙月が笑顔で答える。「私たちの部活でも、こんな美味しい紅茶が飲めたらいいのに」

「それなら、わしが教えてやろう!」とおじいちゃんが張り切る。「まず、茶葉の選び方がな・・・」

「あ、もうお菓子がなくなってきましたね」と栞代が遮った。祖父の自慢は長いからなあ。

「あら、そうね」とおばあちゃんが立ち上がる。「杏子ちゃん、手伝って。」

「はい!」と杏子が答える。

「私も手伝います!」と栞代が声を上げる。

今日は、おじいちゃんの相手をしてくれる人が大勢いて、杏子も自由に動けた。

台所で、おばあちゃんは杏子の肩に手を置いた。「いい仲間に恵まれたわね」

「うん」と杏子が嬉しそうに頷く。「みんな、本当に大切な存在なの」

その時、リビングから笑い声が聞こえてきた。おじいちゃんが、また何か面白い話をしているようだった。

「ねぇ、おばあちゃん」と杏子が言う。「みんなが来てくれてほんとに嬉しいし、いろいろとちゃんと用意してくれて、本当にありがとう。」

「あらあら。わたしも嬉しいのよ」と祖母が優しく微笑む。「明日は、この楽しい気持ちを忘れずにね」


リビングに戻ると、紬とあかねが熱心におじいちゃんの話を聞いていた。まゆは黙って微笑みながらメモを取り、時々みんなにノートを見せて会話に参加している。瑠月は冴子と沙月に、自分の経験を話している様子だった。

「ねぇ、みんな」と杏子が声をかける。「新しいお菓子持ってきたわ」

「あ、それ好きなんだ!」とあかねが喜ぶ。「私、もうお腹いっぱいなのに、おばあちゃんの作るお菓子、止まらないです」


「そうじゃろ、そうじゃろ」とおじいちゃんが得意げに言った。「うちの雅子ちゃんは料理の腕前も一流なんじゃ」

「おじいちゃん、さっきまで自分の紅茶の自慢して、続けて杏子の自慢して、今度はおばあちゃんの料理の自慢?」と栞代が茶化す。

「うむ。自慢しかすることがないんじゃ」

みんなが笑う中、まゆがまたノートを見せる。『私も将来、こんな素敵な家庭を作りたいです』

「まゆちゃん・・・」と杏子がにこにこして、思わずまゆを抱きしめた。

瑠月さんが静かに言う。「本当に、素晴らしい時間をありがとうございます。みなさん、明日は、この気持ちを胸に頑張りましょう」

「はい!」と全員が声を揃える。まゆも小さく頷いて、笑顔を見せた。


ところでじゃ、と、祖父はまた杏子の自慢を始めていた。

「杏子はのう、わしに似て手先が器用で――」

「おじいちゃん、そんなことないから。」

杏子が小声で遮ろうとすると、栞代がまた茶化すように言う。

「また杏子を困らせてる~!やっぱり杏子が静かな気持ちで弓を射ちたいのって、おじいちゃんのこと忘れたいからじゃないの~?」

「栞代~~!」

杏子が真っ赤になって抗議すると、祖父は得意げな顔をして「ほれ見ろ、杏子はわしの味方じゃ!わしが大好きなんじゃ!」と声を上げ、また場が笑いに包まれた。


ふと見ると、紬が静かに紅茶を飲みながら、祖母の話をじっと聞いていた。栞代やあかねがにぎやかに話しているのとは対照的なその姿に、祖母も優しく話をしていた。

「紬ちゃん、美味しい? なんだかいつもおじいちゃんは杏子の自慢ばっかりでごめんね。もう飽きたでしょう?」

「いいえ。それは私の課題ではありません。」

紬のいつものセリフを聞いて、祖母は安心して微笑んだ。


部屋の隅で静かに座っていた、まゆにも、祖母はそっと声をかけた。

「まゆさん、無理して話さなくてもいいのよ。こうして一緒にいてくれるだけで。ほんのちょっぴり、手話ができるの。また教えてくださいね。」

その言葉に、まゆは少し驚いたようだったが、安心した表情を浮かべ、小さく頷いた。その姿を見た祖父が「まゆさん、沈黙でも十分伝わる!」と冗談めかして言い、また場が和やかになった。


食事が進む中、冴子と沙月は三年生への複雑な思いを語っていた。でも出るからには、決勝トーナメントまでは行ってほしい。

そして、成長著しい瑠月についても、

「瑠月さん、地区大会以降、雰囲気変わりましたよね。やっぱり頼れるって思います。落ち着き方が違うんですよ。」

「そうそう!特に試合前のあの冷静さ!見習いたいです。」


瑠月は控えめに笑いながら、「そんなことないよ」と答えるが、その穏やかな表情にはどこか誇らしさが滲んでいた。ブロック大会では、花音が三年生チームに入るので、瑠月が主将格としてチームを率いる。


最後に祖母が全員を見回し、言葉をかけた。

「みんなで力を合わせて頑張ってくださいね。どんな結果でも、全力を尽くせばそれが一番ですから。」

その言葉をうけて、瑠月さんが、「あとはただ結果なだけ、ですよね」と応え、全員が大きく頷き、改めて気持ちを引き締めた。


明日が試合、ということで、少し早めに会はお開きになった。人数が多いので、何回かに分けて、車で送っていくことになった。残ったメンバーで、後片付けを手伝った。


帰り際には、祖母は一人一人に、「気をつけて帰ってね。明日、応援に行くから、楽しみにしているわ」と声をかけた。

祖父は車の道中、最後まで、「紅茶のコツ、まだまだあるんじゃぞ!」と言い続けていた。


つぐみを送った時には、祖父が、杏子はつぐみさんのことを本当に尊敬していると伝えると、つぐみも、私の方こそ、杏子さんを尊敬してます、と伝えたあと、少し考え込み、

「あの、わたし、またお邪魔していいですか?」と尋ねた。

祖父は「もちろん。いつでも紅茶を飲みにいらっしゃい」と明るく応えた。


栞代も、家庭には少し難しいところがあったが、つぐみのところは、もう少し深刻な状態だった。杏子の弓はもちろんだけど、家庭は本当に羨ましかった。


家に帰った後も、みんなのLINEグループには、「楽しかった!」「おばあちゃまの作るお菓子、本当においしかった」「おじいちゃまの紅茶、絶品でした」といったメッセージが次々と届いた。

まゆからは、『明日、みんなの晴れ姿が楽しみです。私にできることは少ないけれど、精一杯応援します』というメッセージが来た。

そして瑠月が、「杏子がおばあちゃんに金メダルをプレゼントできるように、もう絶対に頑張ります」と書き込んだ。控え目で大人しい瑠月さんがここまではっきりと目標を言うなんて、本当にどんどんメンタルが強くなっているんだな、と杏子は思った。その後、次々と「わたしも」という書き込みが溢れた。


杏子は布団に入りながら、スマートフォンの画面を見つめていた。みんなの気持ちが嬉しくて、どう表現していいのか分らなかった。うれしい、というスタンプを何種類も送った。そして今日のパーティーの写真が次々と共有されている。みんなの笑顔が輝いている。

「明日は、きっといい射が出来る」

そう思いながら、杏子は目を閉じた。大会前の緊張は確かにあるけれど、それ以上に、仲間と過ごしたかけがえのない時間が、心を温かく包んでいた。

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