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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
322/432

第322話 こけら落としの誓いと、弓道部の仁義 その2

高階会長は、その光景を静かに見つめると、予定されていた、彼自身による「弦音(つるね)の儀」を執り行ったのち、「矢渡の儀」を、その場で変更した。

「……ここはやはり、この新しい道場の最初の一矢を、現役生にこそ、示していただきたい」

滝本顧問と拓哉コーチは、その意図を汲み取り、栞代に目配せする。栞代は、楓と共に、杏子の両脇に立ち、介添えを務めた。

((大丈夫か、あの子))

そんな囁きが、会場のあちこちから聞こえてくるような、一種異様な雰囲気が漂う。


しかし。

((弓さえ握らせれば、大丈夫だ))

光田高校弓道部の部員たちの間には、そして、杏子を知る全ての人には、揺るぎない確信と、安心感があった。


果たして。

弓を手にした杏子の姿は、先ほどまで、床の一点を見つめて震えていた少女とは、別人だった。見事な体配を見せ、寸分の狂いもない、完璧な射法八節が、披露される。

それは、見ている者、全てのため息を誘う、研ぎ澄まされた、美の結晶だった。

放たれた一矢は、真新しい的の中心に、深々と突き刺さった。


その瞬間、空気が震えるような拍手が起こり、式は、感動のうちに幕を閉じる──はずだった。


式典の終了が宣言された、まさに、その時だった。


「……おい」


低く、地を這うような、唸る声。

会場の隅で、仁王立ちになっていたのは、自称、“疾風の真映”こと、朔晦(たちごり)真映である。


「おい、そこの、おっさん!」


その声は、静まり返った弓道場に、雷鳴のように響き渡った。

「さっき、うちの部長に向って、なんちゅう言い方してくれたんや! いきなり呼ばれて、ビビらんやつがおるかい! ええか!? 杏子部長はな、弓さえ握らせたら、誰にも負けへん! いや、勝ち負けなんか、とっくに超越した──宇宙人なんやぞ!」

その怒りの矛先は、ヤジを飛ばした取り巻きではなく、なぜか、その場の最高責任者である、高階会長に、真っ直ぐに向いていた。


会場が、一斉に、凍りついた。

「そもそも、礼儀がなっとらんのじゃ! 失礼すぎるやろ! さあ、今すぐ、うちの部長にあやまってもら……んぐぅっ!」


そこまで言ったところで、真映の身体が、ふわりと宙に浮いた。

栞代、あかね、そして、体格で勝るソフィアが、三方向から同時に飛びかかり、完璧な“はがい締め”を決めていた。


「ぎゃああっ! なんでですかぁ! うちらの親分が、(はずかし)めを受けたんでっ……!」

「うっさい、お前は、じっとしとけ!」

「すいません、すいません! すぐ黙らせますから!」

“Rauhoitu nyt, Mae.” (落ち着いて、真映)

三人が、必死に、暴れる真映を押さえ込む。


「ま、真映!?」

杏子は真っ青になり、慌てて前に出ようとした──が、その一歩を、冷静に塞いだのは、一華だった。


「部長。ここは、私にお任せください」


彼女は、すっと、再び、場の中心に進み出た。

「……真映の、先ほどの言葉遣いについては、深く謝罪いたします。しかし」

その瞳は、真っ直ぐに、高階と、そして、野次を飛ばした男たちを、射抜いていた。


「当弓道部は、先ほどもお伝えした通り、杏子部長が居なければ、現在の結果は、まったく不可能でした。杏子部長が居たからこそ、です。今のこの、素晴らしい道場も、杏子部長がいなければ、絶対に、ありませんでした」

一華は、そこで、きっぱりと言い切った。

「その、杏子部長に向けられた、先ほどの、あまりにも失礼な発言。この場で、部員を代表して正式に、謝罪を要求いたします」


「ひぃっ……!」

杏子は、もう、目を白黒させている。

「い、一華、お、おまえもかあぁぁぁぁぁ……!」

栞代が、頭を抱えて、その場にしゃがみ込んだ。

「かっけええぇぇっ!」

真映は、押さえ込まれながらも、喝采を上げた。


ふと横を見ると──杏子の祖父が、怒りのあまり、頭から湯気を立てていた。

「わしのぱみゅ子に、なにを言うたんじゃ……!」

「落ち着いて!」

祖母が、必死でその両腕にしがみつき、床に擦り付けんばかりに、引き止めている。それを見た、冴子、沙月、瑠月の三人も、慌てて祖父を抑え込んだ。

紬、まゆ、楓、つばめは、杏子を守るように、彼女の周りを取り囲む。


このままでは、収拾不能だ。誰もが、そう思った、その瞬間。


「まあ、落ち着こか」


低く、しかし、全てを包み込むような、穏やかな声が、割って入った。中田先生だった。

「……ふふっ。これだけ、『やんちゃ』が揃っとるんなら、そりゃあ、期待できるわ。そやろ、ヒノカン?」


突然、名を呼ばれたヒノカンは、目を丸くすると、慌てて立ち上がった。

「そ、そやそや! 先生の言う通りや! こんだけ、威勢のええ『ゴンタ』ばっかり集まっとったら、全国優勝間違いなしや! 光田弓道部は、安泰やで!」

「ほんまや!」

らんちゃんが、すかさずそれに乗っかり、両手を、パンパンと打ち鳴らした。

「『やんちゃ』は、宝や! あんたら、最高やで! これぞ、光田高校弓道部の、伝統、ここにあり、や!」


一気に、場の空気が和み、あちこちから、安堵の笑いと、温かい拍手が広がった。

滝本顧問が、その流れを巧みに引き継ぎ、一同を、懇親会(という名の、いつもの打ち上げ)の会場へと、誘導していく。


現役部員たちは、この後、もちろん練習の予定だった。しかし、急遽、全員の集合が、かけられたのだった。

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