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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校入学から県大会
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第31話 家族と仲間の支え

杏子の大きな決断があった日。

この日は、期末テストが迫り、弓道部の練習時間は短くなっていた。試合前には車で迎えに来てくれていた祖父も、この日は家で祖母とともに杏子の帰りを待っていた。玄関を開ける音とともに、杏子の声が響く。

「ただいま。」


祖父がすぐに反応する。

「おお!ぱみゅ子~、おかえり~!」

靴を脱ぐ杏子の後ろには、栞代と紬の姿もあった。祖父は彼女たちを見つけて満面の笑みを浮かべた。

「おお、二人とも来てくれたのか。ささ、上がって上がって。」


杏子は着替えるために部屋へ向かった。その間、栞代は今クラブで起こってる出来事を祖父に伝えた。団体戦のメンバーについての衝撃的な話に、祖父の顔はみるみる険しくなっていく。


「な、なんじゃと!?」

声が大きくなる。

「そんなバカな話があるかっ!」


いつもニコニコしてる祖父がこれほど興奮するのを見たのは、栞代も紬も初めてだった。栞代はふと、以前祖母から聞いた「杏子のことになると、人が変わるのよ」という言葉を思い出していた。


大きな声が聞こえたのか、杏子が部屋から急いで戻ってきた。

「おじいちゃん、大きな声出さないでよ。怖いんだから」

祖父は一瞬たじろぎながらも、まだ納得がいかない様子で言葉を詰まらせる。

「う、う、うむ……。」


その様子を見て、祖母が穏やかに割って入った。

「おじいちゃん、杏子が決めたことなんだから。私たちにできることは、それを認めてあげることだけでしょう?」

「し、しかし……。こんな理不尽なことがあるかっ!」


栞代が静かに口を開いた。

「おじいちゃん、私たちも本当にびっくりしたんだ。でも、杏子が一番ショックを受けてると思う。それでも、自分で選んで。決して先輩からや先生、コーチから強制されたんじゃないんだよ。杏子の、おばあちゃんへの気持ちを考えると、なんともやりきれないですけど。オレも正直反対なんだけど、でも、きっと、この状態で杏子が試合に出ても、きっと全力を出せないと思うんだ」


しばらく沈黙が続く中、祖母が優しい声で話し始めた。

「杏子ちゃん、本当にありがとう。その気持ちだけでおばあちゃんはもういっぱい幸せなのよ。それに、まだまだ来年もあるし、今は何より、杏子ちゃんの優しい気持ちをおばあちゃんはとても誇りに思うわ。なかなかできることじゃないもの。」

「そうは言っても、まさこちゃん……。こんなことって……」


「おじいちゃん、杏子が自分で考えて決めたことよ。それでいいじゃない。おじいちゃんにできることは、そうね、今すぐ美味しい紅茶を入れてくれることかな」


祖父はしばらく唸るように考えた後、溜息をついた。

「ううう……これ以上言うと怒られそうじゃのう。一度怒らせたら、今日はもう口を聞いてくれんからのう……。明日になれば元通りとはいえ、明日まで辛いのはごめんじゃ」

そう言うと、祖父は観念したように立ち上がり、紅茶の準備を始めた。

「気を取り直してみんなで紅茶でも飲むことにしよう」

「ちゃんと気持ちを落ち着けてよ。怒ってる人の紅茶は、なんか苦そうだから」祖母が優しく言った。言葉の裏には、祖父がちゃんと気持ちを切り換えようとしていることを、誉めているのが分かった。



紅茶が運ばれてくると、栞代が話題を変えた。

「テストまであと少しだけど、杏子は何が苦手なんだ?」

「英語かなあ。」杏子は少し困った顔で答える。「数学は小さいときからおじいちゃんが教えてくれたし、国語はおばあちゃんが本をたくさん読んでくれたから好きなんだけど。」


「英語か~。」栞代がしばらく考え込むふりをして言った。「オレも英語は苦手だけど、こう思うことにしてるんだ。英語が話せたら、アメリカのかっこいい男の子と話せるってさ。」


その言葉に祖父が即座に遮った。

「ぱみゅ子、そんな英語など、勉強しなくてよろしいっっ!」


その場が一瞬静かになり、次の瞬間、紬がぽつりと呟いた。

「That’s not my issue.」


その言葉を聞いた途端、全員が吹き出した。笑い声は今までの緊張を和らげ、その場に温かな空気をもたらした。


いつも通り、美味しい紅茶を飲んだあと、いつも通り、夕食も一緒に食べた。

いつも通り、祖父がぼけて、栞代が突っ込み、杏子が庇い、紬が呟く。

いつも通り、祖母がにこにこしながら見守っていた。

いつも通りの、楽しくて、穏やかな時間だった。


食事が終わると.いつも通り、祖父が車で栞代と紬を送ることになった。

いつも通り、楽しい時間を過ごして、いつも通り、帰る時は少し寂しかった。


紬の家に着くと、杏子は車を降りて紬に向き合った。

「紬、今日は側にいてくれてありがとう。本当に嬉しかった。」


紬は一瞬考えるようにしてから、小さく頷きながら言った。

「That’s my issue.」

その静かな言葉に、杏子の目が少し潤んだ。そして、杏子もそっと呟いた。

「Thank you so much from the bottom of my heart.」


杏子は車に戻り、栞代に向かって感謝を伝えた。

「おじいちゃんに報告してくれてありがとうね。」


栞代は笑って答えた。

「いや、やっぱり杏子の言うように、オレが居て正解だったよ。おじいちゃん、ほんっと杏子のことになると、見境なくなるから、杏子のことで杏子に怒ったりしそうだったもんな~。

試合当日にでも知ったら、おじいちゃん暴れるだろうからな。警察案件になりかねん。そんなことになったら大変だ。それに、早く伝えることも大事だと言う杏子の判断も正しかった」

祖父が割って入る。

「なんじゃ、みんなして来たと思ったら、打ち合わせだったのか。しかもじゃぞ、

栞代、わしゃ冷静沈着、決して感情を荒らげない、仏の生まれ変わりと言われているんじゃぞ」


その言葉に、栞代が思わず噴き出しながら言った。

「誰が言ってるんだよ、そんなこと。」

「わしじゃ。」

杏子も溜まらず吹き出した。

「おじいちゃんが仏なら、わたしは天照大神かな?」

そして杏子に向かい、

「杏子、ほんっとにお前も大変だな。」

そういいつつも、栞代は少し羨ましそうに笑った。


たわいもない会話が続き、三人はずっと大笑いし、車内には笑顔が溢れていた。温かな時間の中で、杏子は家族と仲間たちに支えられていることを改めて実感し、幸せを噛みしめていた。ずっと。いつも通りに。

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