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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
306/432

第306話 ラーメン、カフェ、時々、仁義

三連休の初日。

あかね、まゆ、真映、つばめの四人は、この日のために、ある壮大な(?)計画を立てていた。

まず、駅前に新しくできた、行列必至の有名豚骨ラーメン店で腹ごしらえをし、その後、まゆが前々から行きたがっていた、川沿いのお洒落なカフェで優雅なティータイムを過ごす。そして、その帰りにもう一度、同じラーメン屋に寄って、今度は違う味のラーメンで一日を締めくくる。

計画立案者は、言うまでもなく、あかねと真映。あまりにも炭水化物に偏ったその無茶苦茶な行程に、つばめは少しだけ眉を下げたが、まゆが「楽しそう」と微笑んだので、異論はなかった。


集合場所は、まゆの家。

あかねがチャイムを鳴らすと、すぐに、まゆのお母さんが温かい笑顔で出迎えてくれた。

「あかねちゃん。おはよう。いつも、うちのまゆがお世話になって」

「やだなぁ、おばちゃん! こちらこそ、わたしがまゆに遊んでもらってるんですよぉ」

もうすっかり家族同然の、気心の知れた挨拶。

「それにしても、弓道部がお休みだなんて、本当に珍しいわね」

「ほんとに! だから、この貴重な機会を逃さず、思いっきり遊ばないと!」


そんな、穏やかで馴染み深い会話の中に、突然後ろから、竜巻のような勢いで声がなだれ込んできた。

「いや〜、おばさんっ! あの宇宙人部長は、今日も元気に練習してるんですよ〜!」

振り返ると、少し遅れて到着した真映が、すでに会話の輪の中心に立っていた。

「あ、あら、おはよう」

突然の乱入に、まゆのお母さんが少しだけ驚いたように声をかける。

「こら、真映! まずは、ちゃんと自己紹介せんかい!」

あかねが、慌てて真映の頭を軽くはたく。

「おばちゃん、すいません。こいつ、いつも弓道部の規律を、たった一人で乱してる問題児でして」


あかねの言葉に、しかし真映は悪びれもせず、むしろ得意満面で、すっと背筋を伸ばした。そして、まるで時代劇の舞台役者のように、深々と腰を落としてみせる。


「厚かましくも、お控えを頂戴いたしたく存じます。お控えなすって、ご挨拶させていただきます。

手前、生国は熊野の山中、住まいはここ光田にございます。

杏子一家、あかね組の若輩者、人呼んで、"疾風の真映"と発します。

お見知りおかれまして、今後とも、よろしくお頼み申し上げます!」


あまりにも本格的で、流麗な仁義。その突拍子もない自己紹介に、あかねは額に手を当てて天を仰ぎ、まゆのお母さんは、きょとんとして目を丸くしている。

静寂が、玄関先に訪れた、その時だった。


「……下拙(げせつ)も、当家のしがない者でござんす。どうぞ、お控えください」


小さいが、凛として、そして可愛らしく芯の通った声。

声のした方を見ると、ゆっくりと玄関に出てきた、まゆが、くすくすと、鈴を転がすように笑っていた。

普段の物静かな彼女からは、到底想像もつかない、ウィットに富んだ完璧な切り返し。


その瞬間、こらえきれずに、まず、まゆのお母さんが大きな笑い声を上げた。

「まあ! あなたたち、なんて楽しいクラブなの! 部長の杏子さんは、すごく大人しくて、おしとやかな方だとばかり思っていたわ」

「いえ、母上どの! それは、世を忍ぶための、仮の姿なのでございます! あの幼稚園児の皮を被ったお姿は、部長のかりそめのすが……いてっ!」

あかねの、強烈なチョップが、さらに暴走しようとする真映の脳天に炸裂した。

「お前は、ええ加減にせえよ!」

そう言いながらも、あかねの口元は、もう笑いを堪えきれていない。


そこへ、最後の一人、つばめがやってきた。

ぎこちなく、しかし丁寧に、彼女は頭を下げる。

「おはようございます。はじめまして。小鳥遊つばめ、と申します。……あの、つぐみの、妹です」

「まあ、つばめさん。おはよう。ふふっ、本当にお姉さんにそっくりね」


短く挨拶を交わしたつばめの姿を見て、あかねは、しみじみと、そして心底、安堵したように呟いた。

「……つばめ。お前が、今日このメンバーに居てくれて、ほんとうに良かったよ」

「え、あ、はい? なにか、あったんですか?」

「いや、なんでもない、なんでもない」

あかねは、ぶんぶんと首を横に振る。常識人(ツッコミ役)が、自分一人ではないという事実が、これほどまでに心強いとは。


「じゃ、おばちゃん、行ってきますっ!」

四人は、まゆのお母さんに軽く手を振って、最初の目的地、ラーメン屋へと出発した。


先頭を歩くのは、真映とつばめ。真映は、今から向かうラーメン屋がいかに評判が良く、スープが濃厚で、替え玉システムが素晴らしいかを、身振り手振りを交えて力説している。

その後ろを、あかねが、まゆの乗る車椅子を、ゆっくりと、そして優しい手つきで押していた。


二、三歩進んでは、後輩たちが、頻繁に後ろを振り返って、まゆに声をかける。

「まゆさん、ここに、ちょっとだけ段差ありますよ!」

「まゆさん、寒くないですか?」

「まゆさん、お腹空きましたよね!」

「あかね先輩の車椅子の押し方が乱暴な時は、いつでも言ってくださいっ!」


「おい、お前ら! そんなに後ろばっかり気にしてたら、前見てなくて、自分らが転ぶぞ!」

あかねが注意すると、真映がくるりと振り返り、またもや芝居がかった口調で応えた。

真映(まえ)が前を見ずに転ぶとは、これいかにっ! 弓引きの風上にも置けませぬな!」

「だめだ、こいつ、なに言っても通じへん……。部長じゃなくて、わたしは、真映こそが宇宙人である、という説を、本気で提唱したいわ、まったく」


あかねの、愛情のこもった嘆き節。

その言葉を聞いて、まゆは、車椅子の上で、けらけらと、楽しそうに笑っていた。

その笑い声は、冬の澄んだ空気に、どこまでも、どこまでも、温かく響き渡っていた。

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