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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校入学から県大会
30/414

第30話 花音からの衝撃的な提案

光田高校弓道部の歩み


県大会が終わり、振り返ってみると、光田高校は団体戦・個人戦ともに制するという大きな成果をあげた。その快挙は学校の長い歴史の中でも数えるほどしかなく、部員たちは大きな誇りを感じていた。だが、その達成感の中にあっても、部員たちの胸にはそれぞれ違う思いがあった。


つぐみと杏子は個人戦での優勝を狙える実力を十分に備えていた。拓哉コーチも滝本顧問もその可能性を感じていたが、結果的に個人戦で優勝したのは、鳳城高校との練習試合以降、覚ましい成長を見せた奈流芳瑠月だった。その事実は驚きと共に、部員たちの胸に一つの目標として刻まれた。


大会翌日、部員たちはいつものように弓道場へ集まり、全国大会に向けた練習を再開した。試合に出場したメンバー全員に、マネージャーのまゆから手紙が渡された。声を出しにくい彼女が、自分の思いを伝えるためにしたためたものだった。


その手紙には、ユーモアを交えながらも健闘を称え、全国大会への力になりたいという熱い気持ちが綴られていた。特に杏子への手紙は丁寧な文面で、彼女の努力をねぎらい、彼女の気持ちを(おもんばか)り、いつでも側に居てささえるという内容だった。そして次への期待を寄せていた。杏子は、その手紙を握りしめながら、まゆの優しさへ感謝し、改めて全国大会に向けて努力する決意を固めていた。


一方で、男子部員に渡された手紙は少し趣が違っていた。すべて同じ内容で始まり、最後には「まゆにちょっかいかけないように、実はあかねが書きました」というオチがつけられていた。手紙を読んだ男子部員たちは、喜び、落胆し、そして笑いに変わるという、まゆとあかねらしい遊び心に満ちた手紙を楽しんだ。


県大会を最後に、3年生は全国大会へ出場する花音を除いて引退することになっていた。大会前日に応援してくれた3年生に対し、下級生たちは感謝の気持ちを伝えた。


そして弓道部員たちはもちろん高校生だ。もうすぐ期末テストという現実にも向き合わなければならなかった。期末テストが終わると、すぐに近隣の県によるブロック大会が控えている。この大会は、近隣県が8県集まる大会だ。勝ったからと言って全国大会への切符が与えられるわけではないが、弓道の選手にとって重要な成長と評価の機会、全国大会出場に向けた準備、また地域レベルの競技力の向上、経験の蓄積、実力の確認、モチペーションの向上、そして各高校の交流の場という多種多様な目的、意味を持つ重要な大会だ。


練習が終わった後、、つぐみが溜息交じりに呟いた。

「ほんとに参るよな~。テスト、試合、テスト、試合……いったいいつ勉強する時間があるんだよ。」


その声に、瑠月が軽く笑いながら応じた。

「そう言うところを見ると、つぐみは勉強で困ってるみたいね。」

「そうなんですよ~!徐々に難しくなってきて。瑠月さん、助けてください!」

つぐみは珍しく似合わない弱音を出し、周囲を笑わせた。弓を離れると弱気な時もあるんだな。


ふと他の1年生を見ると、みな同じように頭を抱えた様子が伺える。瑠月は少し考え込んだあと、提案した。

「じゃあ、テスト前は全員で道場に集まって勉強会をしましょう。私が面倒を見るわ。」


その言葉に場がざわついた。文武両道を地で行く瑠月は学年でも成績トップクラス。つぐみは感心しながら呟いた。

「ほんと、文武両道って瑠月さんのためにある言葉だよね。」


そこへまゆと仲の良いあかねが声を上げた。まゆも成績バツグンだ。

「それなら、まゆのノートを参考にするのが一番!めちゃくちゃ分かりやすいから!」

まゆはまっ赤に照れながらも、役に立てるなら、と快く了承した。


勉強会の話で盛り上がり、笑いが絶えない中、突然、花音部長が意を決したように話し出した。

「私……相談したいことがあるんだ。」


その言葉が、練習場の空気を一変させた。尋常ではない、思い詰めた花音の真剣な表情に、全員が息を飲む。そして、彼女が次に口にした言葉は、部員たちを大きな驚きと動揺へと巻き込むこととなる。



衝撃の部内試合


弓道場は夕暮れに染まりつつあった。


国広花音の発言――それは、全員の心を揺さぶった。


「私……3年生と一緒に全国大会に行きたいんだ」


その一言が部室に響いた瞬間、空気が凍りついた。最初に反応したのは、冴子だった。

「何言ってるの、花音先輩!私たちこれまで一緒に頑張ってきたのに、今さらそんなこと……!」

「そうですよ!」沙月も即座に続けた。「花音先輩がそんなこと言うなんて、信じられません!」


杏子は何も言えなかった。ただ驚きと戸惑いが胸を締めつける。つぐみも黙っていたが、その表情には明らかな怒りが浮かんでいた。そして、それを見ていた栞代が我慢できずに声を上げた。杏子にとって、全国大会の団体戦の持つ意味の大きさを十二分に理解していたからだ。

「花音さん!ふざけないでよ!メンバーがどれだけ努力してきたと思ってるんですか。!」

栞代にとって、三年生は杏子を陥れようとした敵として、決して許す気はなかった。


花音は動じずに口を開いた。

「分かってる。分かってるけど……私も、3年生として最後の大会に、同じ学年の仲間たちと一緒に戦いたいって気持ちがどうしても捨てられないの」


その言葉に、場の反発はさらに強くなった。しかし、花音の目には揺るぎない決意が宿っていた。彼女は続けた。

「三年生はみんな、鳳城高校との練習試合のあと、すごい努力を重ねてきた。そんなみんなの姿を見てると、同じ学年のみんなともう一度組んで戦いたい。今まで一度も一緒に戦ったことがない。正直、今のレギュラーの方が圧倒的に強いことは分かってる。でも、私にとっては、3年間一緒にやってきた仲間と全国の舞台に立つことが、どうしても諦めきれないの。」


コーチの拓哉と滝本顧問は静観する構えだった。花音からこの提案を聞いた時に、「この問題は生徒たち自身で解決すればいい。それが一番いい結果につながるだろう」拓哉は顧問にそう伝えた。コーチ自身、自分が提案したとはいえ、三年生がここまで努力を重ねるとは思ってもみなかった。


コーチよりは学校に長く所属して見てきた滝本顧問は、全国大会でも十分に通用するレギュラーを外して、記念出場をするためだけに、三年生を全国大会に出場させるのは、不本意ではあった。だが、部員が決めるのなら仕方ない。


一向に意見がまとまらない。とにかく栞代が強行に反対はしたが、なんといっても試合に出ていない一年生だ。発言力そのものが弱かった。

奈流芳瑠月が提案した。


「もう一度部内試合をするのはどうですか? 3年生にもチャンスを与える形になるし、直前の実力でメンバーを決める。本来はこうあるべきだし」


その提案に全員が黙り込む。これ以上の議論は進まず、やがてその案が採用されることとなった。


むしろ、それは三年生に引導を渡すことになるだろう。ほとんどの部員がそう思った。


栞代は心配だった。杏子の実力のことではない。杏子は、瑠月さんのことで動揺し、試合でミスをして、個人での全国出場を逃した。それは、杏子の弱さではあるが、優しさでもあった。その根拠が、団体戦で全国に出場できると思っていたからでもある。それを根底から覆すことになる。

もちろんそれは言い訳でしかない。でも・・・・・・。


実力なら問題ない。問題は気持ちだ。杏子は優しすぎる。自分が自分が、という自分が前に出るタイプではなく、闘争心が無く、むしろ自分さえ我慢すれば、という、考え方をするタイプだったからだ。

団体戦出場は杏子の夢、おばあちゃんに金メダルを、というチャンスの第一段階だ。だが、まだ一年生。機会はこれからもある。そこが逆に心配だった。


部内試合当日、弓道場は緊張感に包まれていた。特に3年生の顔には、これまでにない覚悟がにじんでいた。短い期間だったが、彼女たちは本気で練習に打ち込んできたのだ。


最初に3年生が弓を引く番だった。一人ひとりが射場に立つたびに、他の部員たちは息を飲んで見守る。彼女たちの姿勢はこれまでとは明らかに異なり、その真剣さは場の空気を変えていった。


一射目、花音を入れて5人の三年生は、全員が的中させた。この緊張感の中で、きっちりと的中してくるとは。どれだけ練習してきたのか、どれだけここに懸けてきたのか。部員の全てが驚いていた。


そして、その光景を見て、杏子は、花音の提案を聞いてから、ずっと考えてきたことを決心した。団体戦での優勝を心から目指していたが、3年生の思いに触れ、自分の中の葛藤に向き合わざるを得なかった。ただし、それには一つ、譲れない条件があった。


杏子は意を決して声を上げた。

「私……射つのを辞めます。。」


その言葉に、全員が驚きの表情を浮かべた。ただ、栞代は、やはり、と思った。だが。

「杏子!」栞代が叫ぶ。「何言ってるの!?団体戦で優勝するんじゃなかったの?」

「そうだよ、杏子!」つぐみも強い口調で言った。「本気で言ってるのなら、お前とはもう口を聞かない、縁を切る!だから、射て!」


つぐみの強い言葉にも関わらず、杏子は静かに下がった。それは、県大会での「失」のあとの、最後まで礼を尽くす姿と重なった。


つぐみは天を仰いだ。栞代に少し聞かされてはいたけど、まさか本当に棄権するとは。つぐみはもともと個人戦が目標だった。団体戦は、杏子のために、という気持ちが強かった。ずっと努力してきた杏子。そのことは、同じように中学時代から努力してきたつぐみには、痛いほど分かってた。杏子のために団体戦に出る覚悟をしていたのだ。その杏子が出ないのなら、自分が出る意味はない。つぐみは、ため息をついて続けた。

「杏子が辞めるなら、私もやめるわ。。」


さらに、瑠月も口を開く。

「私も団体戦の椅子は譲ります。個人戦で頑張るつもりなので。」

杏子の気持ちに応えようと、杏子の気持ちを少しでも楽にしてあげたくて、瑠月は言った。


残された冴子と沙月は、黙って弓を射った。二人とも、見事に的中させた。それは二人の意地だった。そのあと、二人は目を合わせ決心したかのように頷いた。冴子が言った。


「私たちはチームだから。杏子が出ないなら、私たちも出ない」


こうなるんじゃないか、と冴子は沙月と相談して決めていたのだ。杏子のことは良く分かっていた。そしてすぐに杏子の元へ行き、お前は本当に仕方ないやつだな、そんなことを言いながら、二人して杏子を抱きしめた。

そして、「来年は絶対に行くぞ」そう付け加えるのを忘れなかった。


その後、3年生は杏子のもとに集まった。その顔には申し訳なさが浮かんでいる。

「杏子、本当にごめん。そして、ありがとう……。」花音が涙を浮かべながら頭を下げた。


杏子は静かに首を振り、言葉を返そうとしたが、言葉にならなかった。


しばらくして、意を決したように杏子が言った。


「団体戦のメンバーには必ず瑠月さんを入れてください。お願いします。瑠月さんにとっても、この大会が最後になりますから。」


瑠月は驚いて杏子を見た。


花音は必ず守るといい、すぐにコーチに確認して了承して貰った。


杏子のその気持ちに、三年生たちは頭を下げるしかなかった。

その姿を見ながら、杏子は、たぶん花音先輩は、三年生に頼まれたんだな、と思った。本当は、きっと花音先輩も、県大会と同じメンバーで全国大会に行きたかったに違いない。でも、やはり同級生という絆は強かったんだ。


いろんなことがあって、いろんな思いがあったとしても、同級生の絆は強かったんだ。やっぱり仲間だったんだ。

その気持ちは、杏子も痛いほど良く分かった。

花音部長も相当苦しんだに違いない。苦しいけれど、申し出たんだな、と思った。

だけど、冴子さんと沙月さんには本当に迷惑を懸けた。そう思い、また二人を見ると、二人は笑顔を見せ、黙って頷いた。


それを見ていた栞代は、杏子はほんとに馬鹿だと思った。おばあちゃんのために金メダルを獲るんじゃなかったのか。同時に、来年は絶対にオレが力になってやる、と強く誓った。

ほんとに馬鹿だ。だが、大好きだぜ、杏子。

ふと横をみると、紬が頬を赤くしている。「わたしの課題じゃないけど、納得できません」小さく呟いたのを栞代は聞き逃さなかった。

紬の肩を抱き、「一緒に杏子を支えよう」そう呟いた。

紬は返した。

「それはわたしの課題です。」


拓哉コーチが口を開いた。

「ブロック大会のメンバーは、杏子さん、つぐみさん、冴子さん、沙月さん、瑠月さんの5人で行く。本来なら、全国大会の前哨戦の意味合いもあるし、経験値としても重要な大会だが、今回は特例だ。こうさせてもらうことにするよ。

それぞれがそれぞれの目標に向かって練習するように」


花音に相談されて以降、顧問の滝本先生と決めて出していた結論の一つだった。


その宣言に全員が静かに頷き、衝撃的な一日はこうして幕を閉じた。

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