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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
276/432

第276話 交流会 宇宙人と門番と解析報告の約束

納射会の熱気が、冬の柔らかな光の中に溶けていく。会場となった川嶋女子校の一室は、両校の部員たちのための、ささやかな交歓会の場となっていた。紙コップに注がれたオレンジジュースと、テーブルに並べられたスナック菓子。先ほどまでの張り詰めた空気が嘘のように、そこには高校生らしい和やかなざわめきが満ちている。それは、激しい戦いを終えた兵士たちが、しばしの停戦を楽しむかのような、穏やかで心地よい時間だった。


その輪の中で、一人の少女が、もう一人の少女に声をかけた。

「いや、おたくの部長の杏子さん、さすがに凄かったです」


そう言って、少しだけ挑戦的な笑みを浮かべたのは、川嶋女子一年生のエース、西園千景だった。話しかけられた真映は、敵将に褒められた自軍の王を思うように、途端に機嫌を良くした。


「いやいや、そちらこそ! 川嶋女子さんの前田部長、霞さんも凄かったですよ! あの、息もできないようなプレッシャーの中で、涼しい顔で皆中を出すなんて、さすがです!」


真映の心からの賞賛に、西園の猛禽のように鋭かった眼光が、ふっと和らぐ。

「おまけに、あのあと、すぐに着替えて最後の納射でしょう? 外したら、今日の出来事が全て台無しになりかねない場面で、あの完璧な射。ほんっと、すごいですよ」

「いやいや、正直に言って、完璧じゃない杏子部長の射って、わたし、見たことないんですよね。あれが部長にとっては、通常運転、普通のことなんですよ。天才という言葉はあの人のためにありますね」

「そうだとすると、うちの霞先輩は、努力の人、ってところかな。わたしが入部した当時と比べても、随分強くなりました」



そこから、二人の会話は堰を切ったように弾み始めた。それはまるで、敵国の兵士同士が、互いの王の素晴らしさを熱心に語り合うかのようだった。


「いや、うちの部長もそうですよ! あの人、たぶん頭の中、弓道のことしかないですから。おしゃれもしないし、男の影なんてミジンコほどもないし、いったい毎日、何が楽しみで生きてるのかなって、時々心配になります」

「分かります! うちの霞先輩も、本当にそうなんです! 率先して誰よりも練習するもんだから、私たち部員は誰もさぼれないんですよ」

「うんうん、分かる分かる! うちも全く同じです! 杏子部長、言葉で『練習しろ』なんてことは全然言わないんですけど、あの背中から『練習しないやつは置いてくぞ』っていうオーラが、もう、だだ漏れなんですよねっ!」


すっかり打ち解けた二人の間には、もうライバル校という壁は存在しない。

「うちの霞先輩は、まさに『不動心』って感じですけど」と、西園は楽しそうに続けた。「おたくの部長さんは、面白い人ですね。納射会が終わった後、着替えたら真っ先にお祖父様とお祖母様のところに飛んで行って、満面の笑みでじゃれ合ってたじゃないですか。最近は幼稚園児でも、もう少しクールですよ」


「ぎゃはははは! いや、そうなんです! 部長、普段はもう、めっちゃくちゃ幼いんですけど、特におばあ様の前だと、幼児返りが加速するんですよ!」

「あの神事のような納射の姿を見た後だと、とても同一人物とは思えません。競射の時は、さすがに最初少し緊張してたみたいですけど、もう儀式の全てが完璧でしたからねえ」

「ぎゃはははっ! いや、ほんと、そうなんですよ!」


ひとしきり大笑いした後、真映はふと声を潜め、 conspirator(「共謀者」「陰謀者」「密謀者」など)のように顔を近づけた。

「……そこまでちゃんと部長のことを見ててくれた、西園さんだから言いますけど」

その真剣な眼差しに、西園もごくりと喉を鳴らす。

「これは、絶対に秘密にできますか?」

「え、ええ。なんでしょう?」


「うちの部長、弓を握っている時と、そうでない時の人格の差が、あまりにも激しすぎるんです。それで、うちの部員は全員、満場一致で、こう結論づけています。──あの部長は、地球人じゃない。宇宙人だって」

「……は?」

「そして、わたしは密かに、こう考えています。部長は、地球を守る、ウルト……」


そこまで言った時だった。

ぬっ、と背後から伸びてきた手が、真映の首根っこを、まるで猫の子を運ぶように、ひょいと掴んだ。音もなく、気配もなく、そこに立っていたのは栞代だった。


「あ、か、か、か、栞代先輩っっ!」

「西園さん、ですね」

栞代は、西園に向かってにこりと人の良い笑みを向けた。しかし、その目は全く笑っていない。

「すみません。うちの真映が、あることないこと、余計なことを話したみたいで。この子の発言の全てを含めて、どうか、ご内密にお願いします」


その静かな圧力に、西園はただ頷くことしかできなかった。


栞代に連行されていく真映を見送りながら、西園はふと、会場の反対側にいる杏子に目を向けた。彼女は、川嶋女子弓道部の面々に囲まれ、質問攻めに合っている。

(そうだよな。聞きたいこと、いっぱい、あるよな)

自軍の部長である霞もまた、光田の部員たちと何かを話している。

(よしっ。わたしも、杏子さんに聞きに行ってみようか)


何を? 決まっている。


「宇宙人、なんですか?」って。


半ば本気で、半ば冗談で、そう思いながら一歩踏み出そうとした、その瞬間。

いつの間にか、すぐ隣に、光田高校のマネージャーの生徒が、何の気配もなく立っていた。たしか、名前は、一華。


「弓以外のことは、絶対に聞かないでください」


静かだが、有無を言わせぬ、絶対的な響き。その強い目力に、西園は射抜かれたように動きを止めた。一華は、杏子という希少な研究対象を、外部のノイズから守ろうとする門番(ガーディアン)のようだった。


そして、彼女は、西園をライバルとして、そして杏子という巨大な謎を探求する「同志」として認めるかのように、こう続けた。


「その代わり、わたしが彼女の全データを解析し終えた時には、その結果を、真っ先にあなたにお伝えいたします」

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