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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
255/432

第255話 ソフィア宅での夕食

その日の夕暮れ、杏子、栞代、紬の三人は、少し緊張した面持ちソフィアの家の前に立っていた。何度も訪れていた三人だが、今日はソフィアの父母、そして弟妹が居る。そしてベットのピルッカも。純和風の門構えでありながら、窓から漏れる光は北欧のランプのように温かい。和と北欧の空気が溶け合うような、不思議な魅力を持つ家だった。


インターホンを押すと、すぐにパタパタというスリッパの音が聞こえ、勢いよく扉が開かれた。

「いらっしゃいませ!」

満面の笑みで出迎えてくれたのは、ソフィアの母、ミーナだった。その背後からひょっこりと顔を出した妹のアンナは、最初弓道場での敵意に満ちた顔が嘘のように瞳を輝かせ、一直線に杏子のもとへ駆け寄った。


「Kyoko, mä oon oottanut sua!」

そう言って、アンナは杏子の手をぎゅっと握る。その変わり身の速さと素直さに、杏子は思わずふわりと微笑んだ。紬が「待ってたよって」と小声で伝える。

「ありがとう、アンナちゃん。お招き、嬉しいです」

ピカピカ光ってる瞳のアンナに、ソフィアが杏子の言葉を伝えた。

そして、

「杏子、来てくれてありがとう。アンナがずっとそわそわしてたの」ソフィアが肩をすくめて笑った。

「ううん、こちらこそ嬉しいよ」杏子はアンナの頭を軽く撫でた。アンナはふにゃあと表情を崩して、頬を赤らめる。


ピルッカも足元で尻尾を振り、杏子たちを出迎えていた。杏子がしゃがんで「こんにちは」と声をかけると、犬は大喜びで足元にすり寄った。


「さあ、食事にしましょう」


リビングに通されると、そこはまさに国際色豊かな歓迎の空間だった。


日本の煮物やお味噌汁、そしてフィンランド風のサーモンスープ「ロヒケイット」、ライ麦パンなどがずらりと並ぶ。


祖父のエリックがにこやかに手招きし、祖母のリーサが「ようこそ」と優雅にお辞儀をする。父のヨハンは少し照れくさそうに会釈し、弟のラウリはソファの隅で携帯ゲーム機を握りしめながらも、ちらちらとこちらを窺っている。そして、足元には人懐っこい犬のピルッカがずっと尻尾を振っていた。


食卓に並んだのは、まさに文化の饗宴だった。リーサお手製の、まるで宝石のような美しい練り切り。ミーナが腕を振るった、ライ麦の生地にミルク粥を詰めて焼いたフィンランドの伝統料理「カルヤランピーラッカ」。そして、ヨハンが照れながら出す、ディルが香るサーモンのマリネ。


「すごい……」「美味しそう……」

三人が感嘆の声を上げると、エリックは満足げに頷いた。

「さあ、遠慮なさらずに。今夜は私たちの、ささやかな日本とフィンランドの友好記念パーティーです。」


「いただきます!」

全員で食卓を囲むと、まるでずっと前から家族だったかのように温かい空気が流れた。


食事は和やかに進んだ。杏子の穏やかな物腰は芸術家のミーナとすぐに打ち解けさせ、理知的なヨハンは、栞代の情熱的でストイックな一面に興味を引かれているようだった。

そして、紬の隣には、いつの間にかソフィアがぴったりと席を寄せ、ひそひそと何かを話している。


そのきっかけは、アンナが大切そうに持っていたキーホルダーだった。

「それ、アーニャ?」

紬が小さな声で尋ねると、アンナの顔がぱっと輝いた。

「うん!紬さんも『SPY×FAMILY』、知ってるの!?」

「……もちろん」

紬が頷くと、そこにソフィアも加わり、三人のアニメオタクたちの熱量は一気に最高潮に達した。


「ねえ、聞いて!私、今日わかったの!」

アンナは興奮して立ち上がると、杏子を指さした。

「杏子さんは、ヨルさん!普段は優しくておっとりしてるけど、弓を引く姿は、まるで舞ってるみたいに綺麗で、本当はすっごく強い!本物の“いばら姫”だわ!」


きょとんとする杏子に、栞代が「ヨルさん……?アニメのキャラクター?」と尋ねる。

「ええ、凄腕の殺し屋です」とソフィアがにこやかに補足すると、杏子は「殺し屋さん……」と困ったように笑うしかない。

「わたしもアサシンになりたいって言ったら、パパが真顔になって止めてきたの」アンナが屈託なく笑う。


次にアンナは、栞代をじっと見つめた。

「そして、栞代さんは、ロイド!“黄昏たそがれ”よ!いつも真剣な顔で、どうすれば強くなれるか、ミッションのことだけ考えてる!」

「私が……諜報員スパイ……?」

予想外の配役に、栞代は戸惑うも笑顔を返す。その真面目な反応がまた面白いのか、アンナとソフィアは声を立てて笑った。ソファの隅にいたラウリまでが、思わず「……かっこいい」と呟いている。


最後に、アンナは得意げな顔で紬を見た。

「そして、紬さんはアーニャ!口数は少ないけど、本当はみんなの心を読んでるの!全部お見通しなんでしょ?」

その言葉に、紬は何も答えず、ただほんの少しだけ口角を上げてみせた。そのミステリアスな微笑みは、アンナの確信をさらに深めたようだった。

「やっぱり!ソフィア、紬さんはフィンランド語も少しわかるのよ!まるで超能力だわ!」


「でもさ、フィンランドってアニメはリアルタイムで見られないんじゃない?」杏子が不思議そうに訊くと、ソフィアが誇らしげに答えた。


「VPNと日本のストリーミングサブスクがあれば、なんとかなるの!」


ヨハンが小さくうなずいて「我が家のネット環境は、娘のアニメのために最適化されています」と理知的なトーンで言い放つ。「そのおかげで、ソフィアは日本に来ちゃいましたが」と。杏子はソフィアとアンナのアニメ好きの理由がわかった。


三人の少女たちが紡ぐ、国境を越えた「見立て」遊び。そのあまりにも的確な配役に、大人たちは感心したり、笑いをこらえたりしながら、温かい目で見守っていた。ピルッカは、いつの間にか杏子の足元に丸くなり、安心しきった寝息を立てている。


エリックは、お茶を一口すすると、深く、優しい声で言った。

「言葉がどうあろうと、こうして食卓を囲み、同じ物語で笑い合える。これこそが、我々が見失ってはいけない宝物なのだな」


夕食が終わる頃には、アンナは杏子の腕にくっつきながら、ソフィアの隣に座っていた。


「杏子、明日からの旅行に一緒に行こうよ~」

ソフィアファミリーは、明日から日本での観光旅行に行く予定になっていた。

「アンナ、杏子が困ってるじゃない」ソフィアが戸惑うも、アンナは主張を変えない。


急遽緊急の家族会議、アンナ説得会議が始まる。

結果、旅行中も、ちゃんとビデオ通話する、ということで折り合いがついた。


「杏子さん、すいません。日本に来るまでは、ソフィアが日本に来たのは杏子の責任だって、アサシンになって杏子を倒す、なんて言ってたんですよ」とミーナが笑う。

アンナは「言いつけた~」と言って泣き笑い。


その言葉は、リビングの温かい空気の中に静かに溶けていった。杏子は、足元のピルッカの温もりを感じながら、目の前で繰り広げられる賑やかで愛おしい光景に、心の底から満たされた気持ちになるのだった。

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