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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
高校入学から県大会
25/416

第25話 県大会まで残り一週間

一週間後に控えた県大会へ向けて


地区予選が終わってから一週間。全国大会出場を掲げた彼女たちの挑戦は、いよいよ県大会へ向けて加速していた。


早朝の冷気とともに部員たちが集まってきた。時計の針は、まだ6時を指していない。

「おはようございます」

杏子と栞代の声が、薄明るい道場に響く。既に準備運動を終え、素引きを始めようとしていた彼女の姿に、つぐみは思わず目を見張った。

いつも来るの早いけど、今日は特別早いな。

「おはよう、杏子。今日も早いね」

「うん。県大会まで一週間しかないから」

「栞代は試合に出ないのに、大変だな」

「全くだよ。だけど、この緊張感が好きでさ」

杏子の言葉には、いつもの穏やかさの中に、確かな決意が感じられた。

朝練習の開始時間を1時間早めての特別練習。杏子が望み、コーチが許可した。部員たちは好きな時間に来ていいことになってはいたが、全員参加していた。県大会突破、そして全国大会出場という目標に向けて、誰もが必死だった。


朝の練習が始まり、道場には矢が放たれる音が響き始める。以前より1時間早く始まった練習だが、誰一人として眠そうな様子は見せない。


朝早くから校庭に響く矢音。その音は、静かな決意と、どこか熱を帯びた緊張感を運んでいた。


「今日から、朝練と放課後でこれまでの倍は打ちましょう」

コーチの声に、全員が頷いた。なかなか骨のある矢数だ。しかし、県大会という高い壁を越えるために、必要な積み重ねだった。

特に杏子の練習量は際立っていた。朝練、昼休み、放課後、居残りと、一日で必ず100本以上の矢を放つ。その姿に触発され、他の部員たちも自然と練習時間が延びていった。


「私たちにできることは、準備を完璧にすることです」


今年、男子チームはまだ発展途上といえたが、女子はある程度完成していると考えられた。コーチの拓哉と顧問の滝本は、密かに優勝を狙えると見ていた。それだけに、選手たちも真剣だ。後悔だけはしたくないという気持ちから、練習時間を通常よりもさらに拡大し、その分、矢を射る回数を増やし、弓を引く体力と集中力を鍛え直していた。


杏子の覚悟


1年生ながら、その実力と独特の感性でチームに貢献してきた杏子。だが放課後の練習では、これまで基礎練習に徹していた。彼女は、誰かの指図で行動することを嫌う性格だ。彼女を変えるには、彼女のおばあちゃんの力を借りる以外にはない。それを十分に知っている栞代は、コーチや他のメンバーにも頼まれ、杏子のおばあちゃんに、杏子の説得をお願いし、そしておばあちゃんの一言が、彼女の練習スタイルを変えた。


地区予選終了した翌日の放課後、杏子はついに通常練習時間での「射込み練習」に加わることにした。

今までは早朝練習と、そして、放課後の居残り練習というテイで行っていたが、団体戦に欠かせない試合形式の立ち稽古にも、多くの時間を割いて数多く参加していた。団体戦では、他の選手と呼吸を合わせることが重要だ。時間制限内での動作や、前後の流れを意識しながら弓を引き、的を射る。この経験は、個人競技とはまた違う集中力と責任感を要求するものだ。


「おばあちゃんが言うなら、仕方ないか。」杏子は誰に言い訳するでもなくそう言いながら、練習の輪に加わったが、実は杏子自身も、団体練習の必要性は痛感していた。しかし、自分の頑固なところに自分が縛られていた。栞代はきちんとそれを分かっていて、彼女の負担を軽減させるために、おばあちゃんにお願いしたのだ。

その分、練習の姿勢は誰よりも真剣だった。放課後の練習では、杏子の姿に周囲が驚いた。いつもの穏やかな表情だけではなく、これまで見たことのない真剣な表情で、的に向かって矢を放つ。基礎練習で培った美しい射形は崩れることなく、それでいて、より力強さが増しているように見えた。


「杏子ちゃん、すごいわ」瑠月が思わずつぶやいた。

「なんというか、基礎練習の時とは違う迫力があるね」冴子も感心したように見つめている。

栞代は、そんな杏子の変化を誇らしく見守っていた。説得して良かった。これなら、大丈夫。その姿を見て、少し安心した様子でうなずいた。「おばあちゃんのおかげだな。全く手間が懸かるぜ」と心の中でつぶやきながら、自分もできる限りのサポートに励む決意を新たにしていた。


1年生のサポート


「花音さん、私たちにできることがあれば、なんでも言ってください」

秋鹿あかねの言葉に、他の一年生たちも頷く。

「ありがとう。でも、基礎練習をしっかりやってね。それが一番の助けになるから」


1年生は、まだ弓に触れることは許されていなかった。そう言われながらも、それでも彼女たちは、基礎練習を減らし、その分を上級生たちのサポートに充てていた。上級生の練習補助に回る。的前での矢取りや、道具の手入れなど、できることは全てやろうという姿勢だ。栞代にとって、杏子へのサポートは特に大切だった。以前、杏子に「できることは全力で協力する」と約束したことが、今も胸に刻まれているからだ。


練習中、栞代は弓具の調整や矢の回収、さらには射手たちの様子を見守り、細かな気配りを欠かさなかった。あかねは、持ち前の明るい笑顔で雰囲気を和らげながら、チーム全体を元気づけていた。紬は相変わらずあまり周りと交流しなかったが、一人でもくもくと道具の手入れをしていた。


上級生たちの決意


3年生の花音と、2年生ながら最後のインターハイになる瑠月もまた、それぞれの思いを胸に練習に打ち込んでいた。「最後」という響きに覚悟を決め、全ての練習に全力を注いでいた。瑠月も花音もまた、最後の大会というプレッシャーを感じつつも、その背中で後輩たちを引っ張ろうとしていた。


深澤コーチからは、特にメンタルトレーニングの重要性が強調されていた。「その気になれば24時間すべてがメンタルトレーニングになる」というコーチの言葉繰り返し思い出し、花音と瑠月は練習以外の時間でも意識を高めていた。練習前後の挨拶を元気よく行うことや、夜寝る前にはイメージトレーニングを行うなど、小さな行動を積み重ねていた。


笑いを忘れないチーム


そんな中、1年生ながらエースとして自負を持つつぐみは、独特の明るさでチームを盛り上げていた。練習の合間、記録をつけている1年生マネージャーの雲雨まゆに何度も結果を確認しに行く。


「ねえ、まゆ。今日の私、トップじゃない?」

ある時、いくつかの矢を外してしまったつぐみは、杏子が連続で的中させているのを見て苦笑した。だから逆に、皆の前で、冗談めかして言った。

「ねえ、まゆ。このチョコあげるから、私の失敗を成功に変えてよ。一回につきチョコ一個でどう?」


その場の空気が一気に和む。瑠月がすかさず「じゃあ、私なんてトラックいっぱいのチョコが必要になるわね!」と返し、さらに笑いを誘った。まゆは、大笑いしながらも両手の人差し指で「ダメダメ!」とばかりに×を作って前に突き出していた。まゆは声帯が弱く声が小さいため、あまり声は出さない。だから、普通の対応でもあったのだが、その自然な可愛さに「可愛いすぎ~」とあかねが声を張り上げていた。


深澤コーチから、練習は真剣に、試合はリラックスして、と言われていたこともあり、張りつめた空気が支配しているが故の、息抜きでもあった。


チームの絆


笑いの中にも、厳しい練習への真剣さがあった。冴子と沙月の2年生コンビは、練習中お互いにアドバイスを送り合い、励まし合っていた。そんな姿を見て、つぐみもまた「負けられない」と決意を新たにする。


辺りが暗くなっても、道場には熱気が残っていた。杏子は最後の一本を放ち、ゆっくりと弓を下ろす。

「今日は何本?」栞代が尋ねた。

「124本」

「すごいね。疲れない?」

「大丈夫。むしろ、もっと打ちたいくらい」

杏子の目は輝いていた。それは、目標に向かって真っ直ぐに進もうとする者の、確かな光だった。

「でも、無理は禁物」

突然の声に振り返ると、コーチが立っていた。

「明日もまた6時なんだから、しっかり休むように」

「はい」

帰り支度をする部員たち。しかし、誰の表情にも疲れは見えない。むしろ、明日への期待に満ちているようだった。

「ねえ、栞代」

「なに、杏子?」

「もっと早く言うべきだったけど、ありがとう。放課後の練習、勧めてくれて」

「こちらこそ。杏子の頑張りを見てると、私も頑張れるよ」

二人は、肩を並べて歩き出した。県大会まで、あと一週間。気持ちもどんどんもりあがってきていた。


「杏子、迎えに来てるぞ」冴子が声をかける。

おじいちゃんだ。最近、また練習で遅くなるので、毎日迎えに来てくれる。


「杏子、これからまたおじいちゃんの相手か。疲れるだろな~。ほどほどにしろよ。」

「また栞代ったら。おじいちゃんと話してると、疲れが取れるのよ。」

「逆な気がするけど・・・・」

「んも~~」


「聞こえとるぞっ」

残っていた生徒たちもそれを聞いて笑う。

そんな明るい雰囲気の中、二人は道場を後にした。


チーム全員が、それぞれの役割を全力で果たそうとしていた。そして、その中で生まれる絆が、彼女たちの最大の武器になっていた。


県大会まであと一週間。目指すは優勝、そしてその先にある全国大会。彼女たちの挑戦は、笑い、そして熱意を伴って、さらに熱を帯びていくのだった。




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