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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
248/432

第248話 焼肉パーティー その1

焼肉屋の暖簾をくぐったのは、真映が一番乗りだった。

「はよっ! ほら、ここ、ここが部長の席やからっ!」

店員さんも引き気味に笑うぐらいの勢いで、真映は中央の一番いいテーブル席を確保して、紙ナプキンで「部長席」と書いて置いていた。

「うちらで一番えらいのは杏子部長なん。店員さん、よろしくお願いします。!」

まだ誰も来てないのに、すでにテーブルの上のタレの小皿の位置を何度も微調整している。


数分後、紬と栞代が到着。

「真映……早すぎやろ。」

「いや、あのかぐやさんは油断できませんからねえ。おまけに鳳城の詩織さんも。それに比べてうちの部長はぼんやりさんやから、うちがちゃんと席取っといたらんと。栞代さんと紬さんは部長と同じテープルなので、お願いします。あと、ソフィアさん、あかねさん、まゆさん、が同じテーブルです!」

紬は無言で冷静におしぼりを配り、栞代は「……まあええけど」と苦笑しながら、メニューを覗き込む。


そこへ、つばめと一華と楓の一年生組もぞろぞろやって来る。

「あ、真映、なんかもう配置決めてる……」

「当たり前やろ! 戦いやぞ! 座席戦争や!負けてられん」

「……なんや、楽しそうやねえ」


そこに、少し遅れて、杏子が祖父母を伴って入ってくる。

「わぁ……広い……!」

真映が立ち上がって、声を張り上げる。

「部長! こちらです! ここ座ってください!」

祖父は苦笑いしつつも、「ほら、杏子、座りぃ」と優しく背中を押す。祖母は「なんだか楽しそうねぇ」と目を細めた。

「今日は弓道部のメンバーとたっぷり楽しみや」祖父はそういうと、祖母と端の席に向った。


やがて、鳴弦館の一団が現れる。篠宮かぐやが入ってきた瞬間、店内の空気が数度上がった気がした。

「……あっちが上席やろが。」

「いや、これは光田高校の部長様席やから!」真映が即座に返す。

「しゃあねぇ、まぁええど。」かぐやは頷きつつも、なぜかドスを利かせた目つきで焼肉台を確認していた。


さらに遅れて鳳城高校。麗霞が店に入ってきた瞬間、まるで後光が差したような雰囲気に、店員が二度見する。

「麗霞さん、こっちです!」真映が叫ぶと、横に居た詩織が、

「麗霞がわざわざ来てくれたんだよ? ありがたく思わんと〜」と話すと、麗霞が微笑んだ。


最後に厳敷高校メンバーと、つぐみが入ってきて、いよいよ満席状態。

「わあ……ほんとに来たんだ、全員。」つぐみは目を丸くし、

「つぐみさん、みんなうちの魅力で来たけい!」真映は得意げ。

「いや、杏子に会いたかったと思うけど・・・・幸せやねえ」とつぐみは呟く。


それぞれが荷物を置き、席を整える。

真映が挨拶する。


「みなさん、選抜大会、おつかれさまでした。それでは、夏の高校総体の優勝祝賀会を行います。本当はわが光田高校の優勝祝賀会なんですが、まあ、各自それぞれ、自分の高校の優勝祝賀会と思って楽しんでくださいっ」


「おお、真映、えらい大人になったやん」

変なことを言えば、すぐに退場させようと後で見守っていた冴子が感心する。

「冴子部長は怒らせたら、廊下に立たされそうやもん」


もう試合の緊張感なんてどこにもない、でも不思議とチームを超えた連帯感がある、そんなざわめきが焼肉屋いっぱいに広がっていった。


焼肉パーティーは、いつの間にか火力だけでなく、温度もヒートアップしていた。

最初こそ、光田高校・鳳城高校・鳴弦館高校・厳敷高校と、各校ごとのテーブルでそれぞれ固まっていたが、肉の香りとジュージュー音が友情を焼き上げたのか、炭火が冷めるころには自然と垣根が溶けはじめていた。


普段は練習試合くらいでしか顔を合わせないライバルたちが、今はトング片手にタレの好みで盛り上がる。

「おまえ、塩派やったん?!」

「いや、わたしポン酢派やねん」

そんな平和な口論が続く、極楽テーブル群。


その輪の外側から、ちょっとだけ緊張した表情で現れたのが、厳敷高校の三人――野蒔、瀬良、大淀。

彼女たちは、つぐみに導かれながら杏子のテーブルへと向かってきた。

「杏子さん、本当にありがとうございました」

ぺこり、と揃って頭を下げる。


杏子はその勢いに目をまんまるくし、耳まで真っ赤になる。

「えっ、い、いえ、その……えへへ……」

謎の「えへへ」リアクションで会話が一瞬止まるが、気にしない三人。


野蒔が、真っすぐな瞳で続けた。

「苧乃欺顧問がいなくなってから、正直、最初は戸惑いもあったんです。でも、クラブの風通しがすごく良くなって……最近、やっと本当の意味で楽しいって思えるようになってきました」

瀬良、大淀が頷く。二人とも、高圧的な指導に萎縮していた組だ。


「臨時で来てくれてるコーチも、すごくいい人で。春から正式に就任することになったんです」

瀬良も笑顔で補足する。

「この大淀、一年生ですが、ぐんぐん実力つけてて。夏を楽しみにしていてください、杏子さん」


「そうなんだね。すごいっ」

杏子は小さく微笑む。ちょっとだけ、嬉し泣きしそうな顔をして。


その空気の中で、栞代がぽつりと口を開く。

「野蒔……あんたの度胸はすごいよ。あの隠し撮りが無かったら、逃げられたかもしれないからな。……なかなかできることじゃない」


野蒔が、ちょっと肩をすくめた。

「つぐみさんのためにって思ったら、自然とそうなりました」

つぐみが今更ながら、という風に野蒔の頭を撫でる。

そして、

「ほんと、仲良くやってんだな、安心したわ。まあ、苧乃欺顧問は、誰を依怙贔屓して、というのは無かったからな。全員に平等にうるさかったから」

少し言葉を選びながら、つぐみは話していた。


つぐみたちは、今度は杏子の祖父へお礼に行きます、と伝え、腰を上げるが、栞代がすかさず

「いいんだよ、あんなジジイはほっといて。もっとマシなやり方あったろうに」

と軽く悪態をつく。あの出来事は栞代はまだ許していないようだ。


つぐみが吹き出す。

「栞代、……ほんま、ずっと仲良くやってんだな」

そう言いながら、野蒔、瀬良、大淀と共に席を立ち、祖父のところへと向かっていった。


その直後、入れ替わるように、ドカッと登場したのが、篠宮かぐやである。

「杏子、うっがよ、うちん自慢話ば、ちったぁ聞かせちゃろかっが?」

どや顔。焼肉の煙すら彼女の背景演出にしか見えない。


両脇には、鷹匠と真壁の「お目付け役ツインズ」がぴったりマーク。完全に不審者扱い。


「直行ち、うっがんこつ待っちょっちゅうとよ。価値あっ女んこは、男ん方が待っが当たり前じゃっで。ほんなこて、よか女は得すっど。うちのバイブル『エースをねらえ』にも書いちょったわい。どや、杏子、うらめしかろ?」


「うん。良かったね、かぐやさん」

杏子はあまりにあっさり言い切る。


「杏子、なんちゅう顔しちょっか、もーちっとばっかい羨ましげにせんか! おめんこつ待っちくるもんおらんとや? あんま、あっさりしちょったら、直行に言うて、友達ん一人や二人、紹介しちゃろかいっど!」


「居るよ」


パチン、と静かに炭火がはぜた。

テーブルにいた全員――栞代、紬、ソフィア、まゆ、あかねが一斉に杏子を見る。

静寂。


「……だ、だいやっか!? そげん見栄ば張らんでよかて。うちら、なかよっじゃっど~?」


「おじいちゃんっ」

杏子は、天使のような、しかし場を破壊する笑顔でそう答えた。


その瞬間、光田高校の面々は、

「ああ……なるほど」

と、なぜか全員納得してうなずいた。うん、そうだよね、杏子の“待ってる人”=祖父、はガチ。


「あんひゃ、アホっが! そんげなこつやなか!

うちかてな、黒曜じっちゃんも待っちょっとじゃっど。ちなみに、ばっちゃんの名は静音しずねっち言うっど。今は破門っちゅうこっなっちょっばってん、そいは建前じゃっでな、ほんまんとこは、ちゃーんと待っちょっがよ!」

かぐやが詰め寄るが、杏子は終始にこにこ。楽しそうで仕方ない。


「はいはい、じゃっどん、こんあたりでいっぺん締めっかね。杏子さん、みなさん、ありがとごわした。ちょっと落ち着かせもっで。」

鷹匠がそう言って、真壁と二人で、テーブルに戻って行った。


この夜、炭火より熱かったのは、青春という名の焼肉ドラマだった。




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