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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
243/432

第243話 決勝戦へ

「あれ? 栞代、もう時間みたいだよ。」

「うん。杏子、これ。」


栞代が手渡したメモ。

一華が渡してくれたものだけど、妙に熱のこもった言い回しで、すぐに誰が考えたものなのか分かる。

――きっと真映だ。


そこには、走り書きのような文章が綴られていた。

一華が真映の言葉を文字にしたのかな。


・鳳城高校には弱点が一切ありません。

・現在の高校界の女王、帝国、王国、要塞、どんな形容詞をもってしても、足りません

。難攻不落、は鳳城高校のためにある言葉です。

・弓道の神髄、精神、真善美をまさに体現しています。

・我が光田高校はその全てにおいて仰ぎ見るだけです。

・それでも。

・その鳳城高校を倒すとしたら、わが光田高校です。

・杏子部長は宇宙人。だから、麗霞さんに対抗できます。

・栞代さん、紬さん、お二人は宇宙人に育てられ、一緒に時間を過ごしています。もう宇宙人も同然です。

・恐れる必要はありません。

・光田高校弓道部、全員、信じています。

・金メダルを、部長のおばあちゃんにプレゼントしましょうっ。

そして、みんなでテーマパーク行きましょう。


最初の数行で思わず苦笑いが浮かび、中盤の「それでも」で背筋が伸び、最後の一行で、三人の胸に温かいものが確かに宿った。

真映らしいおかしな比喩に、思わず笑いそうになる――なのに、笑えない。

だって、その裏に、真っすぐな願いと、確かな想いが透けて見えたから。


杏子はメモを胸にぎゅっと握りしめ、柔らかく微笑んだ。

栞代は小さく息を吐き、眉間の力を抜くと、顔を上げた。

紬は一度だけまばたきをしてから、いつもの無表情のまま、しかしいつものセリフが口を出ることは無かった。


――鳳城高校。

高校弓道界の絶対女王。

でも、恐れる理由なんて、どこにもない。


三人は静かに立ち上がる。

その背中に、真映のメモの言葉が、確かな温度を持って灯っていた。


「行こう。」

「うん。」

「……行く。」


射場の静寂が、三人の決意を包み込むように深くなった。その瞬間、光田高校の三人は、仲間の想いという最強の武器をまとって射場へと向かった。





「――はじめ。」


審判の低い声が響いた瞬間、会場の空気ががらりと変わった。

ざわめきは、ひとつ、またひとつと波が引くように消え、そこに残ったのは張り詰めた緊張の匂いだった。


観客席。

光田高校の応援席から、祈るような気配が重なる。

真映は肩をぎゅっと抱き込み、指先まで白くして息を止める。

一華は眼鏡を押し上げ、データを信じて、でもそれ以上に仲間を信じて、唇を固く結んだ。

つばめは両手を合わせるように膝の上で握り、楓は膝を小刻みに揺らしている。


鳳城高校の応援席からも、ぴりりとした空気が伝わってくる。

お互いを意識せずにはいられない。

それでも――ここは静寂の檻だ。

声を出せない。その代わりに視線が矢のように射場へ向かう。


そして。


光田高校、大前。

栞代が静かに息を吐いた。

(ここまで来たんだ。もう、迷わない。)

指先のわずかな震えは、もはや気にならない。

弦を引き、真っ直ぐに的を見つめた。

放たれた矢は、吸い込まれるように真ん中へ――

的中。

一拍の静寂の後、場内に小さな拍手が生まれる。


鳳城高校、大前。

的場・ナディア・ヴィクトリア・アナスタシア。

彼女が立った瞬間、空気の色がわずかに変わった気がした。

長いまつ毛の奥、鋭い視線が的を射抜く。

(怖くなんてない。ここまで来たんだから。)

引き切った弦の音が高く鳴り、矢は鋭い音を立てて中心へ――

的中。

その姿に、観客席の誰もが息を呑む。


次に立つのは、紬。

彼女の顔は無表情。

(これは、わたしの課題じゃない。ただ、やるだけ。)

その手元から放たれた矢が、音もなく中央を貫いた。


すぐさま鳳城の二的、曽我部瑠桜が引く。

高校から弓を始め、並み居るエリートの中で這い上がった彼女は、鳳城高校の中で移植の存在だ。麗霞に憬れ、姿形もすべてを尊敬していた。

一瞬閉じた瞼を上げ、矢を離す。中心を打つ音が響き渡る。


そして――


杏子

この瞬間を、どれぐらいの気持ちを込めて辿り着いたのだろう。

観客席の祖父が思わず立ち上がりそうになり、瑠月が袖をそっと掴んだ。

(大丈夫……おじいちゃん、杏子ちゃん、大丈夫だから。)

杏子の呼吸は柔らかく、世界と自分の境目すら溶かしてしまいそうな静けさだった。

空気を纏う。

弦を引く音がする。矢が放たれる。

観客席で真映が目を潤ませる。

それはもう「当たる」と思う間もない。

――音が響き、的を打つ。


鳳城高校の落、麗霞が立つ。

その背筋はまっすぐで、風格をまとっている。

(杏子さん……初めて見た時に感じた想い。間違って無かった。あの時は確かにあった距離も、今はもう……)

矢をつがえ、呼吸を整え、全ての力を注いだ一射が、

澄んだ音を立てて、中心に吸い込まれた。

弓道。まさに理想の姿がここにあった。


観客席が揺れるような拍手に包まれる。

真映が小さくつぶやいた。

「……決勝戦、始まった……!」

その声がかき消されるほどの熱気が、会場全体に満ちていた。


――光田高校と鳳城高校。

王者を決める戦いが、いま幕を開けた。


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