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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
233/432

第233話 大会最終日 その2

会場の一角。

光田高校のメンバーが鳳城高校へ向かって歩み寄ると、すでに何度か顔を合わせたことのある選手たちが集まっていた。

練習試合で何度も見たあの立ち姿、あの空気感——特に、雲類鷲麗霞の凛とした佇まいは、やはり存在するだけで圧倒的だった。


麗霞は微笑を浮かべ、堂々としたまま一歩前に出る。

「光田高校のみなさん。よろしくお願いします。」


杏子は「えっ」と小さく息をのむ。

(……練習試合の時、少しだけ話したよね……でも……あ、あの時はつぐみが居てくれた。ってそれ去年か。今年はどうだったかな。思い出せない・・・)

肩がぴんと強張り、目をぱちぱちさせたまま、言葉が出てこない。


隣にいた栞代が肘で軽くつついた。

「……杏子、顔が固ぇぞ。」

「え、えへへ……」杏子はぎこちなく笑うが、やはり視線が泳いでいる。


「お久しぶりです、麗霞さん。」

栞代が軽く頭を下げると、麗霞は変わらぬ穏やかな調子で応じた。

「お久しぶりです。練習試合以来ですね。」

そして、杏子をまっすぐ見つめて——

「公式戦でこうしてお会いできるのを、楽しみにしていました。」


杏子は一瞬、胸の奥が熱くなるのを感じて、慌てて深く頭を下げた。

「きょ、杏子です! ……あ、あの……がんばりますっ!」

声が上ずってしまい、自分で赤くなる。


麗霞は、そんな杏子を見て、やわらかく微笑んだ。

「お互い、勝ち進んで——決勝でまたお会いしましょう」


「……はいっ!」

杏子は思わず背筋を伸ばし、今度はまっすぐ目を合わせて答えた。


(……やっぱり、この人、すごいな……)

緊張で心臓がどきどき鳴り続けているのに、なぜかほんの少し、背中を押されたような気がした。


麗霞は杏子の肩の力を抜かせるように、優しい目を向けた。

(練習試合ではすごかったけど……本番で同じ射が出せるのかしら……)

そんなことを心の奥で思っていた。今回、杏子が個人戦に出てきて居ないことから、本番ではどうなんだろう、と少し興味があった。


穏やかな空気が流れる——が、その後ろから、耳障りな声が響いた。


「なにが姿勢だよ。ほんとの強さはな、的に当てるかどうか、それだけだ。」


黒羽詩織が腕を組んで、睨みつけている。杏子が、そして光田高校が弓を引く時の姿勢をなにより大事に練習に取り組んでいることを知っていて、挑発する。


「あんたなんか、麗霞にかなうわけがない。今日、それを証明してやる。総体の時、杏子が居なかったけど、今回は居る。だから勝てると思ってるんだろ? 甘いんだよ」


「……あの……」

杏子が目を丸くして固まると、すかさず栞代が前に出た。

「おいおいおい、落ち着けよ。お前と対戦するわけじゃねーんだよ。」

栞代は、黒羽詩織が鳳城高校の不動監督に認められず、鳳城高校の冠、名誉を賭けた団体戦には出場させて貰えないことを知っていた。


「はぁ? なんだその態度は。」

「態度? 言いがかりつけてんのはそっちだろ。」

栞代の低い声が場をぴりっとさせる。

杏子のボディガートを自認する栞代は、杏子に向う刃を許さない。

杏子は「ひえっ」と小さな声を出して後ろでおろおろ。


「……Molemmat, rauhoittukaa… (二人とも、落ち着いてください)」

今までは冴子が止めに入っていたところだが、ここではソフィアがすっと間に入った。

「礼を重んじるのが、弓を引く者の誇りですよ。落ち着いて。」


だが詩織は睨みをソフィアに向ける。

「は? 外人に弓道の何が分かるんだよ」


一瞬、空気が凍った。

その時、後ろからすかさずあかねが口を挟む。

「じゃあ、的場・アナスタシアさんはどうなの? 鳳城高校の立派なレキュラーじゃん」


詩織の眉がぴくっと動く。

「的場はハーフだ。半分は日本人だからな!問題ない」

「へぇ~? でもさ、ソフィアの方が圧倒的に美人じゃんっ。」

「はあ? 何言ってんだ。的場の方が綺麗に決まってんだろ。」

「いやいや、的場さんも綺麗だが、ソフィアの圧勝だろ。ほら、ソフィアはサンタの国フィンランドから来てるんだぞ? ……あっ、でも詩織ちゃんは全然いい子じゃないから、サンタ来ないもんな。知ってる? サンタは良い子のところにしかこないんだよ。黒羽は見たこともないんだろうなあ」


にやにや笑いながら、あかねが言うたびに、火種が次々投げ込まれていく。


「馬鹿かっ。サンタなんかいねー」

「ほれほれ、これ見てみ。うちは全員ちゃんときたけどね~」コーチは除くけど。あかねも誰にも聞こえない小さい声で付け加えた。

あかねは今朝のカードをひらひらと黒羽詩織の目の前で泳がす。

「良い子にならなきゃね~」と最大限挑発する。

しかし、光田高校のメンバーのみならず、鳳城高校のメンバーも、クスクスと笑っているようだ。


詩織は完全に頭にきて、顔を赤くして言い返す。

「はあ? 美的感覚までズレてんのかよ、お前の目はどこについてんだ!」

「だからソフィアだってば。あ、ほら見てみ? あの横顔、完全に勝ってる。いっとくけど、ソフィア貶したら、光田のアイドルだから光田の全男子が黙ってないからな」

「馬鹿めっ。それは鳳城だって同じだっ」


栞代が隣で肩を震わせて笑っているのを見て、杏子はおろおろと視線を泳がせた。

(あ、あの……あかね、止めてる……のかな……? あ、でもなんか……楽しそう?)

その純粋すぎる頭で「仲裁」という言葉を一生懸命探すが、見つからない。


ソフィアは眉をひそめたまま、少し困ったように詩織を見ていた。まゆが心配し、ソフィア、大丈夫? と訊ねると、ソフィアは、穏やかに笑いながら、


「Täysin kunnossa. Minä uskon vain niihin sanoihin, jotka tulevat ihmisiltä, joihin luotan。」

と言った。「光田高校のみなさんのように」と付け加える。


頭に「?」マークが浮かんでいるメンバーに紬が

「「全く問題ありません。わたしが信じるのは、信じている人からの言葉だけです」と、ソフィアが言ってますが、これはわたしの課題ではありません」


ピリついていた雰囲気が、一気に和らぐ。


一方のあかねは、にやりと笑ったまま肩をすくめて続ける。

「まあまあまあ、落ち着けって。美人論争は置いといてさ~……でも、やっぱソフィアだよなぁ~。」


……仲裁を装いつつ、ソフィアの威を借るあかねで、引く気はないようだ。


そんなあかねと、そして紬の言葉に、光田高校側は笑いをこらえるのに必死だ。

対して鳳城高校側は、麗霞がため息をついていた。


さすがに周囲がざわつき始めたその時、

「詩織、終わろう」

麗霞の声が一段低くなる。

その場にいた全員が、ぴたりと動きを止めた。

「そんなこと言ってたら、いつまでも団体戦には出場できないよ」


「……っ、でも麗霞——」

詩織は口を尖らせて黙り込む。


その横で、曽我部瑠桜が一歩進み出て、静かに頭を下げた。

的場・ナディア・ヴィクトリア・アナスタシアも歩み寄ってきていた。

「失礼なことを言いました。光田高校の皆さん、どうかお許しください。」

その丁寧さに、光田高校の部員たちも軽く頭を下げ返す。

栞代が「いや、こちらも失礼した。決勝で会いましょう」と挨拶をする。


そして杏子は、ただただ深く礼をして、その場を離れる。

しかしやりとりを見ていた杏子はまだおろおろ。

「……あ、あの……その……」

栞代が杏子の肩をぽんと叩いて笑った。

「大丈夫だって。……あれ、多分、かぐやにだいぶやられた鬱憤が溜まってたんだろう。かぐやに対抗できるのは、うちの真映ぐらいなもんだ。いや、あかねも控えているか」

栞代はなぜかご機嫌だ。

「……そ、そうなのかなぁ……みんな、仲良くなれるといいのになぁ……」

杏子は目を細めて、まるで幼稚園児のように無邪気な表情を見せた。

「的場さん、機嫌悪くなってないかなあ」

「大丈夫だよ、杏子。最後こっそりソフィアと握手してたよ」

「うわ~。二人とも素敵っ」

「……ほんと、そういうとこ最強だな。」

栞代は半ばあきれつつ、杏子の頭をぽんぽんした。


一方で、まゆがあかねを褒めていた。

「あかね、さすがだね。話し逸らせつつ、攻撃するとは。まあ、的場さんもいい迷惑だけど」と笑う。

あかねは、

「そうだろ? だって、ソフィア、綺麗だもん」

まだ言うか。まゆは思ったが、口には出さなかった。


そこへ、かぐやとの一戦が終わったのか、真映、一華、楓と一年生が返ってきた。

何かただならぬ雰囲気を感じて、同じ一年生ながら、杏子たちと行動を共にしていた登録メンバーのつばめに、何かあったの、と楓が訊ねた。


つばめが一瞬戸惑いつつも、簡単にことの成り行きを話す。


真映は今更ながら、表情を変え、鳳城高校に向おうとするのを、楓と一華が抑える。

「大丈夫だよ。お前のボスのあかねがついてたから」

その様子を見た栞代が言った。そして、「なお、紬」


「それはわたしの課題ではありません」


「そりゃそーだ」栞代が笑いながら応えると、杏子も、あかねも、まゆも、そしてソフィアも笑いだした。

「真映とあかね、お前ら、口だけならゼッテー負けねえな」

と言うも、真映が

「ダンスなら負けるとでも?」

と返すと、栞代は大笑いした。

その笑い声につられて、光田高校の部員たちは再び和やかな表情を取り戻した。


もうすぐ、決勝トーナメントが始まる。



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