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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
231/432

第231話 団体戦二日目の朝。 その4

夜が明けきらないうちから、宿舎の廊下には水音や歯ブラシの音が響き始めた。部屋から出てくる光田高校弓道部員の顔には、どこか落ち着かない様子が滲む。手にしたタオルで顔を拭いながら、栞代があかねに、恐る恐る訊ねた。

「なあ、あかね、ちょっと聞くけど?」

「プレゼントのこと?」

「やっぱり来てたんだ」

「うん。でも、一年生と二年生では箱の中身が違ったみたいだよ」

「ほー。そうなんだ」

杏子も、矢筒をそっとベッドに置いた後、顔を洗いに出てきていた。


「やっばり、杏子のおじいちゃんしか考えられないんだけどさ。わたしとまゆにはさ」と、栞代に箱の中身を報告する。中身は杏子のおじいちゃんからのものとしか考えられなかった。


栞代も中身を聞かれて、

「矢立てだった。杏子と紬と揃いで」

それを聞いて、あかねは少し感心した。


洗面所の隅では、真映と一華が歯を磨きながら話し込んでいる。

「ねえ、鍵、閉めてたよね?」

「もちろんよ。なのにあれ、どうやって置いたんだろ……」

真映が、顔を泡だらけにしながら大げさなジェスチャーをした。

「絶対! 絶対部長のおじいちゃんの仕業だって! だってほら、面白いもん、部長のおじいちゃん。」

楓が苦笑いしながらタオルで顔を拭う。

「でも……それなら、どうやって入ったのか……。鍵、かかってたよ?」


杏子は長年分らない謎が、今日解決するのかもしれないと、少し期待しながらみんなの会話を聞いていた。


一華が洗面所の鏡越しに口を開いた。

「……謎を考えても仕方ないですね。謎を解いても、矢は当たりません。今日は大会最終日。わたしたちの夢が叶う日ですよ。集中しましょう」


そのやり取りを、後ろで髪をまとめていたソフィアがじっと聞いていた。そして、ほんのり笑ってから、しれっとした声で口を開く。


「みなさん、日本にもクリスマスってありますよね?」

「……え?」と、真映が振り返る。

ソフィアは淡々と歯ブラシを片付けながら続けた。

「別にサンタは、煙突からだけ来るとは限りませんよ。」

杏子の方に視線を移しながら、続ける。

「良い子にはクリスマスにプレゼントが届く。それだけのことじゃないですか。……みんなのところに届いたなら、みんな良い子だったんですよ。良かったですね。」

「……え……えぇぇぇ?!」

真映が口をあんぐり開けたまま大騒ぎした。

「ちょっと待ってよ、ソフィア!さん! サンタって……え、じゃああの手紙、やっぱり本物のサンタ?! なにそれなにそれぇぇぇ!」

「Mae、ソフィアって呼んでって、もう何度目ですか? それに、サンタのことなら私に聞いてください。」

ソフィアは髪を束ねながら、涼しい顔で言った。


「なんといっても、サンタはフィンランド、わたしの国に住んでますから。」

「えっ……そうだったの!? だからあんなワケワカラン言葉の手紙がついてたのかあああ!スマホ無かったら、全く意味ワカランとこでしたわ。ところで、ソフィアのところにも来たの?」

「もちろん。わたしはすごく良い子ですから」

と言って見せた笑顔は、さすがに光田高校アイドル部門ナンバー1の魅力に溢れていた。

真映が大きな声で手を叩いて笑う。洗面所の外まで声が響くほどだ。


いつもソフィアと遊んでいる紬には、あの和菓子が、ソフィアの祖母のリーサのものだと気がついていた。だから、杏子の祖父だけじゃない。ソフィアの祖母も絡んでいる。

でも、それをみんなに伝えることは無かった。

なぜなら。

それは、紬の課題では無かったからだ。


そのとき、廊下の向こうから拓哉コーチが険しい顔で歩いてきた。

「おい、君たち、何を騒いでるんだ? 中学生じゃないんだぞ。しかも今日は、大事な決勝トーナメントの日。君たちの辞書には、緊張という文字が載っていないのか? いいか、緊張というのはな、 心や体が張り詰めた状態になること。また、そのような状態にさせること。そして、 筋肉が収縮して硬くなることを言うんだ。ちゃんと掲載しておくように」


部員たちは慌てて背筋を伸ばしたが、真映がまだ肩を震わせている。

「だって、コーチ、緊張なんてしない方がいいじゃないですかっ」

「君たちは、し無さ過ぎだ。過ぎたるは及ばざるが如し、だ。高校生だから、意味ぐらいは知ってるだろう」


いつものクールさは保ちながら、いつもは考えられない口数だ。緊張すると、口数が増えるのが、コーチの特徴だった。

部員はそれを知っていたから、怒られているというより、ただでさえ笑いを堪えているのに、もう限界に近かった。


何があったか事情を聞いたコーチは、腕を組んで顎を撫でると、ふっと眉をひそめた。


「……おい、ちょっと待て。俺のところにはプレゼントはなかったんだが? どういうことだ?」

一瞬、全員が下を向いて黙った。

次の瞬間、ソフィアが眉尻を下げて、心底かわいそうという顔で言った。

「……きっと、良い子じゃなかったんですね、コーチ」

「ぶははははははは!!!」

限界に達した真映がその場にしゃがみ込んで笑い転げる。

「コーチ、良い子じゃなかったんだってさ!! あーっはっはっはっは!!!」

それにつられて、全員が声を出して笑い続けた。


コーチは頭をかきむしって苦々しげに

「君たち、年末年始の休みはなしだ!」と呟いた。


部員たちの笑い声が廊下に広がっていった。

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