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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
230/433

第230話 団体戦二日目の朝。 その3

まだ外は薄暗い。

クリスマスの朝。静かな宿舎。

窓の外の街灯が雪を照らし、その光が部屋の天井で揺れていた。


最初に目を覚ましたのは、栞代だった。

栞代は普段から危機管理能力が高い。親友・杏子が隣で寝ていることもあって、眠りは少し浅い。

耳を澄ます。隣のベッドの小さな寝息。

紬はまだ夢の中。杏子はいつも通り無防備な寝顔で、毛布を少し蹴飛ばしている。


「……杏子、風邪ひくって……」

そう小さくつぶやいて、毛布をそっとかけ直したとき、視線があるものを捉えた。


「……え?」


枕元に、クリーム色の包み。

緑のリボンが結ばれた、小さな箱。

さらに杏子の枕元にも、同じもの。いや――杏子のは、大きかった。

栞代は目をこすり、もう一度見直す。夢ではない。


ドアに目をやる。音を立てぬように歩き、そっとノブを確かめる。

――鍵は、間違いなくかかっている。内側から。しかも警戒心の強い栞代は、荷物をドアの前に置いて、ドアが開かないようにしていた。


「……何これ……?」


栞代は迷わず杏子を揺り起こした。

「杏子、起きて。……起きてってば。」

「……ん……? なに……?」

杏子は目をこすりながら、いつものおっとりした顔で体を起こす。

「……え? なにこれ……かわいい箱……」

と一瞬ぼんやりしたかと思ったら、

「……ふぇ……?」

「もしかして、クリスマスプレゼント?」


栞代が紬の方を見やると、紬もむくりと起き上がり、寝ぼけた顔で言った。

「それはわたしの課題ではありません」

「いや、そんな呑気な場合じゃないぞ。見てよ、紬。」

三人で視線を交わした瞬間、紬も自分の枕元の箱を見つけて目を丸くした。

「……私の課題?」


栞代は覚悟を決めて、自分の箱のリボンを解く。

ふわりと、和菓子の甘い香りが立ちのぼった。

中には、繊細な彩りの和菓子が並んでいる。それだけでなく、底には小さな布が見えた。

取り出して広げると、それは弓道の矢立て袋。柔らかな和柄の布地、紐の先には小さな飾り玉がついている。


「……これ……矢立て袋……?」


紬も自分の箱を開け、同じものを取り出す。

「……わぁ……おそろい……?」

指で撫でると、さらりとした布の感触が指先をくすぐった。

端には、高校名と名前の刺繍が入っている。


「……杏子のは……?杏子だけ箱がデカイけど?」


栞代の声に、杏子は自分の箱を開ける。

中には和菓子、そして矢立て袋――それと一緒に、深い藍色の矢筒が収まっていた。

杏子は思わず両手で持ち上げる。

「……え……こんな……いいの……?」

その端には杏子の名前が入っている。

矢筒の内側には、先ほどの矢立て袋がぴったりと入れられる仕様になっている。


徐々に頭がはっきりしてきた杏子がふと呟く。

「こんなところまでプレゼットって届くんだ」

杏子は胸に手を当てて、小さな声でつぶやいた。

「毎年、届くんだよね」

栞代は一瞬黙り、ゆっくりと笑った。

「……ま、おじいちゃんの仕業だろ?」


「だと思って、もう10年もおじいちゃんをチェックしてるんだけど。いつどうやって置いてるのか、全然分らない。去年も、おじいちゃん入院してて、わたし、横で寢てたんだけど。プレゼント届いた・・・・。おじいちゃん、管いっぱい繋がってて、動けないんだよ」


紬も頷く。

「ドアは鍵かかってるし、栞代が警戒心強いから、全員分の荷物、ドアの前だから、ドア

開かないもんね。


栞代も杏子も、紬の珍しい自由な発言に少し驚いた。きっと、紬自身、驚いていたからだろう。


三人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。

「ま、いっか。爆弾じゃなかったんだし。でも、オレ、警戒心強いから、寢てる時に誰かが側に来たら、絶対に起きる地震あるんだけどなあ」

「わたしは一度寝たらなかなか起きられないから。低血圧だから朝は苦手。だから最初は絶対にわたしの気がつかないところでおじいちゃんが持ってきてるって思ったんだけどなあ」

「杏子、なんか嬉しそうだな」

「ふふ。だっておばあちゃんも低血圧だから、同じなのっ」

ほんっとにこのおばあちゃんっ子め。同時におじいちゃんっ子でもあるからな。

「紬、どう思う?」

「それはわたしの課題ではありません」



窓の外が少しずつ明るくなっていく。

三人はそれぞれのプレゼントを胸に抱き、もう一度互いの顔を見た。

杏子が矢筒を抱え、栞代と紬が矢立て袋を手にした。


「……お揃いだね」

「うん。」

「いつも通りやれば、絶対に大丈夫。いつも通りに。普通に」

「さすが部長、普通の杏子と違うな」

「え~?」

「ま、オレら、コーチがどんな陰謀を企んでも慌てなくて、呆れてたぐらいだし、問題ないよな。それに、オレらには宇宙人が付いてるしなっ、紬」

「それはわたしの課題ではありません」


クリスマスの朝、試合の当日、選手3人は、いつも以上にリラックスした朝を迎えていた。

そして外では、決戦の一日がゆっくりと目を覚まそうとしていた。

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