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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
229/432

第229話 団体戦二日目の朝。 その2

朝の冷たい空気が、まだカーテンの隙間からもれている。

試合会場近くの宿舎、静かな廊下の奥。まゆとあかねが同室で眠っていた。


最初に目を覚ましたのは、まゆだった。いつもより少し早い。胸の奥に不思議な高鳴りがある。緊張か、それとも高揚か。そっと身体を起こす。


「……え?」


枕元に、箱。淡いクリーム色の包みに、緑のリボンがきっちりと結ばれている。手を伸ばすと、温かさすら感じた。


すぐに、隣の布団に目をやる。あかねの枕元にも箱がある。


「……なに、これ……?」


鍵をかけたはずの部屋。ドアに目をやり、杖を取り、そっと移動してノブを確かめる。――間違いなく、内側から鍵はかかっている。


まゆは、ふと唇を噛んだ。嫌な予感はない。むしろ、胸の奥が温かい。


「……あかね……起きて……」


小さく声をかけると、布団がもぞもぞと動いた。

「んん……? まだ暗いよぉ……」

「いいから、見て……これ……枕元に、置いてあったの……」


あかねが目をこすりながら、まゆの車椅子の足元を見て目をぱちくりさせる。

「……え、なに? え、プレゼント? まゆがもってきたん?」


まゆは、黙って首を振り、震える指でリボンをほどいた。箱の蓋をそっと開けると、やさしい甘い香りがふわりと広がる。和菓子が並んでいる。それだけじゃない。中には、厚みのあるアルバムが収められていた。さらに奥には、小さな弓道の“かけ”を模したストラップが添えられている。


「……これ……」


アルバムの表紙を開ける。ページをめくると、部員たち全員の写真。笑顔、練習中、試合後のガッツポーズ。後半に行くにつれ、杏子とまゆ、二人の写真が増えていく。笑い合い、真剣な目で矢をつがえる瞬間。そして最後のページを開いた時、まゆの指先が止まった。


――病室の写真。


杏子が、涙そのものこそ見せてないものの、明らかに泣きはらしたあとの目で、それでも笑っている。まゆは車椅子に座って、安心したように誇らしげに笑っている。奥には、おじいちゃんが小さくピースをして写り込んでいた。あの退院の日の、あの約束の、そのままの瞬間がそこにあった。


「……杏子……おじいちゃん……」

胸の奥が、ぐっと詰まる。指が震える。あの日の匂いと光と、杏子の姿が一気に蘇ってくる。


「あかね……これ……」

まゆの声はもう涙でかすれていた。


あかねは目を丸くしたまま、自分の箱を慌てて開ける。和菓子、ミニチュアのかけ、そして額縁に入った一枚の写真。それは県内選手権の表彰台。杏子の圧倒的な射が相手を圧倒したあの日、まゆが初めて的を射抜いた瞬間、あかねが支えた瞬間の記録だ。


「……あはは……これ、最&高の瞬間の写真じゃん」

あかねは目頭を押さえ、でもすぐに笑顔になった。明るさが戻ってくる。

「ねえまゆ、これ、どう考えてもおじいちゃんの仕業だよね?」


まゆはうつむいたまま、カードを握りしめていた。そのカードには、見慣れない文字が並んでいる。


Rakas Mayu,Kiitos, kun olit silloin pamyuko’n vierellä ja tuoit hänelle voimaa.Sinun ansiostasi pamyuko voi nyt seistä täällä ja ampua jousellaan.Olkoon tämä pieni lahja voimaa antava matkallesi.– Joulupukki

(親愛なるまゆへ。

あの時、ぱみゅ子をそばで支えてくれて、本当にありがとう。

まゆがいてくれたから、ぱみゅ子は今ここで弓を引くことができるんだよ。

この小さな贈り物が、これからのまゆの力になりますように。

―― サンタクロースより)


スマホの翻訳で意味を確認した瞬間、まゆはカードを胸に抱きしめた。


「……あの時……私、杏子を……ちゃんと支えることが出来てたのかな……」

「あたりまえじゃん。まゆがいたから、杏子は立て直せたんだよ。」


あかねの声は、からっとした明るさの奥に、深い優しさがあった。


「ちょっと待ってよ」

あかねは、自分の箱に入っていたメッセージを、スマホで翻訳した。


Rakas Akane,Kiitos, kun toit silloin joukkueelle turvaa ja rauhaa.Mayu ja pamyuko ovat sinulle sydämestään kiitollisia.Olkoon tämä pieni lahja voimaa antava matkallesi.– Joulupukki

(親愛なるあかねへ。

あの時、すぐにチームに、安心を届けるために頑張ってくれてありがとう。

あかねの行動には、まゆもぱみゅ子も心から感謝しているよ。

この小さな贈り物が、これからのまゆの力になりますように。

―― サンタクロースより)


それを読んだ瞬間、あかねが笑いだす。

「ぱみゅ子って。絶対にこれ、杏子のおじいちゃんじゃんっっ」

「でも……どうやって? 鍵かかってたよね……」

「はははっ……サンタだと、こういうの普通なんじゃない? 杏子のおじいちゃん、顔広いからな。きっとサンタともツーカーなんだろうよ」


二人は顔を見合わせ、涙をぬぐって笑った。


窓の外では、うっすらと夜が明け始めている。白い光が差し込み、まゆのアルバムのページをやさしく照らした。写真の中の笑顔が、今この瞬間とつながっている気がした。


「今日、きっと大丈夫だよね」

「うん。なんといっても杏子は宇宙人だから。きっとフォースとかテレパシーとかマジックパワーとか、特別な力を発揮するに違いない。だって、わたしたちの時もそうだったじゃん。あの海浜中央だってずっと杏子に飲まれてた。同門対決の時も容赦せず、栞代もソフィアも紬も飲み込まれてたもんっ。きっと、麗霞さんが弓を引くとき、ホコリが鼻に入ってくしゃみするよっ」


あかねは自分で言ってて、大笑いした。でも、本当は、そんなことが無くても、絶対に勝つ。そう信じていた。


まゆとあかねは、互いのプレゼントをそっと見せ合いながら、もう一度笑顔を交わした。外では大会当日の朝が、静かに、しかし確かに始まろうとしていた。



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