表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
222/433

第222話 個人戦 その2

選抜女子個人戦・決勝競射――聖夜に響く十一本の弦音


予選、準決勝を射ち抜いた11人の呼吸だけが空気を震わせた。一本外した瞬間に脱落――極限の方式。五射目からはさらに的が直径36 cmから24 cmへと縮まり、緊張は指数関数的に跳ね上がる。


全国で名を馳せる強豪たちも、今はただ一本の矢で己の季節を決める。


第一射:全員的中 ――序章


11本の弦音が木霊し、11本の矢が揃えて沈む。観客席の息を飲む音が聞こえる。その中でも、ひときわ目を引く2本の矢があった。。


・雲類鷲麗霞――矢所が寸分違わず中央。「的の方が寄ってきた」かのような王者の風格。

・篠宮かぐや――一点の狂いもないが、離れの直後、ふと夜空を見上げるような視線が揺れる。「明日イブなのに会えない……」そのわずかな想念を、まだ誰も知らない。



第二射:最初の綻び


森本莉穂(福岡女学院)がわずかにかすめて脱落。強豪県の伝統校らしい豪快な気合が、硬さへと反転した一瞬だった。


第三射:静かな足音


的芯を穿ち続ける10人。


ここで、本田杏(浦和麗明)、山本珠里(金沢錦丘高校)が僅かに外す。測定の結果、山本珠里が僅かに近い。


第四射:静かな足音


ここで野蒔柚葉(厳敷高校)がわずかに下へ外れる。彼女は、厳敷高校でつぐみを慕い、助けた、まさにその人だった。苧乃欺監督退任のあと、まさに放たれた矢のように成長を見せ、つぐみに会いたい一心でここまで来ていた。


第五射:的、24 cmへ――運命の収縮


小さくなった的は、大きな試練を課してくる。篠宮かぐやのお守り役と言われる真壁ひな(鳴弦館高校)が、そして、県大会でつぐみを破った有栖川千紗(鳳泉館高校)が、同時に外し、測定へ。僅かな差で有栖川千紗。


第六射:雲類鷲麗霞、篠宮かぐや、黒羽詩織、小鳥遊つぐみ、栞代


誰もが一歩も引かない。


第六射:三者同時脱落――遠近法の冷酷


つぐみが、離れの瞬間に軸が浮く。黒羽詩織、気迫は十分、だが会でわずかに肘が震え、矢は赤外へ。ここで脱落。そして杏子の想い、つばめの想いを背負う栞代も、僅かに外す。


対して、頂点で競う、二人が残る。


雲類麗霞――革紐の弦音が澄み渡り、矢は中心へ吸い込まれる。観客が息を呑む度、女王のオーラが増幅される。


篠宮かぐや――ほぼ同じ軌跡。しかし微妙にはずれだしている。心が囁き、肩線が紙一重だけ緩んだ。


遠近、測定により、黒羽詩織、小鳥遊つぐみ、栞代、の順になる。


第七射:運命の二強


残るは雲類鷲麗霞と篠宮かぐや。


かすかに狂い始めるかぐやの矢と、無言の圧力を纏う麗霞。微妙な差が、はっきりと現れたのは、しばらく先のことだった。


女王・雲類鷲麗霞、完全無欠の優勝。24 cm的小的での連続皆中という異次元の偉業。


篠宮かぐやはそれでも姿勢を、礼を崩さない。敗北の痛みよりも、まだ届かない高みがあることへの燃えるような思いが支える。


麗霞は静かに微笑み、かぐやに向ける。称賛でも挑戦状でもない、ただ「待っている」という女王からの合図。


最終順位

順位選手学校

1雲類鷲麗霞 鳳城

2篠宮かぐや 鳴弦館

3黒羽詩織 鳳城 遠近法

4小鳥遊つぐみ 千曳ヶ丘 遠近法

5栞代 光田 遠近法

6真壁ひな鳴弦館

7有栖川千紗 鳳泉館高校 

8野蒔柚葉 厳敷

9山本珠里 金沢錦丘高校 遠近法

10本田杏 浦和麗明 遠近法

11森本莉穂 福岡女学院 



余韻――それぞれの星を追って


つぐみと柚葉

「柚葉、あんたとは苧乃欺に隠れて一緒によう練習したな。苧乃欺大嫌いやったから、苧乃欺の前では絶対に当てんかったけど、まさかこんなに強くなってるとはな。驚いたわ」

「つぐみさんが、杏子さんたちに会いたいからって気持ちがもうめっちゃ分りました。わたしも、つぐみさんに会いたくて、で、褒めてもらいたくて、頑張ったんです」

「ああ、めちゃくちゃすごい。めっちゃ褒めるよ。強くなった。ありがとう、柚葉」

「はいっ」柚葉の目には涙が見える。

「でもな、柚葉。次は会うだけやてい、本気で乗り越えにおいでよ。それが恩返しっちゅうもんやで。ま、返り討ちにしてやるけどな」

つぐみも笑いながら、目には涙が見えた。そして、横にいた栞代に、

「栞代、お前もめっちゃ強くなったなあ。1ミリ差で負けるとこやった」

「勝つことが恩返しってことらしいかなあ」栞代は笑う。

「強くなるとは思ってたけど。栞代んところは環境もええしなあ」少しつぐみが羨ましそうに言うと

「確かにな。杏子居るからな。でも、弱音吐くなんてつぐみらしくないで」

「あほ、弱音ちゅう。単なる事実や。でも、夏がほんまに楽しみやな」

「夏はな。絶対に杏子が居るで。ほんま、杏子、一皮剥けたで、つぐみのおかげで」

「そうか。それは楽しみやな。ガチの杏子を越えられたら、多分、麗霞も越えられると思うからな」

三人の話しは尽きないようだ。



試合会場を出たかぐやは、足を止めたまま震えていた。唇をかみしめ、悔しさを必死で押し殺している。顔には強張りがあり、目だけはずっと潤んでいた。


そんなかぐやに、静かに真壁が寄り添う。

真壁(小声で):「「かぐや、だいぶ大人んなったなぁ。最初は、また大声でわめくっちゃなかか思うたとばってん…」」

かぐや(少し笑いかけて):「「わめいたっちゅうても、結果は変わらんどもんな…」と呟き、唇の端から涙がぽたりとこぼれた。


その瞬間、真壁はそっとかぐやを抱きしめるように腕を回し、優しく声をかけた。

真壁:「泣いてよかとよ。悔しかったら、泣いてよか。ずっと、うちがついちょっで。」」


呼吸音が近づき、かぐやはしばらく真壁を見返してから、大きく肩を震わせた。そして、ついに膝が折れるように身を委ね、声を震わせて号泣した。


その背中を、真壁はそっと撫でながら、その存在を、まるで母親のように寄り添い続けていた。


そしてその二人を、鷹匠がずっと見守っていた。


黒羽詩織が、麗霞に話しかける。

「麗霞、麗霞を超えたいのに、夏に続いてまた壁が居った」

麗霞は穏やかに話しかけた。

「詩織、詩織はとても自由奔放で、それがすごく魅力的。でも、それだけでは、届かないところがあるみたいよ。夏も、日比野さんの気持ちに、今は、篠宮かぐやさんの気持ちに。気持ちの強さが、二人にはあったわね」

「う・・・・。たかが弓道ごときに、そこまで・・・・」

「うん。その自由さが、詩織の魅力だもんね。詩織がどうしたいか、どうなりたいかだから」


誰より静かに、しかし誰より高く。女王は歩き出す。背中に揺れる弓懸が月光を弾き、白銀の軌跡を描いた――新たな挑戦者を受け止める準備は、いつだってできている。


そして夏には、始めて見た時から気がついていた、最も手強く、最も予測できず、最も心を揺さぶられた――そんな相手、まさに畏怖する存在が向ってくるはず。


だが、まずは明日の団体戦。

きっと明日、あの光田の少女と——はじめて真正面から、全国の舞台で相まみえる。

あのまっすぐな射に、触れる時が来るのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ