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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
213/432

第213話 練習試合前夜

「なんだよこれ?」


栞代のこめかみがぴくぴくしてるのが分かる。ゲラを持っている手が震えている。


「あ、栞代さん、落ち着っどくさー」

篠宮かぐやと真壁妃那が、まるで申し合わせたかのように声を揃える。二人の慌てぶりが、事態の深刻さを物語っていた。


「陰謀論どうのってより、杏子がクラブで浮いてるとか、信頼なくしたとか、仲間外れにされてるとかなんやねん、これ?」


栞代の声には、明らかな憤りが滲んでいた。杏子を守ろうとする彼女の気持ちが、言葉の端々から伝わってくる。


「いやいや、そいまでは書いちょらんかったっちゃが」

かぐやと妃那が再び声を合わせて答える。


真壁妃那が続けて説明を始める。


「こい、ほかから広まるかもしれん思うて伝えたとやっけど、多分、ほんとは記事にはならんはず。あの、陰謀論とか、その辺の話やっけどね」


「ん? そうなの?」栞代の表情に、わずかながら安堵の色が浮かんだ。


「まあ、これほんと、こっち来る途中で知ったっちゃけど。かぐやのおじいちゃんからやったとよ。かぐやのおじいちゃん、知っちょっと?」


「いや」


「黒曜練弓流の家元なんよ。かぐやさんのこと、大事にしちょっ人でさ。流派のきまりで、今はかぐや、破門っちゅうか、ちょっとそんな扱いになっちょっから、余計に気にかけちょっとよ。わたしは後からついてきた方やっけど、前の部長の鷹匠先輩は、家元さんからしっかり頼まれちょってね。だから、今回もずっとそばにおるっちゃが。」


「なんか、うちにも似たような話あるわ」


栞代は杏子の祖父の姿を思い浮かべていた。孫娘への無償の愛を注ぐ姿が、心の中で重なる。


「お父さんは、落ち着いちょっ人なんやけどね。」

「それも、うちと一緒やなあ」栞代は、杏子の祖父と父を思い出し深く頷いた。


「でね、さっきも言ったっちゃけど、記事自体はそんなに心配せんでよかとよ。とにかく家元かぐやのおじいちゃん怒らせたら、そりゃぁ恐ろしかよ。たぶん、本気になったら、日本沈没させるくらいの力も持っとるごたっちゃもん。」


「どこまで似てんねん。まあ、うちは、本人自体にはそんな力はないけど。なんか、知り合い多いからなあ」

「まあ、記事ば読めば、そいが分かるっちゃね。」


二人の間に、一瞬穏やかな笑いが生まれた。その間、かぐやはスマートフォンで恋人とのやり取りに夢中になっているようだった。


「んー、さっきも言うたっけどさ、どこから話が漏れっか分からんけん、一応知らせとこうと思ってたとよ。」


「ああ、気をつかってくれてありがとう」


栞代がそう伝えると、妃那はスマートフォンから目を離そうとしないかぐやを促して、二人は合宿施設の廊下を静かに歩いて行った。


栞代はゲラを手に、拓哉コーチのもとへ向かった。夜の廊下には、彼女の足音だけが響いている。


コーチに一部始終を説明すると、拓哉は短く「分かった」とだけ答えた。その冷静な反応は、すっかりいつものコーチだった。


「みんなには言う?」

栞代の問いに、拓哉は少し考えるような表情を見せる。


「さて、どうしようか。少し考えてみよう。栞代さんは、明日の試合に集中して」


「杏子には?」


「どちらにせよ、明日の試合が終わってからにしよう」


コーチの判断に、栞代は頷いた。


(もしかすると、コーチは既にこのことを知っていたのかもしれないな)

そんな思いを抱きながら、栞代は部屋へと戻って行く。


部屋に入ると、杏子から先ほどの件について尋ねられた。

「少し嫌な記事が出るかもしれないな」

「どんな?」


「まあ、身体に悪いことは、できるだけあとで知った方がいい。明日の試合に集中しよ」

栞代がそう答えると、真映が勢いよく割り込んできた。

「なになになに? 二人で首脳会議? わたしも首脳だから入る権利ありますよね」


「真映は自分の部屋に戻ってはやく寢な」

栞代が諭すように言うと、真映は子どものように駄々をこね始める。

「いや~。わたし、ここで寝る~」


「ふ~。一華と楓が心配するから、帰れ」

「いや~。ってつばめも心配てるはず~」


「まあ、いいじゃない、栞代。詰めれば寝られるよ」

杏子が穏やかに仲裁する。

「ふ~。紬、どう思う?」

「それはわたしの課題ではありません」


「しょーがない。明日は試合だからなあ。とにかく、はやく寢よう」

栞代は呆れながら、諦めた。

「わたし、部長の横で寝る~」

真映が嬉しそうに杏子に抱きついていた。

「おい、ちょっと待て真映。部長の横はまゆって決まってるんだよ」とあかねが抗議する。


あかねと真映、そしてまゆ。三人のやりとりを見ながら、これのどこが浮いてるんだよ。モテモテじゃねーか。と、栞代はさっきのゲラの記事を思い出しながら苦笑した。


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弓道フロンティア編集部 御中

拝啓


平素より弓道界の発展に寄与されている貴誌『弓道フロンティア』のご尽力に、深く敬意を表します。


さて、近日発売予定とされる次号にて、全国選抜大会に関する展望記事が掲載されるとの情報を耳にいたしました。まだ発売前ではございますが、事情により当該記事の校正ゲラを目にする機会があり、少々気になる点がございましたため、差し出がましくも一筆申し上げます。


当校・鳴弦館高校弓道部の扱いについて、わずか数行の記述にとどまっており、特集のバランスにやや偏りが見られる印象を受けました。もちろん、各校の実績や注目度に差があることは承知しておりますが、当校も昨年度の総体では三位という成績を残し、過去の総体、選抜大会とも、実績を残していると自負しています。


とりわけ、現主将・篠宮かぐやを中心とした布陣は、黒曜練弓流の伝統と技術を受け継ぎ、日々厳しい鍛錬を積んでおります。弓に対する姿勢は真摯であり、また、弓道精神に深く根ざした実直な射を信条としています。


本校を取り巻く環境や背景については、多くを語らずとも、弓道界の方々にはご理解いただけるものと存じます。ささやかながら、門下の動向や姿勢が、弓道界に与える影響も少なくはないものと考えております。


つきましては、記事構成のご検討に際し、当校へのご配慮を賜れれば幸甚に存じます。誌面の一部調整により、読者の皆様にもより幅広い視点で各校の実力をご覧いただけることと信じております。


末筆ながら、貴誌のますますのご発展と、次号のご盛会を心よりお祈り申し上げます。


敬具


鳴弦館高等学校 弓道部 顧問

東雲 浩一郎

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