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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
211/432

第211話 練習試合前夜の邂逅

鳳城高校への到着


十二月の夕暮れが、バスの窓ガラスに淡い金色を映していた。光田高校弓道部のメンバーたちを乗せたバスは、なだらかな丘陵地帯を縫うように進み、やがて壮大な校舎群が視界に飛び込んできた。


「いつ見ても立派だなあ……」

あかねが感嘆するも

「いやいや、わが光田高校の弓道場の方が味があるって」

と真映が応えも「味があるって、古いの言い換えだからなあ」とあかねは止まらない。


栞代が息を呑む。夕陽に照らされた校舎は、まるで古城のような威厳を放っていた。日本一と謳われる施設を有する弓道の名門校。その敷地の広さは、光田高校の三倍はあろうかという規模である。


バスを降りると、冬の澄んだ空気が頬を刺した。正門から続く石畳の道は、両脇に植えられた常緑樹によって美しく整備されている。遠くには、合宿施設と思われる建物群が、まるで小さな村のように点在していた。


「光田高校の皆さまですね」


振り返ると、一人の女子生徒が駆け寄ってきた。制服の上にトレーニングウェアを羽織り、息を弾ませながらも、丁寧にお辞儀をする。


「申し遅れました。一年生の藤沢梓音です。今日はご案内させていただきます」


梓音の声は、冬の空気のように澄んでいた。彼女の後ろには、既に夕暮れの練習を終えたのか、鳳城高校の弓道部員たちが三々五々歩いている姿が見える。


梓音に案内されて合宿施設へ向かう道すがら、杏子たちは鳳城高校の規模に圧倒されていた。メインの弓道場は、体育館のような巨大な建物で、ガラス張りの外壁からは、整然と並んだ射場が見える。


「春からまたでっかくなってる?」あかねが呆れる。


「こちらが第一弓道場です。国際大会の規格にも完全対応しています」


梓音の説明に、杏子は静かに頷いた。光田高校の弓道場も決して狭くはないが、ここは別次元だった。公式大会も十分に対応できる。射場の向こうには、的場まで続く広大な空間が広がっている。


「合宿施設は、こちらになります」


案内された建物は、和風の意匠を取り入れた三階建てで、まるで高級旅館のような佇まいだった。玄関を入ると、畳敷きの広間があり、そこには既に鳴弦館高校の部員たちが荷物を整理している姿があった。


「あら、光田高校の皆さん」


振り返ったのは、見覚えのある制服を着た女子生徒だった。鳴弦館高校の部員たちは、練習を一段落させたところらしく、道着から普段着に着替えた者もいる。


「先に失礼いたしました。明日はよろしくお願いします」


鳴弦館高校の部長真壁が、丁寧に挨拶をする。杏子たちも挨拶を返し、それぞれの部屋へと向かった。


部屋は和室で、六畳ほどの空間に布団が三組敷かれている。窓からは、ライトアップされた弓道場が見え、まるで絵画のような美しさだった。


「明日が楽しみだね」


杏子が呟くと、栞代も同じような思いを抱いているのか、静かに頷いた。


夕食後、光田高校の部員たちはトレーニングウェアに着替え、基礎練習のために弓道場へと向かった。第二弓道場は、合宿用の施設だが、十分な大きさの規模である。


巻藁での基礎練習から始まり、短時間ではあったが的前練習も行った。鳳城高校の施設の素晴らしさに圧倒されながらも、杏子たちは集中して練習に取り組んだ。


「やはり、環境が違うと気持ちも変わりますね」

楓が感慨深げに呟く。確かに、これほど整った環境で練習できるのは、貴重な経験だった。


練習を終え、道具を片付けていると、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。

篠宮かぐやの登場。


「きょーこー、きょうこきょうこきょうこー」


その声に、杏子は振り返った。廊下の向こうから、華やかな笑い声とともに現れたのは、篠宮かぐやだった。彼女の後ろには、申し訳なさそうな表情を浮かべた真壁妃那が続いている。


「は、はい」


杏子は戸惑いながら応える。あまり話したことがないにも関わらず、かぐやの親しげな態度に面食らっていた。その横では、栞代がきっちりとガードの姿勢を取っている。


「いや、杏子さん、栞代さん、ほんっとお騒がせいたしましてすいません」


真壁が深々と頭を下げる。その真剣な表情に、栞代も表情を和らげ、二人の目が合った瞬間、何か通じ合うものがあったのか、しっかりと握手を交わした。


雑誌記事の件


「きょーこー。聞かせて聞かせてなぁ。うち、もうめっちゃ聞ぎちょったんじゃっど…うちのあの鷹匠部長、いや、元部長が東雲監督様から特命受けたちいうわけで、ずっとマークしよったっど。ほんで、聞かれんかったんだよねぇ。」


かぐやの言葉に、杏子は「はい」と短く応える。


「今んと、なんか監督さんと打ち合わせしちょっど。もう三年生で卒業すっが、進路も決まっちょっし、暇んじゃろなぁ。やっせんよ、まっこと。」


「はい」


杏子の反応から、戸惑いの色は消えない。しかし、かぐやは気にした様子もなく、話を続ける。


「ずーっとおかしか思っちょったとよ。杏子ってさ、地味っ子じゃっが。だっから最初んときはな、一生に一度、思い出んために綺麗になりたかっち思ったっちゃが、ちごたっが。」


「おい、待て待て。その話題はもういいだろ。もう終わったことだ」

栞代が遮るように声を上げる。


「いや、たしかにそいはそいじゃっがさぁ。」

そう言って、かぐやは封筒を取り出した。


「こい、まだ雑誌は出ちょらんとやっけど、そのゲラち言うとよ。これな、今度の選抜大会ん優勝候補ば、鳳城、鳴弦館、光田に絞っちょっち言う特集なんよ。だいたいな、本命が鳳城っちゅうとはわかっけどな、なんで対抗が光田な? 対抗はこのかぐや様やっが。ん?」

かぐやが、杏子の顔を覗き込む。


「言いたいことはそれだけか?」


栞代が呆れたように尋ねる。


ああ、ちごっが。それ、うち、もう、めっちゃ抗議しっくいやっか思っちょったとよ。うちはな、その気になったら、麗霞なんか梅雨ん雨みたいなもんじゃっで。」


「その例えワカラン」


「ああ、ごめんね。栞代んにはちょっと文学ち過ぎたごたっどな。」


「栞代さん、ごめんなさいね。病気じゃっで、気にせんで聞き流してもろたらよかです。」


真壁がすぐさま付け足すと、栞代は「大丈夫大丈夫」と、胸の前で手を上下させる。


かぐやは一気に話し続ける。


「でな、それでよ、あの総体の杏子が、似合わん化粧して生意気にもめっちゃ綺麗じゃっが、髪型も決まっちょっし、服もキマっとって、しかもそんな格好で全部的中させて弓道関係者みんなビビっとって、ネットでも一気にバズって、“場違いな美人弓士”現れるち騒がれたっど。でもほんとは実物全然地味子やし、わたしの方が圧倒的に美人で可愛くて魅力的やっち思よっどに、不公平じゃっが。“化粧させてよろ”事件のことも載っとったんじゃ。」


「真壁、訳してくれ」

栞代が呆れて言う。


「総体ん時の件に、なにか裏があったっちゃなかっかい、て載せらるっかもしれんとです。」


真壁の説明に、栞代の表情が曇る。

「えっ。今更。もう静かにしておいてくれんかな」


そう言いつつ、栞代は、杏子に、先に部屋に帰っておくように促す。

杏子は杏子で、栞代はこの話題が嫌いなことを知っているので、素直に部屋に戻った。


杏子の姿が無くなったことを確認し、栞代はゲラを受け取った。


栞代はイヤな予感を抱えながら、ゲラを読み進めた。



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