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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
2年生
191/433

第191話 個人戦

個人戦が始まる。


優勝か準優勝。二人のみが全国大会への出場権を得る。


各校のエースたちが揃い、強豪校は複数の選手が一次予選を通過している。


そして二次予選と静かな熱を宿した的場を射抜き続け、光田高校の杏子、栞代、つばめ、紬の四人が揃って準決勝に駒を進めた。


準決勝ともなると、名だたる強豪校のエースたちがひしめく。決勝進出への条件は4射中3射以上の的中。予選からこの条件をクリアし続けなければならない。厳しいものだったが、それでも光田の四人は動じることなく決勝への扉を開いた。


決勝には川嶋女子の前田霞、篠塚こはる、海浜中央高校の柴崎結衣、青竹高校の小野寺飛鳥という強者が名を連ねていた。


決勝。空気が極限まで張り詰めるなか、柴崎、小野寺、そして紬が惜しくも続けて脱落する。紬は悔しさを隠しつつも堂々の個人戦6位の成績を残した。


競技はさらに苛酷になる。5射目以降、的は小さくされ、篠塚、前田と川嶋女子の二人が続けて脱落し、光田高校の三人だけが残る展開になった。


杏子の表情に微かな影が差す。彼女にとって同門対決ほど苦しいものはない。いつもは静謐な宇宙のように自分だけを見つめている杏子が、急に結果や周囲を気にし始めていた。


それでも、十分に予想されたこの展開。


試合前、コーチも軽く声をかけていたが、栞代も杏子を心配して声をかけていた。


杏子にずっと寄り添っていた栞代は誰よりも分かっていた。


同門対決に極端に弱い杏子。

気持ちが姿勢以外に向うと、とたんに結果が出せない。

常に結果はたまたま、と超越したところを見せている杏子が、とたんに結果を気にする。当てようとして外すなら普通だが、当てていいのかと思う迷うところがやっかいなところだ。なによりも、恐いのは、そのことで姿勢を崩すことだった。


自分の姿勢のことだけを考えて弓を引く。

いつも自分でみんなに言い続け、そして見事に証明し続けているのに、対戦相手が同門、同級生、友人、知ってる相手であればあるほど、杏子の気持ちは揺らぐ。


杏子の唯一にして最大の弱点だ。


今は頻繁に連絡を取っているつぐみからも、そこをフォローしてやってほしいと言われてた。特に、つぐみとの対決を楽しみにしているつばめに対して、杏子が無心を保てるか、心配していた。

正々堂々と勝ちたいつぐみが、杏子に対して望んでいたことでもある。いつも通りに実力を発揮してほしい。妹のことを思いつつ、杏子にも心をむけるつぐみに、栞代はつぐみの弓に懸ける思いを感じた。


つぐみと同じ的前に立ちたい。姉を超えたい。

その思いから、杏子に必死に付きまとい、指摘を受けていたつばめ。

そんなつばめに対し、平常心を続けることができるのか。誰よりもつばめの思いを受け止めていたのが杏子なのだ。


栞代は、困った時は、杏子に、おばあちゃんに最高の姿を見せよう、と声をかけてきた。

杏子の祖母に対する思いはなによりも強い。

が、今回は、そこに苦渋の選択ながら、おじいちゃんにも参加させた。いいところを見せてあげよう、おじいちゃんを喜ばせよう、と声をかけていた。


効き目あるよな。おじいちゃんも好きって言ってたもんな。


栞代は栞代で、少し俯瞰して試合に挑んでいた。力が入りすぎるところがあった栞代だが、そのことが功を奏し、的を外さずに残っていた。なによりも栞代は、いつも杏子と寄り添うという思いが強かった。


杏子にいつも通りであってほしい。


しかし、その祈りは届かなかった。三人だけになった瞬間、杏子の弓が揺れ始める。姿勢の乱れは彼女の内面を露呈するかのようだった。それでも辛うじて一本を当て、栞代も、つばめも続いた次の瞬間、杏子は迷いを振り切るように静かに矢を置いた。


棄権したのだ。


栞代は恐れていたことが起こったことを悟った。

つばめは、驚きを抑えきれないまま次の射を放つ。杏子が自ら道を譲ったことに動揺しながらも、つばめは姉との対決を望む切実な思いを込めた一本を的中させた。が、その後すぐに崩れた。緊張の糸が切れたのか。もうすでにいっぱいのところに来ていたのだろう。


結果、栞代が優勝、つばめが準優勝となり、全国大会の切符を手にした。


試合終了後、複雑な顔をしていた杏子ではあるが、栞代とつばめに祝福の声をかける。つばめは素直に喜んでいたが、栞代は返す言葉がない。


祖父母が杏子の元に近寄ると、彼女はまるで幼子のように祖母の胸元に身を寄せた。


「杏子ちゃん、素晴らしかったわ。最後まで立派だったわ」


祖父もまた優しく微笑んだ。

「ぱみゅ子の選択は、いつだって間違ってない。無理して射型を乱して弓を引くより、よっぽどいいもんな」

いつもの明るく、無邪気な声だ。

杏子は安心したように祖父を見つめた。


栞代は複雑だった。杏子を勇気づけようと祖父まで持ち出したのに、結局杏子の壁を越えさせられなかったという悔しさが彼女を苛立たせる。祖父に鋭い視線を向けた。


それには気づかないふりをし、祖父は声をかける。

「お~栞代、優勝おめでとう。でも、杏子の方がすごいんじゃぞ」


無邪気すぎる祖父の言葉に栞代は苛立ちつつ、「分かってるよ、そんなこと」と、ふくれた。


その様子を見て、場の空気を和らげるように紬がいつもの調子で呟く。

「それはわたしの課題ではありません」


その一言で栞代はふっと力を抜き、「そりゃそーだ。正しいよ」と笑った。重かった場の空気が柔らかく解けていく。


誰もが杏子の持つ圧倒的な才能を認めつつ、その弱さをも深く理解し、心配していた。


杏子自身はまだ自分の心の迷いに答えを見つけられずにいた。彼女の目標は団体戦の金メダルだ。その目標が知らず知らずのうちに個人戦の敗北を許す言い訳になってしまっているかもしれない。

そのことをコーチの拓哉は痛切に感じていた。拓哉の肩には杏子を導く重い責任が静かにのしかかっていた。




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